其の530:異色和製ミュージカル「ああ爆弾」

 ディズニーアニメ「アナと雪の女王」が大ヒット中のようですが(筆者未見)・・・いうまでもなく我が日本にも<ミュージカル映画>はあるわけで。その中でも異色作といえるのが東宝の「ああ爆弾」(’64)!監督・脚本は「独立愚連隊」の岡本喜八(←このブログに時々でてきますな^^)。今作も<コアな映画ファンなら知っている>秀逸な一作。


 「大名組」6代目組長・大名大作(=伊藤雄之助)は昔気質のヤクザ。彼の子分になりたいと懇願する田ノ上太郎(=砂塚秀夫)と共に刑期を終えて出所する。久しぶりに組事務所や自宅に帰ってみたところ、どちらも市議会議員選挙に出馬中の新興ヤクザ・矢東彌三郎(=中谷一郎)に乗っ取られていた!!怒り狂う大作は田ノ上が実は爆弾作りの名人であることを知り、ある作戦を思い付く。田ノ上に<万年筆型爆弾>を作らせ、矢東が常に持ち歩いている万年筆とすり替えて彼を爆殺しようというもの。矢東の散髪中に理容店に潜り込んだ2人は、彼の背広の胸ポケットにある万年筆と爆弾をすり替える。ところがその背広は矢東のものではなかった!!こうして万年筆爆弾は思わぬ人の手に渡って・・・!?


 原作はヒッチコックの「裏窓」やフランソワ・トリュフォーの「黒衣の花嫁」で知られるコーネル・ウールリッチ(←「幻の女」のウィリアム・アイリッシュの別名)の短編「万年筆」。それが東洋の島国でミュージカル・サスペンスコメディに翻案されたとは・・・ウールリッチの耳に入ったかどうかは定かではないが、もし聞いていたらさぞかし驚いたことだろう^^

 なんでも元々ミュージカルを撮りたいと思っていた岡本喜八は会社から何か企画はないかと尋ねられた際、助監督時代に書いた脚本を持ち出し、ミュージカル風にやれる方法があると言って低予算ながら製作にこぎつけたそうだ。3年前に公開された「ウエスト・サイド物語」が日本で大ヒット&ロングランしていたことが追い風になったのだろう(何気に劇中「ウエスト〜」のパロディー風演出もあり)。

 古い作品ではあるので<爆弾が知らず知らずに行ったり来たり>のサスペンスパターンは今日視点では決して目新しい発想ではない。けれど、やっぱりいつ爆発するか分からないから・・・シンプルながらハラハラドキドキする訳!そんなストーリーをベースに狂言から始まってモダンジャズ、ロック、ワルツ、タンゴ、ツイストからお題目(!)に至るまでの様々な音楽が全編を彩る。今作の予告篇では「ミュージカル」ではなく「リズム映画」とスーパーが出るが、岡本の小気味良い編集と相俟って、映画は快調に“リズム”よく進んでいく♪筆者はミュージカル映画をそれほど好んで観るタイプではないのだけれど今作は楽しく観ることが出来た。

 音楽もさることながら、今作でなにより目をひくのは・・・やっぱり伊藤雄之助の怪演!!音楽場面の撮影はセルジオ・レオーネもよくやらせた事前に録音した音楽を流しながらの演技だったそうだが、映画冒頭の狂言から浪花節に至るまで(←彼が出る場面は邦楽で構成。対して中谷は洋楽メイン)、音にあわせて細かく演技したり、顔の表情を作るわけ!こんな演技が出来るのも、歌舞伎俳優・初代澤村宗之助の次男として生まれ(兄、弟も役者という“芸能一家”の出)、5歳になる前に<澤村雄之助>の芸名で初舞台を踏んだというキャリアゆえ(基礎が身体に染みついているのだ)。下手な役者が演っていたら、面白さは半減しただろう。

 
 このブログは<ネタばれ厳禁>がモットーなので詳細は明かしませんが、ラストは上記の粗筋よりもうひと捻りあるし、「ウルトラマン世代」として(出番はそれほど多くないけど)桜井浩子が出てるのが嬉しい❤
あとむ〜かしのパチンコ台(レバーが1回1回自分でタマ弾くタイプ)にトイレの汲み取り車も劇中に登場。懐かしい<リアル昭和>の風景が観られるのも「いいね!」

 
 和製「アナ雪」として、このゴールデンウィークに代わりに観るのもありではないだろうか?但し、「アナ雪」と異なり、画面にあわせて一緒に歌うところはないけれど(チャンチャン)。