<其の700>うらめしや~・・・「東海道四谷怪談」(’59)

 お盆休みも終わりまして・・・少~しだけ涼しくなった気がしないでもない^^。ほんの少し、、、だけど。

 

 さて、<日本の夏>といえば<怪談>。<怪談>といえば「四谷怪談」・・・という事で四世鶴屋南北による歌舞伎のメジャー演目につき何度も映像化されている中、今回は<怪談映画の最高傑作>と評価の高い1959年版の「東海道四谷怪談」を紹介(ベタすぎる流れ^^)。これ観て涼しくなっておくんなまし^^。

 

 備前岡山藩の浪人・民谷伊右衛門(=天知茂)は、お岩(=若杉嘉津子)との婚儀をお岩の父・四谷左門に反対された上に侮辱された為、左門を斬り殺す。その場にいた直助(=江見俊太郎)の入れ知恵を受けて伊右衛門はお岩とお袖の姉妹に「父親は御金蔵破りの犯人を突き止めた為に殺された」と嘘をつき、犯人に仇討ちする為、江戸へ行こうと誘う。だが、左門と共に殺された佐藤彦兵衛の子でお袖の許婚・佐藤与茂七も同行。お袖に好意を寄せている直助は伊右衛門と共謀、与茂七を途中訪れた滝から突き落とした。

 江戸ー。念願だったお岩と所帯を持ち、子供も産まれたものの、仕官の当ては無く、貧乏暮らしを嘆く彼女に伊右衛門は愛想をつかし始める。そんなある日、伊右衛門は町で因縁をつけられ困っていた旗本:伊藤喜兵衛の娘・お梅(=池内淳子)を助ける。喜兵衛は伊右衛門にお梅の婿になって欲しいと申し出る。悩む伊右衛門に直助は毒薬の包みを渡す。旗本家に婿入りする欲求に負けた伊右衛門は嘘を言って、毒薬をお岩に飲ませると・・・!!

 後は皆さま、ご存知の展開になります^^。

 

 監督は<怪談映画の巨匠>と呼ばれる中川信夫。今作以前にも同じ新東宝(←エロ、グロを全面に出した作品を連発して近年再評価されつつある映画会社。以前、書いた気がするんで詳細は割愛^^)で「亡霊怪猫屋敷」(’58)や、今作の後にも「地獄」(’60)とか作った知る人ぞ知る凄い御方。

 今作では今じゃ有名なネタ「民谷伊右衛門忠臣蔵の討ち入りに参加しようとする赤穂藩の浪人」という設定なし&メジャーなキャラ・小仏小平もカット(←按摩の宅悦は出るよ^^)。歌舞伎の筋とはあちこち改変して、善と悪の間で揺れる伊右衛門に焦点を当てた作劇。観てると心底悪い奴は直助(=江見俊太郎)で、優柔不断な伊右衛門は彼の提案を何度も聞き入れすぎて・・・最悪の事態を招いてる(苦笑)。

 低予算ながらスタッフ・キャストとも相当な熱意をもって撮影にあたったそうで、カメラマンは冒頭の長回しに当たってカメラが直角に移動出来るよう工夫を凝らし、毒を飲んだお岩さんが櫛で髪を梳くとボロッと抜ける有名なネタも、この撮影にあたって床山(←髪を結うスタッフ)が細かいところを監督に電話して指導したという。美術面でも畳敷きの部屋がお岩さんの遺体を流したお掘りに変貌する場面とか・・・スゲー!昔の映画スタッフの姿勢を素直にリスペクトする。

 俳優陣はなんといっても伊右衛門(お茶でもロックバンドでもない方)を演じた天知茂ですよ!主人公が完全に悪というキャラ設定の「四谷怪談」の映画もあるけれど、今作では短気で悪い奴には違いないんだけど・・・好きだったお岩さんを完全に捨てきれない、良くも悪くも"人間臭い"伊右衛門を巧演。あれだけしょっ中、殺した相手が目の前に出てくりゃ誰でも錯乱するだろうけど(笑)。今作を観た作家・三島由紀夫(大の映画ファン)は天知を絶賛。後に江戸川乱歩の原作を三島が脚色した舞台「黒蜥蜴」の明智小五郎役に起用する。それが後に始まる「土曜ワイド劇場」の「江戸川乱歩シリーズ」の明智役につながるという訳!・・・人生、何がどう転ぶかわからんなぁ^^。ちなみに筆者が天知茂と聞いて連想するのは「土ワイ」の明智先生(笑)。

 

 昔は「怪談映画」というだけで、一段低く見られる傾向にあったようだけど、今作のカメラマンは後に香港映画界でも活躍する西本正。あのブルース・リーや「ミスター・ブー」の作品も撮影した御仁!悲哀溢れる音楽を手掛けた渡辺宙明は後に数多くのアニソンや特撮ドラマの音楽を手掛けている。「お岩さん」からスーパースター:ブルース・リーに、今や世界に轟くアニソンまで派生していたとは (筆者も書いてて驚いた^^)!一流スタッフが若き力を結集した映画が「東海道四谷怪談」だった。そりゃ凄い訳だわ🎵