其の355:アナログ大活劇巨編「海底軍艦」

 ここ数年、何気に思っていたことだが・・・ちょっと日本のアニメの設定とかって最近リアル過ぎないかい?リアルになればなるほど表現も窮屈になっていく気もするし。その反動か、一昔前のようなありえないけど豪快な作品が観たくなったりもするわけ。
 そこで思い出したのが懐かしの東宝特撮映画の「海底軍艦」!勿論、リアルタイムで観たわけじゃないけど(→筆者はまだ生まれてない)これぞ、筆者が求める豪快なスーパー兵器!!なんせ艦首にドリルが付いてるんだぜ〜^^かのアレックス・コックスも好きな映画に挙げている(海外でも紹介されているのだ)。言うまでもないけど、リアリティーはゼロだからね(笑)!


 第2次大戦が終わって約20年後の日本。ひょんなことからカメラマンの旗中(「イェ〜!」の高島忠夫)と西部(藤木悠)は、光國海運の楠見専務(「若大将」の父ちゃん・上原謙)とその秘書・神宮司真琴(藤山陽子)が「ムウ帝国工作員23号(平田昭彦!)」と名乗る人物に誘拐されそうになるのを阻止する。その事件を境にムウ帝国から8ミリフィルムが届けられた。それによれば、かつて全世界を支配していたものの、1万2千年前に海底に沈みながらも海底の地下深くに今なお健在であることと、同時に旧日本海軍所属の神宮司大佐(「連想ゲーム」で大声出してた田崎潤)による「海底軍艦」の即時建造中止に地上世界の即時返還を要求してきた!
 国連は脅迫を黙殺したものの、世界各地で海岸地域の大陥没や、貨物船がムウ帝国の潜水艦に破壊されるようになる。世界を救えるのは「海底軍艦」しかない!!そんなとき大佐の生存&所在を知る男が現れ、一行は彼のいる謎の島へと向かうが・・・。

 
 日本の文学史やSFに詳しい人なら、押川春浪が明治33年に発表した「海島冐險奇譚 海底軍艦」シリーズが原作だと分かるだろう。但し、映画の内容は小説と全く関係なし(オリジナル脚本を書いたのは「ゴジラ」シリーズの関川新一)。なんと今作、別の映画の企画が頓挫したため、急遽代案で製作が決まったものなんだって。それも製作期間2ヶ月、撮影3週間という超突貫仕事・・・。それでここまで作れた日本人はすごいわ(驚:おそらく徹夜の連続だったに違いない)!

 
 万能戦艦・海底軍艦こと「轟天号(ごうてんごう)」は反乱を起こして日本本国を離れた神宮司大佐率いる「轟天建武隊」によって南方の孤島で約20年の歳月をかけて製造されたーという設定。当初の目的は日本再興のための超兵器なのだが、最後はムウ帝国と戦うために出撃する。全長150メートル、重量1万トン。陸・海・空移動可能、ドリルの先からは絶対零度の冷線砲を有する・・・「これさえあれば日本軍が勝てる」という、いまでいう「架空戦記もの」の世界(笑)。
 なんせデザインは小松崎茂画伯だからね、当時の子供たちがこれのプラモデルに熱中したのも頷ける^^。リアルにいえば、日本軍なきあと、どうやって巨額な建造費を捻出したのか謎だし、轟天号の動力も不明(一応は原子力らしいけど)。あと設計上、どうやったってこの艦が空飛べるわきゃない(爆笑)!

 
 一方の「ムウ帝国(「ムー」ではない)」は物凄い科学力を誇っているものの(日本の丸の内地区もあっさり陥没させられる)、その衣装や所作はどうみても土人(失礼!放送禁止用語だ)と古代エジプト人と古代ローマ人が合体している感じ(苦笑)。で、潜水艦はスマートなデザインなのに、潜水服はもろ「アマゾンの半魚人」(爆笑)!強いのか弱いのか・・・よく分からん。
 そんなわけ分からん人種を後年、「仮面ライダー」で「死神博士」を演じる天本英世東宝特撮に欠かせない平田昭彦が<付け胸毛>して演じてる(満点大笑い)!特撮マニアには女帝を演じた小林哲子人気が高いが・・・何故、最初は日本語を通訳してもらっているのに、あとからペラペラ日本語話せるんだろう(笑)?この辺りが突貫作業の弊害かも知れん。

 
 ドラマ部分は本多猪四郎特技監督円谷英二という「ゴジラ」でおなじみの東宝特撮ゴールデンコンビ!さすがにこの短期スケジュールでは<神様>円谷英二をもってしても撮影終わらないから、3班体制での同時撮影。轟天号の模型は30センチから約5メートルに及ぶ4種類の模型が作られ、用途に応じて使い分けられた。
 円谷は戦時中は戦争映画の特撮を幾つもこなしているので、そのノウハウが生かされているという(→円谷の戦記映画については、いずれとりあげようと思ってます)。合成に必須の光学撮影も当時としては、かなり向上しているが・・・人物の輪郭が青いのと、轟天号の飛行シーンにラドンモスラと同じくピアノ線が見えるのはご愛嬌ということで^^。

 
 後のキングギドラのルーツとも言われる怪竜マンダが登場するのも今作。ゴジラよりキングギドラ好きな筆者的には、もっとマンダにも見せ場が欲しかったが・・・まっ、いっか!

 
 かなり愛のあるダメ出しもしたけど、丸の内の崩落シーンや最後の海底爆発はド迫力!!なんでも海底爆発は、水槽に赤い塗料を落として拡散する様子を、カメラを上下逆にして撮影したものだそうな。円谷英二が味噌汁を見て、思いついたアイデアだという。こういう工夫がいいね!いまだったら即、CGだろうけど、やはり実際の造形物にコンピュータで書いた絵はかなわない。名カメラマン、故・宮川一夫も晩年「いまのスタッフには創意工夫が足りない」といってたし。


 
 いま改めて今作を観直してみると「空を飛ぶ戦艦が異人と戦う」という基本コンセプトは「宇宙戦艦ヤマト」と酷似しているし、「反乱を起こしたメンバーが高性能艦を操艦する」というディティールは、かわぐちかいじ先生の「沈黙の艦隊」と共通してる!もしかすると「海底軍艦」は、その後のアニメや漫画関係者に大きな影響を与えた歴史的作品なのかもしれない・・・多分、皆否定すると思うけど(苦笑)。



 <補足>いま昔の<東宝特撮萌え>しているところなので、いずれ「妖星ゴラス」や「マタンゴ」、「地球防衛軍」辺りも取り上げようと思います。あくまで筆者の気が向いたら・・・ですが(笑)。果たしていつのことやら?