<其の792>祝!DVD再発売「黄線地帯 イエローライン」

 3月になりました。花粉がキツいっす・・・(泣)。

 

 当ブログで何度も書いている新東宝時代の石井輝男作品。廃版になったDVDが高額化していた「黄線地帯 イエローライン」(’60)がこの度、再発売(喜)!!一部フィルムが消失してしまったシリーズ第1作「白線秘密地帯」(’58)も先日、再発売された「女体桟橋」(’58)のDVDに収録されていたので、筆者もようやく石井さんが手掛けた地帯(ライン)シリーズの全てを観る事が出来ました(長い年月がかかってしまった)^^。この「黄線地帯 イエローライン」はシリーズ3作目にして初のカラー作品。公開当時、あの淀川長治大先生が褒めた事でも知られる一作^^。

 

 殺し屋・衆木(=天知茂)は、阿川という男の依頼で東京へ出張で来ていた神戸税関長を殺害した。だが、その直後、現場周辺に警察が!阿川が報酬の代わりに警察へ密告したのだ。丁度その頃、新聞記者・真山(=吉田輝男)と公衆電話で話し中だった恋人でダンサーのルミ(=三原葉子)は衆木に銃を突きつけられる。カップルを装い、警察の警戒から逃れる為の衆木の策だった。ルミは新聞広告で見つけた神戸の芸能事務所へむかう所だった為、衆木と共に東京駅から神戸へ向かう事に。

 真山は仕事の合間に彼女を送りに東京駅へ向かったものの、既に彼女の姿はなく、彼がプレゼントした赤いハイヒールの片方だけが駅のホームに残されていた。取材の結果、ルミの言っていた芸能事務所が国際売春組織・黄線地帯<通称:イエローライン>と関係があると推察した真山もルミを追って神戸へと向かうがー!?

 

 石井ワールドでは「赤線」、「青線」のほか、「白線」、「黒線」そして「黄線」と・・・秘密売春組織あり過ぎ(笑)。よくぞここまで、当時、新東宝の社長だった大蔵貢(戦前派)の知識のなさを逆手にとって連発出来たものだ(感心)。

 今作の石井演出(脚本も兼任)は前作「黒線地帯」同様に快調!凝ったカメラアングルに、随所に入る移動撮影。更にカラー作品ゆえに映える赤いハイヒールや百円札等の小道具の使い方の巧さ。個人的にはイギリス時代のヒッチコックの諸作品を連想した程だ。

 俳優陣は粗筋で書いた通り、三原葉子天知茂、吉田輝男・・・と、この当時のいつものメンバー(笑)。これに「白線~」に出てた宇津井健が出演していたらパーフェクトだろう(余談だが、「白線~」にはブレイク以前の菅原文太も悪役で出演してる)^^。ニヒルで暗い過去を持つ天知茂の殺し屋がいいんだけど・・・今作に関して特筆すべきは<美術>だろう。

 主な舞台となる神戸・・・といいつつ、新東宝は低予算の為、実際は横浜でロケしたそうだが(笑)、衆木とルミが潜伏する劇中“カスバ(←ジャン・ギャバン主演作「望郷」の影響か)”と呼ばれる路地裏の酒場密集地帯の猥雑さが凄い!昭和30年代のいかがわしさを集約したような、いかにも・・・という危ないエリアなのだが、なんとこれ全部セットなんだって(驚)!!低予算の新東宝にあっても、あの迷宮のような路地をここまで作るとは・・・。美術の宮沢計次氏とそのスタッフは賞賛に値する。

 

 惜しまれるのは冒頭、天知茂と吉田輝男と三原葉子の下りは<同じ夜の出来事>なんだけど、夜なのに昼間のような照明のカットが入ったりして、一瞬混乱させられた。筆者が監督だったら、編集の際、素材の色合いを暗くするよう少々いじったかもしれない。

 あとはラスト。「完」の文字が出るまで、もうちょっと余韻が・・・欲しかったかな。予想通りの展開ではあるけれど、面白い映画である事は間違いない^^。