<其の715>古典サスペンス映画の秀作「らせん階段」短評

 5月も中旬になりました。自粛が明けた後の「アフター・コロナ」、「withコロナ」の新生活はどうなるのでしょうねぇ・・・(溜息)。

 

 筆者も他の皆様と同じく“時短勤務”、“テレワーク”の増加&ステイ・ホームで、プライベートな時間が増えた事で結果・・・これまで以上に古い映画の追及欲求が高まって・・・観ていなかったジャンルにも目を向けるようになりました。

 ミステリ―・サスペンス映画ファンでありながら、ミステリーなら“本格もの”が好みだったので(→少年時代、シャーロック・ホームズや怪盗ルパン、明智小五郎金田一耕助の洗礼を受けた世代)、あまり“ハードボイルド”には興味なかったんだけど・・・つい超メジャー作「マルタの鷹」をようやく観賞(なにを今更)。ボギー主演の映画、久々に観た(笑)。ヒッチコック作品にも出てたピーター・ローレが出演してたのも個人的には嬉しかったな。

 これが初監督のジョン・ヒューストン(兼脚本)の演出はスピーディでタイトな展開。なかなか良かったですよ、ハードボイルドも(笑)。今度は「三つ数えろ」か「ロング・グッドバイ」あたりを観ようかな(笑)。

 

 これは以前にも書いたと思うし、誰もが思う当たり前の事なのですが改めて、、、映画という媒体はすでに一世紀以上に渡って世界各国で製作され、公開されてすぐに人々の記憶から消えた作品やフィルムが廃棄されて観たくても観る事のできない作品の方が圧倒的に多い。「名作」や「傑作」(他には良くも悪くも「カルト」^^)としていま現在でも伝えられている作品は、世界の映画レベルで考えれば、ごくごく一部の作品といえよう。今回は近年、あまり話題には上がらないものの、ファンなら知っているサスペンス作品「らせん階段」(’45・米)を紹介します。これも先の「マルタの鷹」同様、筆者のプライベートタイムが増えた結果、昔読んだ本で作品を思い出して、さっそく鑑賞した1本。数少ないコロナ自粛生活下での恩恵^^。

 

  20紀初頭、ニューイングランドのとある郊外ー。ヘレン(=「紳士協定」、「友情ある説得」ほかのドロシー・マクガイア)は、古い屋敷に住む病床の女主人の世話をする仕事に就いている。彼女は子供の時に遭った火事で両親が亡くなったショックから、口がきけなくなっていた。ある日、彼女が町で活動写真を観ていると、その会場で足の不自由な女性が殺される。町では身体にハンディキャップを負っている女性ばかりを狙った殺人事件が続いていたのだ。暴風雨が迫る中、慌てて屋敷に戻るヘレン。

 屋敷には女夫人の他、継子のウォーレン教授と、その女性秘書ブランシュと家政婦夫妻が住み込みで働いており、そこへヨーロッパから実子のスティーブが帰ってきた。帰宅したヘレンに女夫人は殺人鬼に狙われる前に、今夜中にヘレンに土地を去るよう勧めるのだが、犯人は既に彼女をターゲットに絞っていた!!そして嵐の中、恐怖の一夜が幕を開ける・・・!!

 

 ・・・という、現在視点ではありがちに感じるものの、面白そうな話でしょ。後年、2度もリメイクされているのがその証拠^^。原作はエセル・L・ホワイトの小説。この方、ヒッチコックのイギリス時代の名作「バルカン超特急」の作者でもある。もっとも映画化された際、ちょいちょい脚色されているそうだが(映画のヒロインは口がきけないけど、原作では足が不自由な設定)。

 今作が本国で公開された<1945年>といえば、ヒッチコックがイギリスからハリウッドにきて「レベッカ」(’40)を演出。これがアカデミー賞に輝き、以後「断崖」(’41)、「逃走迷路」(’42)、「疑惑の影」(’43)と名作、傑作を連発していて、イングリッド・バーグマングレゴリー・ペック共演「白い恐怖」を発表した年。今作もヒットメイカー、ヒッチコックを意識してーそれも「レベッカ」による“ゴシックロマン”テイストを狙って製作された事は想像に難くない。どんなジャンルにおいても「柳の下にどじょうは二匹」と考えるのが・・・人間の性(さが)^^。

 製作年的にも<モノクロ作品>なんだけど・・・広~い屋敷の廊下や、らせん階段を降りるとある地下室等々、白黒だけにめっちゃ怖~い(こんな怪しい家の内で殺人鬼に狙われたら・・・怖すぎて生きた心地がしない)!!勿論、これはカメラマンの腕があってのこと。色彩ぎらぎらの映像美もいいんだけど、「映画は光と影の芸術」とは名言だなぁ、と実感した次第(またまたなにを今更^^)。しかも可憐なドロシー・マクガイアはしゃべれないから、通報しても事件を伝えられない・・・このもどかしさ!

  監督はロバート・シオドマク。主にサスペンス映画を手掛けた御仁。今作の前後に「フロウ氏の犯罪」(’36)、「夜の悪魔」(’43)、「幻の女」(’44)、「容疑者」(’45)、「暗い鏡」(’46)、「殺人者」(’46)等々手掛けております。劇中、犯行を行う前の犯人の目のズームショット(で、眼球のドアップに!)があるんだけど、これ犯人役の俳優の目じゃなくて、監督自身の目を撮影したそう。俳優に指示して撮るより自作自演の方が余計な説明しなくて楽だったのかも(笑)。 それにしても後年、ヒッチコックの「めまい」(’58)のオープニングは、目のクローズアップなんだけど、この「らせん階段」の映像からヒントを得た・・・な~んてことは多分ないだろう(笑)。

 

 強いて1つ残念な事を書けば・・・屋敷の全景カットが1カットでもいいから欲しかったかな。外観をみせて屋敷の古臭さ、巨大さを示しておけば、より屋敷内の場面が引き立ったような気がする。同じゴシックロマン作品、ヒッチコックの「レベッカ」では冒頭から外観見せてたし。

 

 東京もしばらくはテレワーク推奨だろうと思うから、増えたプライベートタイムを今後も現在ではあまり話題にされない作品のリサーチ&鑑賞にあてようと思います🎵