<其の824>禍々しさ溢れる日本デビュー作「悪魔のシスター」

 引退作となる映画評論家を主役にした企画をタランティーノ自らボツにしたとか、しないとか。それが事実なら、どんなネタやるんやろ!?タラがやってないジャンルはまだまだあるけどねぇ・・・。いっそSFとかやればいいのに^^

 

 一方、若きタラが熱狂したブライアン・デ・パルマ監督・・・「ドミノ」以来、新作がないので、もう80代だし、ちと心配。筆者もファンとして大半の作品は観てるけど、今回は日本で初めて紹介されたデ・パルマのサイコ・スリラー「悪魔のシスター」(’73)を書いておこうかな、と。先日、日本でもリバイバル公開されたけど、久々観直したら、初期作にみられた“禍々しさ”に心ざわざわしたわ(笑)!当時のアメリカの風景やファッション、走ってる車も懐かしい感じで・・・ビバ!70年代❤

 

 モデルのダニエル(=後にクリストファー・リーヴ版「スーパーマン」シリーズに出るマーゴット・キダー)はクイズ番組「ピーピングトム」で共演した黒人青年フィリップを食事に誘う。するとエミール(=デ・パルマ作品常連のウイリアム・フィンレイ)という男が邪魔に入り、彼を追い払う。ダニエルによるとエミールは彼女の元夫で、離婚後も彼女につきまとっているという。フィリップは脅えるダニエルを彼女のアパートまで送り一夜を共にする。翌朝、ダニエルと妹ドミニクが口論する声で目を覚ましたフィリップは、ダニエルに頼まれて買い物に出掛けた。

 女性記者グレース(=当時、デ・パルマのガールフレンドだったジェニファー・ソルト)は自宅の窓から、包丁で刺され瀕死の状態で窓ガラスに助けを求めるメッセージを書いたフィリップの姿を目撃して、すぐさま通報。駆けつけた刑事たちと共に彼女のアパートに向かったが、フィリップの姿は室内になかった・・・!!

 

 既に何本かの短編、長編(今作の前には監督を解雇される苦い経験もあり)を発表していたデ・パルマが監督、原案(当時読んだ新聞が元ネタ)、共同脚本(中盤以降の展開ほか大幅書き直す)を兼任。上記粗筋でお分かりの通り、大ファンのヒッチコック監督作「裏窓」をベースに「サイコ」、終盤には「めまい」の要素まで入ってる。余談だがデ・パルマは「ボディ・ダブル」(’84)で再び「裏窓」を引用。「殺しのドレス」(’80)では「サイコ」のシャワーシーン、「愛のメモリー」(’76)はモロ「めまい」・・・初期のデ・パルマはさんざん「ヒッチコックの真似」と批判されていたが、これは致し方なかったかも(汗)。

 これまで即興演出を多分に行っていたデ・パルマが今作は慎重な準備が必要な作品だと考え、全カットの絵コンテを用意、キャスト(ほとんどが友人^^)と共に1か月のリハーサルを行って万全を期したそうだ。撮影は物語の舞台となるニューヨークで敢行。低予算ながらダニエルの室内セットもちゃんと組まれてる。

 ストーリーはね・・・いま観ると、“事件の真相”はすぐわかっちゃうけど、最初はダニエルがメインかと思いきや、実はグレースが主人公という展開の妙に加え(これも「サイコ」だよね)、場所や状況紹介の為の移動撮影や分割画面等、すでに“デ・パルマらしさ”は今作からも見て取れる。

 音楽はヒッチコックの諸作で知られる大御所バーナード・ハーマン!!これは有名な話だけど、デ・パルマがハーマンに仕事を依頼した際、撮影映像にハーマンが以前ヒッチコック作品で作った曲をつけて見せたら激怒されたという(ハーマンは短気で知られた:苦笑)。幸い、ハーマンが仕事受けてくれたからいいけどさ、頭のタイトルクレジットからハーマン節が炸裂!!もう音楽聴くだけで・・・怖い(笑:ハーマンはもう1本「愛のメモリー」も担当して亡くなった)。デ・パルマのこの先なにが起こるか分からないムードの映像(特に終盤のモノクロ映像の一連は強烈)と展開にハーマンの不穏な音楽・・・これで、ざわざわしない訳がない(笑)。オチのつけ方も、いかにもデ・パルマ的で〇!

 

 結果、映画は大ヒット・・・とまではならなかったけれど、今作がデ・パルマを名実共に一段階引き上げた事は事実。この作品を買い付けて日本で配給した人は偉い^^。これ以降、いまやカルトの「ファントム・オブ・パラダイス」(’74)、「愛のメモリー」(’76)を経て、スティーヴン・キング原作の「キャリー」(’76)で初のメガヒット作を手に入れるのだが・・・この時点ではまだもうちょっとだけ先の未来^^。

 

<蛇足>漫画「ブルーピリオド」がテレビアニメに続いて、実写映画化。でも八虎のイメージが筆者的にはちょっと違う・・・。筆者の目が厳し過ぎ!?