<其の735>忘れ去られつつある傑作脱出系サスペンス「絶壁の彼方に」

 緊急事態宣言は・・・誰がどう考えても延長されるだろうと考える今日この頃。

 

 前回のイタリア製サスペンス映画“ジャッロ”に続いて、今回もサスペンス映画!新しめの作品として(以前にも少し書いた気がしないでもないけど)アガサ・クリスティー風の「ナイブズ・アウト╱名探偵と刃の館の秘密」とかも観てるけど、「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」(’19・フランス、ベルギー)の方が個人的には良かった。ダン・ブラウンの「ラングドン」シリーズ第4弾「インフェルノ」出版の際、出版元が海賊行為と違法流出を恐れてブラウン同意のもと、各国の翻訳家を地下室に隔離して翻訳させたという実話をヒントにして作られたもの。「インフェルノ」は小説も映画も観たけど、こんな裏話があったのね^^。

 今回紹介するのは上記2作より遥か以前に製作された1950年のイギリス映画「絶壁の彼方に」です。コアな映画オタク&ディープなミステリー、サスペンス映画好きなら知っている今作。派手さはないけどマジで面白い🎵近年、あまり語られない作品だが、その名を遺す為にも当ブログで書く!!

 

 東西冷戦下ー。名医として知られるアメリカ人外科医マーロウ(=ダグラス・フェアバンクス・Jr) は、これまでの功績の表彰と公開手術の依頼を受けて、独裁国家ボスニア(注:架空の国)を訪れる。その手術の最中、マーロウは患者が独裁者二ヴァ将軍である事を知る。実は表彰の名目で、重態の将軍を診てもらうために彼を呼び寄せたのだ。手術は成功したものの、秘密を知ったマーロウは経過観察の為、出国を拒否される。ところが後日、二ヴァの容態が悪化して亡くなってしまった!殺される事を予感したマーロウは隙をみて逃げ出したが、警察や軍が彼を執拗に追う・・・!!

 

 監督はヒッチコックのイギリス時代の名作「バルカン超特急」の脚本を書いた事で知られるシドニー・ギリアット。今作もヒッチコックが得意とした“主人公巻き込まれ型”のサスペンスにして、異国で言葉も通じない状況でいかに逃げ切るかの“脱出劇”でもある。一部にロマン・ポランスキー監督、ハリソン・フォード主演作「フランティック」(’88)に影響を与えた、という説も。

 「脚本」がいい。主人公マーロウの置かれたよくわからん状況を見せた上で、回想として映画は本格的にスタート。テンポよくストーリーを展開した後、主人公を捕らえる為に街のあちこち(アメリカ大使館前含む)に警察がわんさか動員されてる超絶体絶命状態を見せていく。この時代の映画だから、当然“美女のヒロイン”が出てくるのがお約束なんだけど「この状況でヒロインをどう出すのかな?」と思いながら観ていたら・・・巧い感じで出てきたわ~^^!!「こんな偶然ある~!?」と思わずつっこんだ部分もない訳じゃないけど(笑)、主人公が車や船、ケーブルカーとあのテこのテを使って逃げるのも脚本の妙。ロードムービー風に絵変わりするから、こちらも飽きずに観ていられる^^。

 なにより凄いのは、今作の為にオリジナル言語「ボスニア語」を創作した事!なんでも言語学者の力を借りて東欧各国語をもとに創作したという(リュック・ベッソンも「フィフス・エレメント」(’97)でミラ・ジョヴォヴィッチに自ら考案した「宇宙語」を話させたけど、こちらの方が断然早い)。主人公も聞いてて「なに話してるんだろう?」という感じだけど、字幕も当然出ないので、観ている我々も主人公と同じ気持ちになる。こういう部分が作品の質の向上に貢献するんだよね~!ただボスニア語をしゃべらないといけない俳優さん達は大変だったと思う(笑)。

 本当はあまり書きたくないんだけど・・・映画の後半部分、主人公達は山岳地帯(ロケ地はイタリアのアルプスか??)を越えると目指す国境があるので決死の山越えをするんだけど(←ここから邦題はきている)・・・ここのシーンが凄いの!山といっても木は一本も生えていない険しい絶壁状態の山々。一歩間違うと即墜落死という場所を昇るシーンはめっちゃハラハラした!!これはもう「演出」と「編集」の巧さ。ロケとセット撮影(背景合成含む)をうまく組み合わせてると想像しているが・・・ここが最大の見せ場と書いておこう。その後にはどんでん返し(?)もあるし^^。

 主演のダグラス・フェアバンクス・Jrは名前ですぐわかる通り、映画創成期のレジェンド俳優ダグラス・フェアバンクスの息子さん!今作では品のいいお医者さんを好演。彼は後にプロデューサーになり、前に当ブログにも書いた傑作大どんでん返しサスペンス映画「生きていた男」(’58)を製作した。「生きていた男」を未見の方はDVDも出ているので各自チェックお願いします^^。 

 

 ・・・それにしてもコロナ渦で公開再延期される映画が続出。ワクチン接種はエンタメ業界を救う特効薬になるのかしら。期待したいけどねぇ・・・(溜息)。