其の675:ベルトルッチ追悼「暗殺のオペラ」

 もう11月も終わり。2018年も・・・残り1か月(早っ)!!!

 イタリア映画界の巨匠ベルナルド・ベルトルッチが亡くなられた。享年77。ベルトルッチといえば問題作「ラストタンゴ・イン・パリ」や米・アカデミー賞受賞作「ラストエンペラー」で知られる監督(個人的には「1900年」が最高傑作だと思う)。そのベルトルッチの初期作「暗殺のオペラ」(’70)は長い間、権利の問題でDVD化されなかった“幻の作品”。それがつい先日、DVDとブルーレイが発売され、喜んでソフトを買って観たら・・・その2日後にこの訃報(驚いた)!!そんな個人的経緯も含めて、今回「暗殺のオペラ」を書く事にしました。筆者的な追悼・・・でもあります。


 1960年代、北イタリア・エミリア地方ー。小さな町「タラ」の駅に青年アトス(=ジュリオ・ブロージ)が降り立った。約30年前のこの町で、彼の父にして同じ名前のアトス・マニャーニ(=ジュリオ・ブロージの2役)は反ファシズム抵抗運動の闘士として命を落とし、いまでは英雄として町のあちこちに彼の名がついた広場や建物、胸像が建てられていたのだが・・・何故か町には老人と子供の姿しかない。
 アトスを町に呼んだのは、父のかつての愛人ドライファ(=アリダ・ヴァリ)で、父・アトスの暗殺事件が現在も謎の為、その真相を息子である彼につきとめて欲しいという依頼だった。父アトスは1936年6月15日の夜、新装のオペラ場でジュゼッペ・ヴェルディのオペラ「リゴレット」の観劇中、何者かの銃によって背中を撃たれて殺された。事件後すぐ、アトスの妻は町を出ていったのだが、ドライファによると、警察は彼がムッソリーニの黒シャツ隊のファシストと日頃反目していた事、更に遺体から匿名の手紙が発見され「アトスが劇場に入れば命はない」という脅迫文が書かれてあった事から、余りにも明白な犯行として捜査をいい加減にしたという。話に乗り気のしない息子アトスだったが、その夜、何者かに馬小屋に閉じこめられ、朝には見知らぬ男から暴行される。真相を探る為、かつて父と共闘していた抵抗運動の生き残り3人との接触を試みるアトスだったが・・・!?


 アルゼンチンの作家、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの僅か10ページにも満たない超短編「裏切り者と英雄のテーマ」を元にベルトルッチらが大胆に脚色。イタリアの“テレビ用映画”として製作され、海外では劇場公開された。スティーヴン・スピルバーグの「激突!」とかと同じパターンですな^^。
 なにより重要なのは、この「暗殺のオペラ」がベルトルッチと天才撮影監督ヴィットリオ・ストラーロと本格的に仕事をした作品という事(→フランコ・ディ・ジャコモと共同撮影)!ミステリー仕立てのストーリーながら、北イタリアの田舎町の風景が本当に美しいー。ベルトルッチマグリットやガブエの絵画を参考にして、今作の色彩や光を決定したという。ストラーロはこの当時、まだ一人立ちして間もない時期だったけど、撮影台本に全シーンの照明プランを詳細に書き込む事で有名だから・・・今作でも燃えに燃えてアイデアを考えたのではないか。後年、ベルトルッチは「ヴィットリオは光の絵筆を持っている」という発言をしているが、ストラーロにおいても初期作のこの作品でも、彼の映像美を充分に堪能出来る。また、この作品当時、ベルトルッチ弱冠29歳!!若い時って、意表を突いたカメラワークとかをやりがちなんだけど・・・今作では<移動撮影>を多用。時には人物をカメラが追っていたら何気にカメラを追い抜いたりもするシーンもあったりして「遊んでるな〜❤」と筆者的には微笑ましく鑑賞した次第^^。
 現在をベースに過去のシーンがちょいちょい入ってくる構成なんだけど、息子と殺された父親をジュリオ・ブロージが2役で演じるほか、過去のシーンでも出てくる人が“若作りメイク”せずに出てくるんで・・・段々、観ていて時間軸が曖昧になってくる不思議な感覚に。この狙いの演出にも、若きベルトルッチの才気がうかがいしれよう^^。
 出演俳優陣としては・・・やっぱりアリダ・ヴァリの存在が大きい。彼女はイタリア人ながら、誰もが知る名作「第三の男」やハリウッドのヒッチコック作品にも出演されたワールドワイドな大女優。この作品では大分お年を召されているけど、その貫禄たるや!素敵な女優さんだったと思う。

 
 意外な真実が分かってスッキリ終わるかと思いきや「・・・!?」というラストシーン。当然、このブログでは書かないので、興味ある方は作品を観てちょんまげ(死後)。「大傑作!」・・・とまで筆者は褒めないけど、若きベルトルッチがやる気マンマンで作った秀作だ。


 またひとり、偉大な監督が亡くなってしまった。ホント、悲しいわ・・・。彼と「ラストエンペラー」ほかで仕事した坂本龍一さんもショック受けたと思うなぁ・・・。