其の161:偉大なる失敗作?「地獄の黙示録」

 筆者には年に何度か<好きなシーン>だけ見返す映画がある。例えばサム・ペキンパーの「ワイルドバンチ」のクライマックスやスピルバーグ監督「プライベート・ライアン」のノルマンディー上陸作戦シーン・・・ようは「バトル」シーンばかり(笑)。
同様にフランシス・フォード・コッポラの「地獄の黙示録」も何度繰り返し観たかわからない。勿論、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」をバックに攻撃するヘリ軍団の場面を観る為だ!


 大メジャー作ですが、あえて簡単に粗筋を書きますとーベトナム戦争中のサイゴン。ウィラード大尉(マーティン・シーン)は上層部より、ある特命を言い渡される。軍から脱走したカーツ大佐(マーロン・ブランド!)がジャングルの奥地で自らの「王国」を作り君臨しているという。そこでウィラードはカーツを暗殺するため川をのぼり彼を探す旅に出るのだが・・・。まだ少年時代のローレンス・フィッシュバーンハリソン・フォードがちょい役で出てるよ^^


 あのオーソン・ウェルズも映画化を夢みたコンラッドの「闇の奥」をベースに、当初はプロデューサーとして(監督にジョージ・ルーカス!)作品に携わろうとしたコッポラが自ら監督を決意。その結果、約4年に及ぶ撮影日数と3000万ドル(当時)もの巨費を投じて作られた超大作だ。いまでは色んな問題(米軍の協力拒否、キャスティングの紆余曲折、台風によるセットの破壊、長期のフィリピンロケによる疲労と病気)があった<いわくつき>の作品としても知られている(苦悩するコッポラたちの様子はドキュメンタリー「ハート・オブ・ダークネス コッポラの黙示録」を観賞のこと。当時の事を反省しているデニス・ホッパーは爆笑ものです)。まぁ、それらのおかげで混沌とした様子や重苦しい雰囲気がフィルムに灼きつけられたのも事実だが・・・。


 完成した映画は「ベトナム戦争映画」の1本としてカンヌでグランプリを獲るなど評価されたものの・・・正直言って最後が難解!肝心のマーロン・ブランドが出てきてからつまらなくなるのだ(=いきなり「哲学」になる)。実は当初のクライマックスは「カーツが王国に攻めてきた敵を殲滅する為に大アクションを繰り広げる」というものだったのだが、ブランドが契約を破ってデブデブ状態で現場入り。その為、予定のアクションを行う事が出来ずコッポラが無理矢理現場で終わりを考え出したのである。


 ところがそれから20年後。コッポラはカットしたシーンを含めフィルムを再編集(日本と異なり、全てのフィルムが保管されていた)。副題に「REDUX(=再創造、の意)」とつけ、3時間半にも及ぶ<新作>を完成させた。これが「地獄の黙示録・特別完全版」!おかげで中途半端で処理されたエピソードも幾分分かりやすいものとなった(といってもラストのオチは変わらないけど)。コッポラ自身は戦争映画というより「オペラ的な作品」にしたかったそうで、このバージョンが大のお気に入りだそうだ(笑)。


 イカれた軍人・キルゴア中佐(ロバート・デュバル)率いる「ヘリ軍団」のシーンはオチがつき、慰問に訪れたプレイメイトの「その後の運命」や<オリジナル版>では全くなかった「フランス人入植者一家」のエピソードが追加され、名カメラマン:ヴィットリオ・ストラーロの映像美が堪能できます。当時はCGに頼っていないので(全て実写)その迫力たるや凄いものがある。


 この作品はコッポラの<頂点>であり<偉大なる失敗作>だとは思うが、「ヘリ軍団」のシーンだけはこれからも繰り返し観て楽しもうと思う(ナパームでの「ジャングル炎上」シーンは最高だね)。彼の愛娘であるソフィア・コッポラ(最新監督作「マリー・アントワネット」)が父の才能を受け継いでいる事を切に祈る(笑:ファンの方ごめんなさい。他意はありません)!