<其の730>若山富三郎のヤ●ザ刑事「桜の代紋」

 世界の近現代史に記録される事は間違いない2020年も残り1か月を切りました。コロナ第3波の猛威継続中!!終息するのは、いつのことになるのやら(溜息)。

 

 前回は勝新太郎の初監督作「顔役」を紹介しましたが、今回は勝の実兄・若山富三郎が主演した「桜の代紋」(’73)を紹介します。そもそも「顔役」は若山が聞いたヤバい刑事の話を元ネタに、弟・勝新が作った訳ですが、今作は「話を聞いた」当の本人である若山が同じネタを使って作った作品(若山が主演に加え、原作・製作も兼任)。見比べてみるのも一興^^

 

 刑事の奥村(=若山)は地元の極道も一目置くアウトロー刑事。だが仕事を離れれば妻の佳代(=松尾嘉代)と2人、つつましく暮らしている。そんなある日、岩国基地から150丁の拳銃が紛失、2名の警察官が射殺された。奥村と後輩の加藤(=関口宏)は広域暴力団「西神会」の犯行とにらみ、「橋田組」組長の宮川(=大木実)に協力を依頼する。ほどなく「橋田組」の組員が、若頭の杉山(=石橋蓮司)を見つけたものの、彼に撃たれてしまった。激怒した宮川は「西神会」の事務所へ乗り込み、組員たちと格闘の末、1人を殺し、逮捕されてしまう。奥村たちは杉山逮捕に執念を燃やすのだが・・・!?

 

 同じ「ヤバい刑事」の話でも「顔役」とは異なるテイストに仕上がっている本作。上記あらすじの後、話は二転三転するので(今ではよくあるパターンながら)どうぞお楽しみに^^!若山(筆者命名:トミー)が演じると“人情エピソード”も入ってくるところが兄弟の資質の違いとして面白い。しかも役名の「奥村」って、若山の本名!!ジャッキー・チェンの主演映画でジャッキーの役名が「ジャッキー」ってのに近い(笑)。加えて、妻役の松尾嘉代の役名が「佳代」って・・・まんまじゃん!役名考えるのが面倒だったのかしら(笑)?

 監督は三隅研次。「座頭市」シリーズ他では勝と、「子連れ狼」シリーズ他で既に若山と組んでいる名匠。アヴァンギャルドな映像が多い「顔役」と違って、さすがは三隅!こちらは練られたカメラアングルによる商業映画になってる(笑:「顔役」同様、今作も旧大映スタッフが多数参加しているものの、監督が違うとこうも変わる・・・というわかりやすい例)。今作が<現代劇>という事で、三隅をチャンチャンバラバラの監督だと思って驚いた人もいるかもしれませんが、「剣」三部作中の「剣」(’64)は現代劇ですから!「女性映画」も撮ってたし、決して<時代劇>だけの人ではありませんぜ。今作は拳銃を使うシーンが多いけど、ヤクザが短刀で刺されると、血がドピューッと噴き出す演出も忘れずにあるので三隅ファンは乞うご期待🎵

 俳優陣も若山の他、司会業にシフトする前の関口宏(懐)に、小林昭二がマブダチの刑事役。悪役には先述の石橋蓮司(彼は若い頃、悪役が多かったのよ^^。劇中、彼がトミーにあれこれシバかれるシーンは今作の見所の1つ❤)に、「顔役」で刑事課長役やってた大滝秀治が今作では「西神会」の会長役!トミーも「顔役」に出てたからねぇ・・・このキャスティングは“狙ってた”気がするわ。俳優というのは「いろんな人物を演じられる」という点でもホント面白い職業だなぁ(今更ながら、しみじみ)。

 

 今作は「顔役」同様、後半はヘヴィーな昭和テイスト溢れる展開となり、三隅らしいハードアクションが観られるのだけれど・・・ネタバレするから詳細は書かないけど、ラストのトミーの台詞は印象深い。「顔役」、「桜の代紋」と観ていくと元ネタとなったマジでヤバい刑事というのが・・・果たして、どんな人だったのか猛烈に気になる!

 

 余談だが<いち三隅ファン>として(上記に書いた事と一部重複するけれど)少々追加して、この作品について書くと・・・「桜の代紋」発表の前年(1972)、三隅は勝新の「勝プロ」でトミー主演の「子連れ狼」を3本&勝主演の「御用牙」を演出。翌73年、「桜の代紋」の後、引き続きトミーと組んで「子連れ狼・冥府魔道」を演出。そして1974年、松竹に招聘されて監督した「狼よ落日を斬れ」が劇映画としての彼の遺作となってしまった。享年54。川島雄三監督もそうだけど・・・若くして亡くなられた事がつくづく悔やまれる。