<其の823>超濃厚な180分「オッペンハイマー」短評

 ようやく先のアカデミー賞受賞作品「オッペンハイマー」を観ました。クリストファー・ノーラン監督初の自伝映画にもかかわらず、昨年時点では日本公開未定で、最悪は輸入盤ソフトの購入も考えていたので・・・無事、上映されて良かった良かった!これで公開前から掲載していた「映画秘宝」の特集がやっと読める(笑)。もう大分上映回数も減っているので、もうじき公開終了かとは思いますが・・・サクッと書こうかな、と。

 

 物理学者にしてアメリカで「原爆の父」と呼ばれるJ・ロバート・オッペンハイマー(1904~1967)はドイツからのユダヤ系移民の子としてニューヨークで誕生。ハーバード大学を3年で卒業し、英・ケンブリッジ大学に留学。22歳の時には研究を評価されてドイツの大学に移籍する。帰国後はカリフォルニア大学バークレー校とカリフォルニア工科大学で物理学科の准教授を務め、1936年、教授に昇進。

 1942年、原爆の開発を目的とした極秘プロジェクト「マンハッタン計画」始動。政府に依頼され、プロジェクトのリーダーとして原爆開発を成功に導き、名声を得る。戦後の「冷戦」下でプリンストン高等研究所所長、アメリ原子力委員会(AEC)の議長となるが、水爆をはじめとする核開発に反対した事から周囲と対立。ソ連のスパイ容疑をかけられ聴聞会が開かれる。結果、アイゼンハワー大統領命により公職追放処分決定。以降、FBIが常に監視する生活を送る事に。

 1961年頃、オッペンハイマーの公的名誉回復の動きが出始め、1963年、アメリ原子力委員会は「科学者に与える最高の栄誉」として「フェルミ賞」を授与。1965年、咽頭がんが見つかり、67年に死去。享年62。

 

 ・・・何故、上記の略歴を書いたかというと、映画はオッペンハイマー(=演じるのはキリアン・マーフィ)の学生時代から聴聞会終わりまでが描かれるんだけど、彼の幼少時代のシーンは一切なく(その為、どんな過程を経て成長したのか不明)、年代や場所、登場人物に関する説明スーパーは一切出ないし、加えてオッペンハイマーの主観(主に「公聴会」と「回想」)は<カラー>、彼と対立するアメリ原子力委員会委員長ルイス・ストローズ(=ロバート・ダウニー・Jr.)を中心とした部分は<モノクロ映像>で、これがシャッフルされた複雑な構成!!いかにもノーラン、って感じだけど(笑)、非常にわかりにくいので少々、鑑賞の参考として書いた次第。

 複雑な構成にシャープな編集、大量の登場人物(マット・デイモンエミリー・ブラントラミ・マレックゲイリー・オールドマン、懐かしのマシュー・モディーンほか新旧メジャー俳優多数)に半ば法廷ミステリーのような展開と緊迫感・・・観ながらオリバー・ストーン監督作「JFK」を想起したのは筆者だけではなかろう。一瞬でも見逃すと映画に置いて行かれる超濃厚な180分だ。「ミッドサマー」のフローレンス・ピューが脱いでるのには驚いた(笑)。

 

 筆者的にはオッペンハイマーの名前や「マンハッタン計画(本来はナチに対抗すべく計画された)」ぐらいは知ってたけど、第2次世界大戦の裏戦史から「赤狩り」時代のアメリ近現代史の勉強にもなって面白かった。観賞中、かなりの緊張感を強いられたけど(苦笑)。今作でノーランはIMAXでのモノクロ撮影に初挑戦(コダックはフィルムを新たに開発する必要に迫られた)したんだけど・・・「デューン」同様、筆者はまたまた“ノーマル”で観た!ノーランさん、ごめん・・・。

 

<どうでもいい追記>前回書いた「デューン」も今作のパンフもそうなんだけど、頭から場面シーンのみのページが多いんだよね・・・(流行りなのか?)。個人的にはプロダクションノートや解説をいっぱい読みたいから、グラビアページ増やすなら、もっと中身を充実させて欲しいわ。パンフもいま高いからね!