其の505:日本のハード裏戦後史「実録・私設銀座警察」

 またまた多忙につき間があきました。もう8月です・・・!

 <8月>といえば、まもなく「終戦記念日」ということで、敗戦国の我が国では戦争関連の映画やTVドラマをOAするのが常ですが(ある意味“お約束”)、今回紹介する「実録・私設銀座警察」も終戦後の日本を描いているので・・・時節的にはよろしいかと^^。ただバイオレンス描写が凄いので心臓の弱い方は鑑賞の際、気をつけてネ❤



 昭和二十一年、荒廃した東京・銀座界隈ー。とある酒場での喧嘩をきっかけに元陸軍二等兵・岩下敏之(=室田日出男)と博徒・宇佐美義一(=葉山良二)、元特攻隊員・池谷三郎(=安藤昇)、そして予科練帰りの樋口勝(=梅宮辰夫)は中国人相手に大暴れ。意気投合した4人は銀座を手中に収めるため、銀座で最大の勢力を誇る山根兄弟率いる愚連隊と抗争に。その頃、米兵を襲撃、逃走していた元学徒兵陸軍軍曹・渡会菊夫(=渡瀬恒彦)を宇佐美が隠まう。そして、渡会をヒットマンとして山根殺害成功。山根の弟・順も倒し、4人は“銀座制圧”に成功した。その後、メンバーはそれぞれ子分を抱えて独立。将来を考えた池谷は恐喝して得た資金を元に株式会社を設立、順調に事業を拡大していく。4人の仲間関係に歪みが生じた結果・・・!?


 
 タイトルに“実録”とあるように実際にあった出来事をモデルにしているようですが(詳しく知りたい人は各自で調べるように)・・・画面全体に異様な混沌<カオス>が渦巻く尋常ではない一作!!とても後年「敦煌」や「北京原人 Who are you?」撮った佐藤純彌監督作品とは思えない(笑)。加えてタイトルに“警察”とあるけど、あくまでヤ●ザ屋さんの話です^^

 スタート直後からハードな描写が展開することでも知られる本作。復員してきた渡瀬恒彦は自分の恋人が黒人兵の愛人になっていて(しかも本番目撃)更に黒人の赤ん坊まで産んでいるのを見て逆上、オンナと赤ん坊を叩き殺す!!そんでようやくメインタイトル。ド頭からここまで観客をブルーにさせる一般映画(おまけに一応、娯楽作)は・・・数少ないだろう(さすが東映)。

 冒頭に渡瀬が出てくるので、当然彼が主役と思いきや、タイトルあけると安藤昇たちに話がシフト。「あれ、渡瀬は!?」と思いながら見ていると、しばらくしてようやく彼が登場。ところが打たれたヒロポンが原因で、あえなくポン中ヒットマンに転身(台詞もほとんどない)!!「ああ、彼は冒頭だけで、真の主役は安藤昇なんだな」と頭を切り換えると、安藤も●●●●●という全く先の読めない展開に!・・・当時、ヤクザ映画ばかり撮らされて飽きあきしていた佐藤監督は「どうせ会社からヤクザ映画を撮れと押し付けられるのなら、いっそメチャメチャやってやろう!」と考え、今作に着手したそうな(←私見だが、何故か当時の東映の社員監督たちは、こう考える人が多い気がする)。・・・余談だが、今作からしばらくして佐藤監督は東映を辞めている(笑)。
 
 主役と思しきキャラクターがコロコロ変わるストーリーもさることながら、この当時の東映作品だけに暴力描写に残酷描写&エロス(=おっぱい)が満載!!人間の暗黒面を全面に出しているから、いまだったら<成人映画>指定だろう(苦笑)。主なメンバーはどれも個性的なキャラだが・・・いまの若い人が見たら梅宮辰夫のエロ番長キャラにびっくりするかもネ^^。でも、今作で一番凄いキャラは・・・いまじゃいいおじさんキャラで売ってる渡瀬恒彦ポン中になった彼は目の下にものすごいクマ作ってて、撃たれた後、埋められても復活する“ほとんどゾンビ状態”(驚)!!これ観たら誰しも彼の代表作は今作だろうと確信すると思う(笑)。渡瀬といい、梅宮といい「人に歴史あり」とはこのこと哉。

 先の大戦の敗北はそれまでの日本を物質的にも精神的にも徹底的に一度“破壊”したと思うが、冒頭の渡瀬のエピソードの他にも安藤昇(→若い人は知らんと思うが、この人、有名なヤ●ザ屋さんから映画俳優に転身した凄い人)は泥棒の疑いをかけられ、中国人に「てめえら相手に負けたんじゃねえ」と怒鳴って戦いを挑み、パンパンを買おうとした梅宮兄ィは「日本人は相手にしない」と拒否られ&米兵にシバかれる。・・・国の為に命を懸けて戦ったのに、ようやく日本に戻ったらこの仕打ち・・・。一度は捨てたこの命、あとは好き放題生きてやるぜ!とばかりに彼らは“悪の道”に進むわけだけど・・・気持ちは分からないことはないよな(ホントは良くないけど)。こういったことは表の歴史に出てこないだけで、山ほどあったんだろうね。


 登場人物のほとんどが悪人というのも凄いけど(「アウトレイジ」シリーズの先取り?!)冒頭の闇市の様子もリアルに再現されてるし(まだ生まれてないんで直に見た訳じゃないけど)、敗戦国における国民の復興過程をダークサイドから描いた傑作・・・と書いたら誉めすぎか。山ほどある国産戦争映画と併せて観るのも面白いかも!?