<其の754>ミステリー!名作!!「飢餓海峡」!!!

 ミステリ―小説と映画の文献を読み続けていたら9月になりましたって・・・早っ!今年も残り4か月!!・・・毎年、こんな内容書いてる(苦笑)。

 

 今更ながら先日、塩田武士の同名小説の映画化「罪の声」を鑑賞。「帝銀事件」、「下山事件」、「三億円事件」ほか日本にも様々な憶測を呼ぶものや未解決事件がありますが「グリコ・森永事件」もその内の一つで、それをモチーフにしたミステリー。史実をベースにしている事もあってかオリヴァー・ストーン監督作「JFK」を思い出しながら観てた。ネタバレするから詳細は書かないけど・・・まぁ、いい映画でしたよ^^。ちょっと泣きそうになった(恥)。実際の事件もこんな真相だったのかもしれないな。

 ただ・・・観終わって少したってから思ったけど・・・話の発端且つ事件に関与した証拠となるカセットテープとノートが後生大事に保管されていたのは何故だったのだろう?(そこつっこんだらアカンとこ:苦笑)

 

 ・・・というミステリーつながりで、今回は東映作品「飢餓海峡」(’64)!!申し訳ない、ミステリー作品としてだけではなく、日本映画史にも記録される<名作>です(このブログでちょいちょい東映の任侠ものとかエロい映画とか書いてるけど、勿論、東映もまともな映画も作ってるのよ)。ただ年月が経った事と、内田吐夢監督の名前も知らない若人も多いと思うので・・・あえて2021(令和3)年の今日、ここに記す。

 

 昭和22年ー。北海道地方を襲った台風により青函連絡船「層雲丸」が夜間に転覆、多数の死傷者を出した。後日、現場で遺体収容にあたった函館警察は、乗船名簿にない身元不明の2遺体の存在を確認。遺体の様子から刑事の弓坂(=伴淳三郎)は「層雲丸」転覆事件が起きた当日、北海道岩幌町の質店に強盗が押し入って一家を殺害、放火して逃亡した事件が起きていた為、2遺体は目撃された犯人グループ3人の内の2人で、仲間割れが起きたのではないかと考える。

 その頃、犯人グループのひとり・犬飼(=三國連太郎)は、逃亡先の青森県内で娼婦の八重(=左幸子)と関係を持つ。別れ際、彼女に大金を渡し犬飼は姿を消す。悲惨な境遇にあった八重は金を有難く貰う事にする。後日、犬飼の足取りを追って青森に来た弓坂に八重は尋問を受けるが、彼の事を話す事はしなかった。八重は家の借金を清算し、新たな生活を求めて東京へ行くのだが・・・!?

 ちなみに映画の後半には高倉健さんも出るよ❤

 

 原作は水上勉の同名小説。彼がミステリーを執筆していた期間は短いものの、今作は水上ミステリーの集大成にして、後に加筆して「改訂決定版」を出したほど。その映画化の演出をオファーされた巨匠・内田吐夢監督(代表作「土」、「血槍冨士」、「大菩薩峠」シリーズ、「宮本武蔵」シリーズほか)が北海道から東京、関西地方まで大ロケーションを敢行して撮り上げた。

 今作の特徴は何といっても<映像>だね!あえて16ミリフィルムで撮影してブローアップする事で得られた“ざらざらした粒子の粗い画面”が戦後まもない混乱した状況にマッチしている。映画のポイントとなる場面では、ネガとポジを二重焼きにして表現。こういう後処理の演出って大事^^!「おとうと」(’60)で「銀残し」、金田一シリーズで「ハイキー処理」他を多用した市川崑監督を彷彿させる。

 敗戦後の混乱と極貧の中、数奇な運命を辿る犬飼役の三國連太郎は若い時から巧いのは書くまでもないが、喜劇のイメージが強い伴淳が今作では重厚な演技を披露(現場で巨匠にだいぶ鍛えられたそうな)。捜査が進まなくても「アジャパー」とか言わない(笑)。左幸子も心根の優しい女性を好演している。若くて溌剌とした熱血刑事役の健さんにも要注目で。

 

 どんな結末を迎えるのかも含めて映画を観て欲しいのですが・・・巨匠が当初、3時間越え(!)で今作を完成させたら「長い」という事で会社が無断で短縮版を作るという「フィルム・カット事件」が勃発。話し合いの結果、オリジナル版と短縮版それぞれ上映される事になったそうだが・・・既に黒澤明監督の松竹作品「白痴」(’51)も興行上の理由から短縮版にされちゃったし、海外でもヴィスコンティの「山猫」とかレオーネの作品も本国以外ではカットされちゃったりしてる。ザック・スナイダーの「ジャスティス・リーグ」は降板後に改変されちゃってるし・・・。

 想いを込めて現場で<創る側>とビジネスとして<売る側>の両者の間には・・・埋めがたい深~~い河が流れている・・・ということか。これがいつか解消される日が来る事はあるのだろうか・・・。