其の462:不定期更新「座頭市」シリーズ5

 勝新太郎主演「座頭市」シリーズの第5回目を更新します!・・・“不定期”としつつも我ながらマメに書いてるなぁ(笑)。


 「悪名」、「座頭市」、「兵隊やくざ」の3シリーズをこなすことに飽きた&石原裕次郎三船敏郎ら同時代の映画スター達が自分のプロダクションを立ち上げた事に影響された勝新は、自らのプロダクション設立を所属する大映の社長・永田雅一に直訴する。「会社を作るには資本金が必要」・・・という基本的な知識もなかった勝新だったが(笑)、永田から「じゃあ、勝手に作れ」とあっさり了承(→“社内プロダクション”的立ち位置だったため、永田的には「金銭面で会社に影響はでない」と計算しての返答だったらしい)。こうして東京・四谷に設立された「勝プロダクション」第1回作品として製作されたのがシリーズ第16作目に当たる「座頭市牢破り」(’67)である。


 ヤクザの富蔵親分の使いを頼まれた市は、相手の朝五郎親分(=三国連太郎)のはからいで無事難題を処理することが出来たものの、その実、朝五郎を追い落す機会を狙っていた富蔵の怒りを買い、彼の子分らに襲われるはめに!そんな時、市は千葉周作直伝の剣の腕前を持ちながらも<国の大本は農にあり>として土地の百姓たちと農業に励む大原秋穂(=鈴木瑞穂)を知る。やむなく富蔵を斬って再び旅に出た市は、関八州出役から十手を預った朝五郎が豹変し、百姓たちに悪行の限りを尽くしているという信じられない話を耳にする・・・。


 今作の監督は・・・なんと山本薩夫(略してヤマサツ)!!“ヤマサツ”の代表作といえば「氷点」(’66)、「白い巨塔」(’66)、「戦争と人間」三部作(’70〜’73)から、キムタクの出ない「華麗なる一族」(’74)に「金環蝕」(’75)、「不毛地帯」(’76)そして「皇帝のいない八月」(’78)に「あゝ野麦峠」(’79)と・・・バリバリの<社会派監督>!!共産主義の左翼監督として知られる彼が「何故、娯楽映画の座頭市を??」という疑問を持たれるだろうが・・・以前に彼は大映において「忍びの者」(’62)を監督、“忍者ブーム”を起こす大ヒットを飛ばしていたのだ(ちなみに永田雅一は映画があたったこともあって「共産党でもうまけりゃいいじゃないか」とコメント)。その「忍び〜」の主演は勝新がひとりで“ライバル視”していた市川雷蔵。「俺も雷蔵を撮った監督に頼もう!」と考えた勝新がヤマサツに仕事をオファーした・・・と筆者は邪推しているのだが・・・違ってたらゴメンね^^

 
 ところがいざヤマサツに頼んだら(ちなみにカメラマンは、またまた宮川一夫)・・・意見は合わない、主人公の市よりも話が農民寄り(→実際、大原役の鈴木瑞穂が結構な割合を占めている)・・・。思わず現場で「やってられねぇ!」と勝新は怒ったそうだが(自分の会社で作ってて、なおかつ自分は社長なのに:笑)、途中で人格が変わって鬼畜と化す三国連太郎の演技や腕や首が飛び散る三隅研次ばりの“人体チョンパシーン”もあって、爽快感はないものの、それなりに観られますゼ♪ただ初期作はあれ程モテてた市だが・・・ここまで作品進むと、大分モテなくなったね(苦笑)。



 
 同1967年、第17作「座頭市 血煙り街道」公開。監督は先述した三隅研次(これでシリーズ通算4度目の登板)。オープニング、これまでになかった“テーマソング(歌うは勝新!)”がいきなり流れてビックらこいた(笑)!


 旅の途中、ある旅篭で病死した女から子供・良太を預かることとなった市は父親・庄吉を探すことに。その途中、旅芸人の一座と行動を共にした市は、彼らが地元のやくざ一家に無理な要求をつきつけられた時、これまで何度か目にしていた謎の侍・赤塚多十郎(=近衛十四郎)によって助けられる。そんな中、市は行方不明の庄吉は腕のいい絵皿職人だったが、今はどこぞに監禁され、ご禁制の浮世絵皿を描かされていることを知る・・・。

 
 <子供が物語に絡むパターン>はさておき、ワルの役人に小沢栄太郎、ヤクザの親分には小池朝雄。前にも出演した高田美和、坪内ミキ子に加え、旅の一座のメンバーに朝丘雪路中尾ミエ(以前のチータ同様、歌唱あり♪)と・・・女優陣がこれまでになく大増量された本作。特筆すべきは戦前からの剣劇スターにして、テレビ「素浪人 月影兵庫」でお茶の間の人気スターになっていた近衛十四郎の出演だろう(若い人向けに書くと、近衛は松方弘樹の実父)。

 
 なんでも勝プロのスタッフが近衛に出演依頼するためドラマの撮影スタジオにお邪魔したところ、大映の美術とは天と地ほどの差もあるチープなセット(→当時、大映作品は海外でも高く評価されており世界最高峰の水準を誇っていた)で、本人もすっかり腐っていたらしい(なんせ、いまと違って当時はテレビより映画の方が遥かに“格上”だったし)。そんな中できた「座頭市」への出演オファー・・・近衛本人もノリノリで京都へ向かったそうな。

 
 本シリーズの殺陣は、実質勝新がやっていたーと何度か書いてきたが、クライマックスのバトル(→近衛演じる謎の侍の意外な正体はネタバレになっちゃうんでヒ・ミ・ツ)は勝と近衛の2人で簡単な打ち合わせをしたあと、ほとんどアドリブで行われたという(驚)。もの凄い迫力で展開される勝負は→→→これまでどんな剣豪も倒してきた市が、まさかの大苦戦!ここまでの強敵は・・・過去16作なかったよなぁ!思わず観てるこっちも力入ったよ^^!!

 
 ラスト、ちょっと名作西部劇「シェーン」入ってる気もするが(笑)マジで面白かったので是非観て欲しい1本。余談だが「ブレードランナー」のレプリカント役で知られるルトガー・ハウアー、1989年の主演作「ブラインド・フューリー」は本作の翻案である。



 
 年も改まった1968年、「座頭市果し状」公開(監督:安田公義)。


 ひょんなことから医者(=黒澤作品「七人の侍」、「生きる」他で知られる志村喬。「ゴジラ」にも出てる♪)の家で世話になることになった市に手配中のヤクザたち(=そのリーダーに小松方正)&情婦(野川由美子)が絡む。

 
 冒頭から血どぴゅーに、腕チョンパ!銃で撃たれ、自ら弾を抜く「ランボー」状態の市・・・“正統派時代劇”の次は、当時大流行していた“マカロニウエスタン”テイストを取り入れた第18作(劇中「(目が見えなくなったのは)8つぐらいの時」との市の台詞も)。

 
 以前の作品と比べても、やっぱり“ワルのタマ”が弱いよなぁ・・・。市が超人的に強いから、それに匹敵する凄腕じゃないと、相手として成立しなくなってるんだよね。ヒロインが野川由美子というのも・・・う〜ん、弱い。マンネリ化をふせぐ為に何か新しいことをしようという意欲は分かるし、決して悪い出来じゃあないんだけどねぇ・・・残念。

 
 映像もスプラッター満載で“派手”なら、勝新が歌うテーマソングも「オープニング」、「クライマックス」、そして「エンド」と流れまくる!そういう意味では音響も・・・派手だな(苦笑)。



 
 同年、第19作「座頭市喧嘩太鼓」公開。監督はまたまた三隅!


 石和にやって来た市は、熊吉への“一宿一飯の義理”を果たすため博徒・宇之吉を斬る。ところが熊吉の狙いは、宇之吉の姉・お袖(=三田佳子:若っ!)にあり、彼女をある豪商に世話することでひと儲けをたくらんでいたのだ。市は熊吉の子分に襲われたお袖を救う。石和宿を出た彼女は熊吉の追手を後に、市と旅をすることになるのだが・・・。


 凄腕のワル侍役に佐藤允(「独立愚連隊」)、久々の“コメディリリーフ”として藤岡琢也玉川良一を投入。いつものイカサマ博打を見破られ、簀巻きにされた市が立ったまま逃げるとか、コミカルな演出が多めの本作。西村晃演じる役もオカマ入ってるし(笑)。その反面、三田佳子のヒロインは幸薄いんだけどさ(笑)。
 タイトルバックがこれまでの<実写ベース>から、赤とか青の<色味>になってることにまずビックリ!これまで「座頭市」シリーズにおける三隅担当回に得意の“ちょんぱシーン”はなかったんだけど、ようやく今回“指ちょんぱ”を見せてくれた!さすが人体真っ二つ王・・・って、筆者が勝手に命名したんだけど(苦笑)。

 前作はワル(剣豪含む)のタマが弱いと指摘したが、今作のクライマックスでの佐藤允は・・・強面の顔同様、なかなかやりよる^^。で、タイトルになってる“喧嘩太鼓”の劇伴が流れてくると(笑)。

 先日読んだ週刊誌での妻・中村玉緒インタビューによれば「座頭市」撮影時代、勝新と三隅の意見が合わず、勝が悶々とした時期もあったそうだが、後には兄・若山富三郎と彼を取り合い、自身が監督をやるようになってからは三隅演出に感心していたというから今作も危うげのない流石の仕上がり。まぁ、三隅が監督した1作目に比べると、市も随分変ったけどね♪




 ’64年には4本、’65年には3本公開された「座頭市」も’68年には僅か2本に!その穴を埋めるかの如く’68年9月には’62年11月以来となる2度目の舞台版が上演された。こんなハイペースで作り続ければ・・・ネタも尽きるよな(苦笑)。

 
 

 そして翌1969年。「座頭市」の新作がスクリーンにかかることはなかった・・・。


 熱心なファンは記念すべき20本目となる新作の公開を熱望したー。



                    <この項、まだまだ続く>