其の464:新旧ニッポンの変な映画

 一旦「座頭市」は置いといて、別の映画ネタを(ちとあきたし)^^。


 先日、ちょっとあって・・・三池崇史監督による平成版「愛と誠」を観た(←昭和の時、3部作で映画化されとる)。書くまでもなく原作は1970年代に一世を風靡した梶原一騎(作)&ながやす巧(作画)の大ヒット“純愛山河”漫画。筆者も小学校時代、単行本で読んで、そのハードなストーリー展開に魅了されたのだが・・・な、なんと、それが21世紀、平成の世において無謀にも再映画化!ところがその“改変”ぶりが凄すぎた!!


 舞台設定は1971年(昭和46年)。地方から東京へ“ある目的”の為に上京してきた札付きの不良少年・大河誠(=妻夫木聡)が新宿駅地下で不良たちに絡まれる。そこにわって入ってきたのが、財閥の一人娘で純情可憐、成績優秀な早乙女愛(=武井咲)。誠の額には大きな傷があるのだが、それは幼少時代に事故で愛が彼に負わせたもの。以来、彼女は誠を“白馬の王子”として長年想いを寄せていたのだ。愛の制止もむなしく喧嘩は始まり、逮捕された誠は少年院へ送られる。ところが愛のはからいで誠は名門校へと転入、彼女の同級生となる。クラスには愛に盲目的に愛情を傾ける優等生・岩清水弘(=斎藤工)がいた。だが、誠が大人しくしていられるわけはなく、彼は自ら不良の巣窟・花園実業へと転校。誠を追って愛が、そして愛を追って石清水も転校するが、学園には凶悪な生徒たちが跳梁跋扈していた・・・。果たして、誠と愛の運命は!?


 30過ぎて高校生やる妻夫木くんのヅラっぷりも凄いが(笑)、なににもまして凄いのが、この<超ウルトラハード純愛学園アクションロマン>を、登場人物たちがそれぞれの想いを歌い上げるミュージカルテイストに改変していることだろう。妻夫木が、武井が、斉藤がーそして伊原剛志(40後半で高校生役!)が歌い、踊る(爆笑)!!これは受けるか、ドン引きが二者択一!!

 さすがに原作まんまは“現代の空気”にあわないんで、大胆な脚色を施したことは容易に察しがつくが(また、いま読んでも出てくる奴らがヤクザ以上の凶悪な学生たち)・・・いや〜、笑った笑った^^!アニメから始まり、途中、ギャグとして演出している<回想シーン>等、三池テイストが炸裂。岩清水くんの超有名な台詞「君のためなら死ねる!」と絶叫したあと、スリッパではたかれる芝居をつけるのは、山ほどいる日本の映画監督の中でも三池崇史ぐらいだろう(笑)。

 2時間強で全部やるのは不可能なんで、出てこないキャラやエピソード(特に終盤)が多々あるものの(ラストもオチは一緒ながら、状況設定が異なる。ちなみにオリジナル版は原作通り)意外にも原作に忠実に展開していたのもビックリした。最後はーちょっといいよ^^。&不良少女(ズべ公)役の安藤サクラが歌うまくて・・・これもビックリ!

 興行的には1回もベスト10に入らずコケたものの(ここは予想通り)、来年の「映画秘宝」ではベスト&トホホ、双方に必ず入るであろう“怪(快)作”!!ツタヤで「旧作レンタル100円」になったら、是非観て欲しい一作。笑えます^^。

 
 ちなみにメジャー、マイナーそれぞれの“トリビア”を書くと→→→1:先日亡くなった女優・早乙女愛(本名:瀬戸口さとみ)はオリジナル3部作の<ヒロイン公募>で女優デビュー。役名をまんま芸名にしたという訳(松田聖子とかもこのパターンですな)。2:妻夫木くんが歌うのは、ご存じ西城秀樹の「激しい恋」(’74)。実はこの秀樹、オリジナル3部作最初の誠役なのだ(ちなみに2本目は南条弘二、ラストが加納竜と毎回変わる。早乙女は3本とも登板)!スタッフのオリジナルへの“オマージュ”が感じられる小ネタです(なにも考えてなかったりして)。 




 
 さて、新たに21世紀・平成の世に生まれた“怪(快)作”の後は、昭和に生まれた真の“怪作”を(笑)。

 日本映画史上に残る大傑作コメディー「幕末太陽傳」で知られ、若くして夭折した川島雄三監督(1918〜1963)も三池同様、一風変わった作品を沢山作った人だった。松竹時代に演出した「相惚れトコトン同志」(’52)では、恋人同士とライバルが伊豆・大島に出かけたのち、何故かフェンシングで決闘する意味プー演出で、助監督についた若き日の今村昌平を唖然とさせたエピソードも(笑)。そんな彼が東京映画(=東宝の傘下の会社)で脚本・監督したのが「グラマ島の誘惑」(’59)。川島映画初のカラー作品にして、未ソフト化作品でもある(“グラマ”とあるけど、時代が時代だけに脱ぎやヌードはないので、そっち方面で過剰な期待はせぬように)。


 第2次大戦末期。皇室:香椎宮家の兄・為久海軍大佐(=森繁久彌)と、弟の陸軍大尉・為永(=フランキー堺)、加えて御付武官の兵藤惣五郎(=桂小金治)は本土への帰途の途中に訳あって南洋の孤島・グラマ島に漂着。その時一緒に報道班員で詩人の香坂よし子(=淡路恵子)、報道班員で画家の坪井すみ子(=岸田今日子)に、かつてこの島にいた興発会社社員の妻で戦争未亡人の上山とみ子(=八千草薫)の他、従軍慰安婦の面々(=浪花千栄子轟夕起子春川ますみ宮城まり子ほか)がいた。翌日、一同が起きてみると乗船は他の乗組員らによって移動していた上に、皆が見ている中で敵襲に遭い、あえなく撃沈!!こうして生活能力ゼロの宮様2人と武官、あわせて3人の男性は、女達をつかって自給自足の生活をスタート。唯一の島民・ウルメル(=三橋達也!)にカヌーを造らせようと考えたものの、彼は協力を拒否する。そんな中、為永はとみ子に心魅かれ、兵藤は北川たつ(=轟夕起子)を愛人にするようになるが・・・。


 原作は飯沢匡の「ヤシと女」。これ、ハリウッド映画にもなった有名な「アナタハン島事件」がモデル(「OUT」の桐野夏生もこの事件にインスパイアされて「東京島」を書いてる)。それを“川島流”にアレンジしたのが今作(お笑い要素満載のドタバタ喜劇ですな)。三橋達也なんて、肌に色ぬっただけで南の現地人演じてるし(笑)!

 川島の盟友・フランキーの切れのある演技は「幕末〜」の主人公同様、素晴らしいが、中でもいいのが森繁!孤立した状況にあっても淡々としていて気にしているのはタバコ喫うことと飯のことだけ(笑)。女性陣が自己紹介する時、何気に春川ますみの乳を触る等、彼本人のスケベさが生かされていて笑わせてくれる。勿論、登場人物たちは<皇室と国民>の縮図になってる訳。

 だが川島本人は後年、今作をふりかえって「私の演出と脚色はダラダラしすぎて、所期の狙いが出ていません。途中で天皇制批判を出しすぎて、主題が分裂した失敗作」だと振り返っている(磯田勉編「川島雄三 乱調の美学」ワイズ出版より引用)。確かに演者たちのドタバタシーンは多過ぎるきらいもあるが・・・<主題が分裂した>とは、どういう意味か?

 こういう設定の場合、「男同士が女&食糧を奪いあう」というギラギラした展開になるのがベタ&通常だろうが(実際の「アナタハン〜」もこの通り)今作ではそんなハードな展開にならず(なにせ男が“宮家”の方なので)、最初は“奉仕”していた女性たちも“革命(?)”を起こして、最終的には皆が“平等な立場”になっちゃう(こういった描写の数々で<ソフト化不可能>と・・・残念)!

 また最後のテーマとなる「島からの脱出」・・・も、意外なパターンで解決し(あらら)、“本土”に戻ってから、またもうひと波乱ある(詳細は避けるが、最終的な主題は●●●●・・・。この時代ならでは)。この辺りは“当時の世相の反映”なんだろうけど・・・島のみで話を完結させた方が(川島の言うように)主題を1つに絞れて、より面白かったような気がしないでもない。


 でも、現在の視点で観たら<超豪華キャスト>だし(八千草薫は本当に綺麗&小金治の娘役で元祖・家政婦、市原悦子も出演!!)、映像的にも“遊んでる(ドタバタシーンは必ず早回しになり、一同がショックを受けると「目の前が真っ暗になった」の意味でカラーの色が抜ける、他)”。いろんな意味で死ぬまでに一度は観て欲しい一作。



 先にちょっと触れたけど、今村昌平川島雄三の“愛弟子”。その今村が作った学校に三池崇史は“入学”・・・昭和と平成、それぞれに怪作を作った2人は“つながってた”(あまり皆この事実を言わないけどね)!!