<其の755>失われし和製カーアクション映画「狂った野獣」

 日本は昔から屋外の撮影許可が下りずらいので・・・ハリウッドのような大掛かりなアクション映画を作る事は難しい。ましてや「ワイルド・スピード」シリーズの様な公道で派手なカーチェイスをぶちかます映画なんて、我が国ではまず不可能!!

 そんな状況下にあって、かつて日本にもごく少数ながら<カーアクション映画>が存在した。その内の1本が1976年公開の「狂った野獣」!製作は勿論、東映(やっぱり:笑)。個人的見解としては「傑作!!」とまでは言わないけど・・・「女囚映画」や「拷問映画」同様、邦画の“失われた1ジャンル”として、ここに改めて記録しておきたいと思う。

 

 京都ー。銀行強盗に失敗した2人の男(=うち1人は川谷拓三)が路線バスをジャックし、乗客を人質にする。やがて警察の知るところとなり、市内には厳重警戒が敷かれる。そんな中、バスの運転手が持病の心筋梗塞を発症して倒れてしまった!!偶然、バスに乗りあわせていた速水(=渡瀬恒彦)はハンドルを握り、代わりにバスを運転する事になったのだが・・・!?

 懐かしの「ピラニア軍団」の他、事件を伝えるラジオDJとして若き日の笑福亭鶴瓶師匠もちょっとだけ出演してるよ(映画初出演作)♪

 

 カーアクション映画の基本は、周囲を破壊しながら暴走するクルマの様子&追跡してくる他の車両(今作の場合はパトカーや白バイ)とのぶつけあいでしょ!この「狂った野獣」もその定番に則った演出を展開。渡瀬恒彦は今作の為にバスの運転免許を取得、スタントなしで自ら運転したそうだ(←これは監督も兼任した「ブロンクス物語」の為にバスの免許取ったロバート・デ・ニーロよりも早い)。・・・でも「何故、犯人でもない主人公がバスを運転するのか?」という素朴な疑問は<ネタバレ>になるので、映画を観てのお楽しみで^^

 監督(共同で脚本も)は中島貞夫。バスが警察車両から逃走している最中、乗客達の間で喧嘩が始まったり、エゴが噴出してくるところが面白い。回想シーンで、不倫してる乗客カップルのエッチなシーンもあり(大したことないけど)。これは作劇として絵変わりにもなるし、観客サービスにもなるという利点があっての演出だろう(笑)。

 本文を読まれて過剰な期待をされないように、あえて書いておきますが・・・今作は低予算だったので、追ってくるパトカーや白バイの数は大して多くない。逃走シーンはスピルバーグの「続・激突!カージャック」(’73)の様にはなっていないし、「ワイルド・スピード」シリーズまでの破壊&爆発シーンもない。その代わりにスタッフ・キャストが危険を顧みず、体を張って全力で撮影している熱意は映画から感じ取れると思う。ヒロイン(筆者は知らないお姉さん)に魅力がない事と<逃亡犯サイド>と<警察サイド>それぞれの動きと思惑、戦略等がもっと緻密にストーリー展開に絡みあったら、もっと面白くなったと思う。そこが残念と思ったところかな。

 先述の通り、この映画は1970年代の作品。映画のそこかしこに「アメリカン・ニューシネマ」の影響が感じ取れる。特にラストとかね・・・。ネタバレするから書かないけど。「かつて日本にもこんな映画があった」と思うと・・・余計にしみじみ。

 

 余談ですが・・・DVDのジャケット写真には裸でバイクに乗ってる女性や男に襲われてる女性の姿がコラージュされていますが、そんなシーンは一切御座いません!

他の作品から画像を持ってきたロジャー・コーマン東映商法(筆者勝手に命名)ですので、ジャケ見て気になった方は要注意を(笑:もっと早く書けば良かったかな)!