其の670:大作!「牯嶺街少年殺人事件」

 9月も半ばになって、ようやく少し涼しくなってきました。秋も近し・・・かな!?筆者が多忙なのは2018年9月も変わらず(涙)!

 
 世の中には実験映画も含め、上映時間の長い映画が多々ある。メジャーなところだと「ファニーとアレクサンデル」、「1900年」、「ベン・ハー」、「アラビアのロレンス」、「風と共に去りぬ」、「七人の侍」、「赤ひげ」・・・。若くして亡くなった台湾のエドワード・ヤン監督作品「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」(’91)もそんな長〜い映画の内の1本。2バージョンあるもののそれぞれ3時間8分と3時間56分と、どっちも長い!権利関係の問題で長らくリバイバル上映もなければDVD化もされなかったけれど・・・先日、再上映&初のDVD発売(喜)!!リアルタイムで見損なった筆者もようやく3時間56分版を鑑賞した次第。ちなみに間違える人はいないと思うけど、タイトルから「ミステリー映画」だと思ってはいけません^^。


 1960年代初頭の台湾。国民党の厳しい思想統制下、大人たちの複雑な社会階層を反映したかの様に、少年たちは"小公園"、"217"といったグループを形成、抗争に明け暮れていた。台北で暮らす小四(読み:シャオスー。演じるのは「レッドクリフ」2部作にも出ていたチャン・チェン)は、建国中学・昼間部の試験に落ち、夜間部に通う事になる。1年後ー。小四は、"小公園"に属するクラスメイトの王茂(読み:ワンマオ)らとつるむ様になっていた。
 そんなある日、保健室にいた小四は、膝を怪我して治療を受けていた女生徒・小明(読み:シャオミン)を教室まで送り届ける事に。教室に戻らず、外に出たことから小四は彼女が"小公園"のボス・ハニーの恋人である事を知る。ハニーは敵対する"217"のリーダーと小明を奪い合った結果、殺人を犯し台南に逃げていた。すると、そのハニーが突如、台北に姿を現して・・・!?


 エドワード・ヤン楊徳昌)は1947年、中国・上海に生まれるも2歳の時、台湾に移住。台湾交通大学とフロリダ大学でエンジニアリングを専攻、後に映画製作に興味を持ち、南カリフォルニア大学映画学科で映画を学んだが、アメリカで電気技師として働いた。1981年、台湾に帰国。余為政監督のデビュー作「一九〇五年的冬天」で脚本と製作助手を担当して映画界入り。翌年、オムニバス映画の一篇で映画監督デビュー。 83年、初の長編映画「海辺の一日」でヒューストン映画祭グランプリを受賞。以後、「台北ストーリー」(’85)、「恐怖分子」(’86)、91年には今作を手掛け、侯孝賢と共に<台湾ニューシネマ>を代表する監督の一人になった。2007年6月、結腸癌による合併症でアメリカ・カリフォルニア州ビバリーヒルズの自宅で惜しまれつつもこの世を去る。享年59。


 1961年の夏、台北で14歳の少年が同い年のガールフレンドを殺害するという、台湾初の未成年による殺人事件に着想を得た今作。不良少年同士たちの争いをベースに思春期特有の心の機微を描いた<青春映画>の体をとりつつ、「大陸(=中国・本土)に帰りたい」と願う少年たちの親世代をも描く事で、60年代当時の台湾の社会状況をも描くという野心的な試み。尺が長い意味がここにある。

 主人公・小四を演じるチャン・チェンは、当時ズブの素人ながら口数の少ない内向的なキャラをナチュラルに演じて好印象。ただ彼の仲間の方がプレスリー好きで歌が上手い奴とか、日本刀やピストル持ってる転校生とかいて遥かにキャラが立っている(笑)。14歳頃って・・・勝手な思い込みで「もう一人前!もう大人!親うざい!」とイキがってる年頃じゃない。その気持ちは筆者も忘れていないので、少年たちの言動にある程度の共感はしながら観れた。ちなみに主人公の父親役と兄役の俳優は、チャン・チェンの本当の父親と兄貴(驚)!!チャン・チェンエドワード・ヤンから、ありとあらゆる方法による演技指導を受けたそうだが、彼が素人の少年故、ヤン監督が精神面をも考慮しての<家族丸ごとキャスティング>だったと思われる。

 キャラ設定もストーリー展開も素晴らしいと思うが・・・何よりも筆者が「エクセレント!」と思ったのは<60年代の再現力>と<映像美>!!筆者も遥か昔に台湾に一度しか行った事ないけど・・・当然の事ながらロケは、1960年代当時の建物を探して撮影してると思うんだけど、ラジオやポスターほか小道具も含めて「きっとこんな感じだったんだろうな〜」と普通に納得した次第。で、肝心要の"映像"は・・・主人公が学校の夜間部に通っているという設定なので、ナイトシーンも多いんだけど、考え尽くされているけれど必要以上にそれをアピールしていない構図にカメラワーク、そして夜の照明・・・。中でもある程度引いたサイズの画(大ロングショットではない)がバッチリ決まってて素晴らしかった^^!オリジナルの脚本を読んでいないし、どれだけフィルムを回したのかは分からないけど・・・これだけの量を撮るのが如何に大変な事か!筆者なぞ30分のVTR作るのもヒーヒー言ってたから(笑)、スタッフ・キャストの苦労が容易に想像出来た。


 エドワード・ヤンとしては自分がリアルタイムで少年時代を過ごした60年代を描こうという強い意図をもって監督(共同脚本も)したと推察される今作。娯楽作ではないけれど、先にも書いたように「青春群像劇」であり、「社会派映画」でもあり。ただ単に「長いから!」というだけで食わず嫌いすると、映画ファンとしては損をすると思う。素直にいい映画だと思う^^。


 
 ・・・先日の大型台風に北海道の巨大地震・・・。あちこちで立て続けに起こる災害。被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。