先日、今年初めて試写会に行って「マスカレード・ナイト」を鑑賞。東野圭吾による「マスカレード」シリーズの映画化第2弾です。原作未読なので、思いっきり犯人あてるつもりで観たのですが・・・予想を外した(苦笑)。個人的には犯人わかっちゃった前作より面白かった!犯人外して悔しいけどさ(笑)。
さて今回の本題は、市川崑監督が今はなきATGにて撮った「股旅」(’73)です。このブログ、しばらく邦画ばっかりの更新でいかんね。近日、洋画も更新しますからね、必ず(汗)。今作も市川崑独特の映像美学が凝縮している隠れた名作の1本!市川監督が今作の製作費捻出&“リアルな時代劇”撮影の為の前哨戦としてTVドラマシリーズ「木枯し紋次郎」を作ったのは、知る人ぞ知るエピソード(その紋次郎に対抗して作られたのが「必殺」シリーズ)!
江戸時代・天保年間ー。故郷を出て、渡世人の道を進んだ中、その道中知り会った源太(=小倉一郎)、信太(=尾藤イサオ)、黙太郎(=萩原健一)の若者3人。食うや食わずの中、いつか名のある大親分の盃を貰い、ひとかどの渡世人になる事を夢見ていた。だが<一宿一飯>の恩義で博徒の抗争に駆り出される等、命がけの旅を続け、二井宿・番亀一家の下にしばらく腰を落ち着けようかと思案していたある日、源太は偶然、何年も前に家族を捨てて家を出た父親と再会、今夜、自分の家に来るよう誘われる。父の家に行く途中、百姓家の庭先で若い女房のお汲(=井上れい子)が髪を洗っている姿を見かける。彼女は金でこの家に売られ、老人の若い後妻にされていた。この出会いがきっかけで源太はお汲と関係を結ぶのだがー!?
↑ この粗筋でも分かる通り、今作の<主演>は小倉一郎です!ショーケンではないので御注意。
以前にも書いてますけど「ATG映画」とは当時<一千万円映画>とも呼ばれ、ATG側と監督側で製作費を折半、野心的な作品を発表していた(エロい描写も込みで)。当時、大島渚や篠田正浩、岡本喜八ほか多くの監督が参加していたのだ。今作では市川監督が共同脚本、音楽も担当している(「久里子亭」名義)。
市川崑が業界に入る前から映画で観て憧れていた「股旅もの」ながら、それまでの伝統や様式美は一切無視!チャンバラシーンは武士の出じゃないから、刀をひーひー言いながら振り回すだけだし、3人が各々仁義を切ると(←あの「おひかえなすって」で口上始めるアレよ^^)最後には長いから省略されてしまうギャグもある。
当時の渡世人のしきたり他を解説するナレーションも入る<市川流時代劇>は当時の社会で自由を求めた若者達の「青春映画」でもあり、旅から旅の「ロードムービー」でもあり、そしてかの70年代という事もあり・・・アメリカン・ニューシネマの影響も感じられる。
まず俳優陣が凄いよね!市川監督は「映画はキャスティングで7割が決まる」という旨の発言をしているけど、時代劇なのに筆者の学生時代には多くの青春ドラマに出ていた小倉一郎に、歌手の尾藤イサオ(←アニメ「あしたのジョー」も彼の歌唱)&ショーケン(←当初はジュリーという起用案もあったらしい)!!これは当時、相当斬新なメンバー。3人とも髪の毛はボーボー、服装はボロボロだし(これは「マカロニ・ウエスタン」やヒッピー文化の影響と思われる。「紋次郎」もマカロニの影響受けてた)。筆者の世代的には・・・いま観ると懐かしさと瑞々しさを感じる^^。ちなみにお汲役の井上れい子は元モデルで、TV番組のアシスタントとかやってた人だから、演技に関しては全くの素人。見た目で選んだそうだが、、、彼女は朴訥ながらもいい味出してる。これぞキャスティングの妙!
撮影は「股旅もの」のパターン、“街道の風景”を求めて晩秋、伊那(長野県)でのオールロケ。低予算の為、スタッフの半分は撮影で使用した家で自炊して寝泊りしたそうな(ちなみに監督とキャストは近くの民宿に宿泊)。ロケバスを使う予算がないので遠距離の移動が出来ない為、拠点にした村の周辺をあちこち巡って風景を切り取っていったそうで。・・・それでも旅から旅の風景になっているから凄い!一流のスタッフ、キャストが結集しているから、いかにも・・・という低予算映画には見えないもの。映画としての完成度も非常に高い。
結局、いつの時代も若者(=まだ“何者でもない存在”だ)がいざ世に出てみても、家族や人間関係のしがらみ、社会の仕組みのせいで思い描いていたような<完全なる自由>を得る事は難しいんだよねぇ。いつもの様にネタバレになるからオチは書かないけど・・・この映画の締め方は、深く心に残る。