其の545:人類の未来は!?「フェイズIV」

 2週連続台風が襲来した日本列島(嘆)。ホントに筆者が子供の時とは気象状況が大きく変わっていることを実感する。「鉄腕アトム」や「ドラえもん」に描かれたような“明るい未来社会”は・・・来ないのかねぇ?!
 筆者が少年時代を過ごした1970年代はかの“アメリカン・ニューシネマ”の影響もあり、現実社会を反映したハッピーエンドではないリアルな人間模様を描いた映画が多かったのだけれど「フェイズIV 戦慄!昆虫パニック」(’74)もそんな作品。決して派手ではないけど、考えるとゾッとする味わいのある深〜い映画である。


 タイトルの「フェイズ(Phase)」とは“局面”、“段階”の意味で、映画はタイトル通り昆虫(蟻)と人間の戦いが<フェイズⅠ>から<フェイズⅣ>の4段階で進行していく。
 <フェイズⅠ 第1局面>・・・天体異変の影響からか、種族間での争いが無くなった蟻が共闘、急激に増殖。そんな中、知性を持った“新種の蟻”の出現をいち早く察知した英国人生物学者ホッブス博士(=ナイジェル・ダヴェンポート)はアシスタントの依頼を引き受けた言語解読の専門家レスコー(=マイケル・マーフィ)と共に北米・アリゾナの砂漠に建てられたドーム型研究所へと赴く。
 <フェイズⅡ 第2局面>・・・調査の結果、蟻たちが“幾何学パターン”を認識している事が判明。2人は蟻たちと意思疎通を計ろうと考える。だが、蟻たちは一行に行動を起こしてこない。政府に結果を急かされた博士は潜伏している巨大な蟻塚を破壊する。するとその直後、蟻の大群がドーム近くの民家を襲来!博士は薬を散布してドーム周辺の蟻を駆除する。翌日、命からがら逃げてきた農家の娘ケンドラ(=リン・フレデリック)を助ける。
 <フェイズIII 第3局面>・・・女王蟻は博士によって撒かれた化学薬品に適応する“新種”を産卵。そして巨大な蟻塚を幾つも築き、その鏡面を利用した太陽光の反射でドーム型研究所を加熱する。蟻の嫌がるノイズを発して対抗するレスコー。だがドーム内に侵入した蟻たちによってコンピュータが使えなくなってしまう!!
 果たして<最終局面 フェイズIV>とは・・・!?驚愕の<オチ>は是非本篇をご覧あれ!!!

 
 「めまい」や「北北西に進路を取れ」他のヒッチコック作品をはじめ、数多くの映画タイトルデザインを手掛けた天才グラフィック・デザイナー、ソウル・バス(←「サイコ」のシャワーシーンの絵コンテ書いたのもこの方)最初にして最後の長編監督作品(「狩人の夜」のチャールズ・ロートンと一緒ですな)。日本では劇場未公開ながら以前ビデオが発売された他、テレビでも放送済。ちなみにその際のTV邦題は「戦慄!昆虫パニック/砂漠の殺人生物大襲来」、「昆虫パニック」とか「SF超頭脳アリの王国・砂漠の殺人生物」等のめっちゃ大袈裟なタイトルがつけられたようですがー中身は皆同じなのでご注意^^!今ブログのタイトルは先日発売されたDVDに合わせてます♪
 
 今作は誰もが言うことですが→→→1971年のアカデミー最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した「大自然の闘争/驚異の昆虫世界」に影響されて作られているという事(脚本は「未来世界」他を執筆したメイヨ・サイモン)。今作最大の特徴は、本篇のかなりの部分を本物の蟻のクローズアップによるシーンが占めているのだけれど(幹部クラスの蟻たちが揃って相談したりするシーン有!)、今作のカメラマンが「大自然の〜」でも撮影を担当したケン・ミドルハム。わかりやすいスタッフ選びだ^^。特に冒頭の<フェイズⅠ>なんて延々蟻のシーンが続くから「こんな感じが延々続いて終わるんじゃないだろうな!?」と筆者も少々ビビった程(苦笑)。
 ただ・・・モノホンの蟻にあそこまで演技つけられるかね(当時はノーCG)?!蟻が死んだ同胞を並べるシーンとかもあるし・・・。もし“オール本物”だったら、黒澤明じゃないけど蟻の好きな臭いをつけて呼び寄せるとか、延々カメラを回して、それっぽく見える部分を編集で選んで使うとかしかない。これはコスト的にもスケジュール的にもあんまり考えられないから・・・多少は人形アニメとかの方式でやってると思うのだが・・・素朴な疑問として、いつか関係者に聞いてみたい^^。

 さすがに<70年代>の作品なので・・・あの“いかにも”な昔のコンピュータ(←横山光輝の「バビル二世」に出てきそうなやつよ)やドーム型研究所は懐かしい限り(喜)。物語の中盤、博士が蟻たちに行動を起こさせるために破壊する巨大な蟻塚群のデザインや蟻の行動パターンの解析図、蟻の音声を映像化したビジュアル他、作中のあちらこちらにソウル・バスらしさを感じさせた(何故、巨匠バスが昆虫バトルSFに興味を示したかは謎だが)。音楽もいかにも70年代ながら印象に残るもので(余談だがツトム・ヤマシタも参加)「ジャンルはともあれ好きなことが出来そう」とバス御大も思ったのかもしれないナ。


 オーバーなTV邦題とは異なり、大バジェットのパニック大作ではない、一見<地味作>だけど(出演者はたったの数人:メインは3人)当初は蟻との共存共栄を考えながらも次第に上から目線になっていく博士の“自然に対する人間の傲慢さ”も垣間見せたり(でも先述の台風同様、人類は自然には適わないのだ・・・)。「将来、こんな事態が起こるかも!?」と少々考えさせられる一作。
 あくまで<個人的な推論>だけど→→→手塚治虫の漫画版「ミクロイドS」(←元々はTVアニメ主導による企画ながら、展開はアニメと全く異なる)こそ手塚先生が“フェイズⅣ 最終局面”の私的展開として書いたような気がしている(先生は大の映画ファンだったから今作を観ている可能性大。女王蟻は“ギドロン”の元ネタかも?)。正直、漫画版「ミクロイドS」の最終局面の方が遥かに今作より映像的にも派手だし、凄いパニックとなるんでウケそうな気がするのだが?是非、心ある誰かアニメ化してくれ〜!!