<其の729>アヴァンギャルドな刑事映画「顔役」(’71)

 コロナの第3波が猛威をふるう今日この頃。果たして日本は平和な年末年始を過ごせるのでしょうか??

 

 「任侠映画」もそうだけど・・・「刑事もの」もそんなに当ブログで書いていない事に気づいてしまった。映画にとっては重要なジャンルですよね!

ダーティハリー」(’71)や「フレンチ・コネクション」(’71)、「ブリット」(’68)ほか洋画は名作多し。邦画にも色々あるけど・・・筆者が「相棒」シリーズとか書いても仕方ないので(笑)、異色刑事映画を紹介しようと思います🎵タイトルは「顔役」(’71)!あの勝新太郎の初監督作品!!・・・その昔、ある評論家先生が著書で「北野武の『その男、凶暴につき』は、勝新の『顔役』に似てる」なる旨を書いていたので、個人的にも観たかったのだけど、先日ようやくソフト化(喜:ちなみに「その男~」は、陰惨な話なのに観た後、何故か元気が出る不思議な映画^^)!!これだけで「観たい!」と思われた方は、相当ディープな映画マニアでしょう(笑)

 

 大阪ー。暴力団担当の刑事・立花(=もち勝新)は、捜査の為なら何でもするアウトロー。およそ警察とは思えない言動ながら、その能力の高さで周囲も一目置く存在だ。そんなある日、「大淀組」と「入江組」の抗争によって、彼はコンビを組む若い刑事・和田(=「男はつらいよ」シリーズの前田吟)と共に某信用金庫の不正融資事件の核心へ迫る事になる。相次ぐ襲撃事件によって、課長(=大滝秀治)から徹底的な暴力組織壊滅を指示された立花らは「大淀組」NO・2(=山崎努)を逮捕して取調べを始める。だが、事件の鍵を握る信用金庫の支店長(=藤岡琢也)が家族とドライブの最中、謎の事故で死亡。更に何者かの圧力によって捜査の打切りが決定した。怒り狂った立花はー!?

 

 お話自体やキャラ設定は上(↑)に書いたように・・・よくあるパターン。先述の「ダーティハリー」や「フレンチ・コネクション」と同じ年に日本でもアウトロー刑事映画の誕生というのは・・・単なる偶然か!?そもそも勝新が実兄・若山富三郎(今作にも出演)が聞いた“激ヤバな刑事の話”を元に映画化したのが今作。自身のプロダクションで製作、監督だけでなく、黒澤組脚本家・菊島隆三と共に共同脚本にも名を連ねている。しかも主演でしょ・・・天才・勝新のワンマン映画!

 映画観てなにより目を引くのは・・・そのアヴァンギャルドなカメラワーク!ドキュメンタリーを思わせる手持ち撮影による主観移動に、人物の配置図もわからないアングル&イメージ的シーンが多数(驚)!!わざと映画文法を無視しまくってる。勿論、スタッフ(勝新と気心知れた大映スタッフ多数)も「普通じゃない」ことをわかってて、勝新の指示通りにしてる訳。勝新自身「自分の好きなおもちゃを並べて、つないだようなものだから」とコメントしたそうだが、人物のアップも多く(レオーネか^^)、これは俳優・勝新が「役者の表情をもっとみせたい」という欲求の現れではなかろうか。お話がよくあるものだから、斬新な映像にして目新しさを出したいという想いもあったかも。この映像と編集なくしては、今作が後々語り継がれる事はなかっただろう。・・・まぁ、自分の会社でプロデューサーと監督兼任してる訳だから、誰も何も言えないけどね(笑)。

 さらに勝新といえば「意味のない演技はやらない」というリアリティー主義の俳優(それでビジュアル派の市川崑監督と揉めた過去あり)。冒頭、賭場のシーンがあるんだけど・・・なんと、この方々みな<本職>の人!!出演交渉した人は・・・さぞかし大変だったろうなぁ(苦笑)!更に劇中登場する「ストリップ小屋」や「ト●コ風呂」の場面も、実際のお店を借りて撮影したそうで。トリッキーな映像の中にリアリズムが混在してる・・・う~ん、邦画の中でもかなりの異色作だわ。

 アヴァンギャルドな映画ながら、低予算の実験映画とは異なり俳優陣は超豪華!勝新若山富三郎兄弟の他、あらすじにも書いた前田吟大滝秀治山崎努の他、太地喜和子伴淳三郎、大御所・山形勲まで出てる・・・個性の強い俳優ばっかり(笑)。特に太地喜和子は今作で勝新とのラブシーンがあるけど、後年勝新が監督もした「座頭市」作品にも彼女は出てる。・・・今作で気に入られたのかもしれない(笑)。

 

 最初の内はとっつきにくくて難解に思えるかもしれないけど、若い映画学生さんとか映像作家が観ると、いい刺激を与えそうな今作。勝新監督作品はもっと評価されていいと思う。