其の637:沖縄戦秘話「ハクソー・リッジ」

 ・・・この半月、めちゃめちゃ仕事上で“ハードな出来事”が続き、間が空きに空いてしまいました(もう6月も終わるやんけ)。この辺りのことは察して頂ければ幸いです。セルジオ・コルブッチどころの状況ではなかった・・・(疲)!

 この前、映画「家族はつらいよ2」を夫婦揃って鑑賞。前作は大人の事情もあって自分ひとり、今回は“ちょっとした事情”で妻と劇場に行きました。決して筆者の頭がどうにかなったのではありません(笑)。結果を書くと前作同様、ふつーに面白かったですよ^^。喜劇ながら現代日本が抱える高齢者問題がテーマにあって、その辺りはさすが山田洋次大先生!ビリー・ワイルダーの作品よろしく、笑わせて笑わせて(今回も前作同様、登場人物が滑ってこける等、ベタな笑いも健在)最後は泣かせる・・・という<王道>の作り。うちの奥さんなんかマジで泣いてたからね。年配のお客さんが多かったけど、今回は広く皆に観て貰って、今後の日本の在り方を考えてほしい一作。

 
 ・・・で、日本人として、そんな映画をもう1本。<ハリウッドの問題児(←いい大人だが)>メル・ギブソン10年ぶりの監督作品「ハクソー・リッジ」を鑑賞(これはひとりで観た)。実話に基づく「戦争映画」です。日本の宣伝では全く言及されてないけど、かの沖縄戦が登場!!岡本喜八監督作品「激動の昭和史 沖縄決戦」を観直してから映画館に行きました(一応、復習)。絶賛公開中につき、余りネタバレしないように書きます。


 アメリカ・ヴァージニア州で生まれ育ったデズモンド・ドス(=成長した姿を演じるのはアンドリュー・ガーフィールド)。父親のトム(=「マトリックス」のヒューゴ・ウィーヴィング)は第一次世界大戦参戦でのPTSDに苛まれ、妻との喧嘩が絶えない日々を過ごす。
 時は流れ、成長したデズモンドは恋人ドロシーと楽しい日々を過ごしていたものの、第二次大戦が激化。彼の弟や周りの友人達も出征していく。子供時代の経験から、「汝、殺すことなかれ」というキリストの教えを大切にしてきた彼は「衛生兵」を志して陸軍に志願する。グローヴァー大尉(=「アバター」のサム・ワーシントン)率いる部隊に配属されるが、銃に触れる事だけは拒否するデズモンド。大尉から命令に従えないなら除隊しろと宣告され、同僚たちから嫌がらせや暴行さえ受けるものの、彼の意志が揺らぐ事はなかったー。
 1945年5月、沖縄ー。グローヴァー大尉を筆頭に通称「ハクソー・リッジ」に到着。ここは先発隊が6回登ったものの全て撃退された激戦の地。絶壁を登り前進した瞬間、日本軍による四方八方からの猛攻撃が開始された。武器も持たず、銃弾と炎の中を駆けずり回り、重傷兵士を担いでは助けていくデズモンドだがー!?

 
 タイトルの「ハクソー・リッジ」とは沖縄の「前田高地」のこと。ハクソーは“鋸(ノコギリ)”、リッジは“崖”の意。約150メートルの断崖絶壁が、ノコギリの様に険しい事から米軍が名付けた。ここからは当時、日本軍の司令部があった首里を一望出来る為、日米ともに重要な戦略ポイントと位置づけていた。この説明が映画になかったのは残念。この場所での戦いを・・・筆者はこの映画の話を聞くまでは知らなかった。日本人として申し訳ない!

 でも今作最大のポイントは何と言ってもデズモンド・ドスさん(1919〜2006)の存在だね!本当にこんな人がいたなんて・・・とても信じられない!!映画は沖縄に絞ってあるけど、フィリピン戦でも同じように働いたそうで。前田高地での激戦同様、この方の存在も筆者は知らなかった。知られざる実話が映画が公開されることで広く世界に知られるようになる事も映画の重要な効用のひとつ^^。もっとも昔から映画化権のオファーは彼のところには来ていたらしいが、それらを一切OKしなかったそうで(この方らしい)。もし万が一、存命中にOK出していたら、もっと早く世界に知られる人になったとは思う。この人こそ真のヒーローだ。

 メル・ギブソン監督(→本人の企画ではないけれど)の作劇は前半「主人公の生い立ち〜入隊中のエピソード」、後半「沖縄での大バトル」とマイケル・チミノの「ディア・ハンター」やキューブリックの「フルメタル・ジャケット」を彷彿させる構成。前半、丁寧にドラマを見せていく事で後半のドラマを盛り上げようとする意図がよくわかる。もっとも「父親が母親に銃をむけた話」や「恋人との出会い」は脚色されてるようだが・・・まぁ、そこは「映画」ということで(笑)。

 戦場描写(ロケはオールオーストラリア)は既に戦争映画の作り方を変えたスピルバーグの「プライベート・ライアン」やリドリー・スコットの「ブラックホーク・ダウン」を踏襲。人体破壊描写はこちらも慣れたっちゃー慣れたけど、白兵戦の凄まじさをこれでもかと見せつける。これを<地獄>と言わずして何と言おう。相手が日本兵(しかも民間人に多大な犠牲を出した沖縄戦)という事に日本人としては感じる部分もあるが、ヘンな日本人描写がないのは好感が持てた。実話ベースなんで、オチは見えるけど・・・。筆者はこの映画、好き❤戦争やりたがってる権力者たち(←こういう人は決まって最前線には行かない)こそ是非観て頂きたい。

 メル・ギブソンもこれを機に身のふり方には最新の注意を払って頂いて(世界的セレブだし)、次回作(企画は幾つもあるようで)に期待したいと思います。