<其の805>たけしさんじゃない方の映画「首」(’68)

 何気に忙しく・・・間が空きました(デヴィッド・クローネンバーグの新作「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」を観る時間もなかった!)。もう9月も下旬だというのにー猛暑はいつ治まるんかいな??

 

 筆者も“構想外”の新作レビューが続いたので・・・今回は久々に過去の知る人ぞ知る作品をご紹介^^。

 森谷司郎(もりたにしろう:1931~1984)といえば「日本沈没」(’73)、「八甲田山」(’77)、「動乱」(’80)等の大作映画で知られる監督。ただ数々の青春映画も演出していたりする、あなどれないキャリアの持ち主だ。そんな彼が1968(昭和43)年に監督した作品が「首」。長年、ソフト化されていなかったものの、先日DVDが発売された。今秋公開予定の北野武監督最新作と全くの同名でややこしいが・・・このタイミングを東宝さんは、、、狙ったのかしら??

 

 第二次大戦中の昭和19年1月、茨城県ー。採炭業の男性が賭博及び闇物資横流しの嫌疑で拘束された。ところが程なく彼は取り調べ中に亡くなってしまい、警察は病死として処理する。被害者の雇用主から相談を受けた東京の弁護士・正木ひろし(=小林桂樹)は警察の対応の数々に疑問を抱き、死亡の原因は拷問ではないかと考える。東京帝国大学法医学の教授から「鑑定には頭部だけあればよい」とアドバイスされた彼は、周囲に反対されながらも墓地に赴き、埋葬されていた遺体の首を切断、都内で鑑定する事を決意するがー!?

 

 ・・・凄い内容なんだけど、これ実話の映画化です(世にいう「首なし事件」)!!戦後も反権力の弁護士として活躍した正木ひろし(実名で登場)の著書「弁護士」を名脚本家・橋本忍が再構成した(←橋本は以前にも正木弁護士が担当した「八海事件」を映画化した「真昼の暗黒」も手掛けてる)。「事実は小説より奇なり」というけど・・・この言葉は、この事件の為にあるような気もする。

 映画は主人公・正木ひろしを演じた小林桂樹の熱演が冒頭から光る。当初は「司法解剖さえしてくれれば、すぐ終わる事件」と楽観視していたものの、警察サイドが余りにもバッドな対応を続けた為、本腰を入れなければならなくなる主人公。そこから誰もが驚愕する作戦を決行する。演じた小林桂樹は事前に何度も本人に会った上で役作りをしたという。

 地元警察に目をつけられた正木は「尾行がついている」と噂される中、遺族の承諾をとったとはいえ、墓を暴くのも、死体を斬って持っていくのも全て犯罪行為!!それを百も承知の上で、警察や村人の目をかいくぐって死体を切断、都内に運搬(しかもSLに乗車)する一連の過程はサスペンス映画並にスリリング!!しかもさんざん苦労して持ってきた首が鑑定の結果、警察が言う病死の可能性もある訳で(そうしたら意味なし)。これはハラハラしたわ!!映画がカラーではなく、あえて白黒で撮られているのも、戦前ぽさを感じさせて効果をあげていると思う。「日本の黒歴史」に興味がある方には特にお薦めします^^。