其の634:70年代的若者像「青春の殺人者」

 先日、何気なくアラン・ドロン出演映画「シシリアン(音楽をエンニオ・モリコーネが担当)」を観たら、程なく「ドロン俳優引退」の報道が(驚)!!一世を風靡した彼も早80代・・・致し方ないことだが・・・悲しいなぁ。

 今回紹介するのは邦画「青春の殺人者」(’76)。主演は水谷豊と原田美枝子。その原田美枝子は今や彼女の娘さんも現在、女優として活躍中。ドロン様引退同様、時代は流れたなぁ〜・・・(遠い目)。監督は“日本映画界の生きるレジェンド”長谷川和彦(第1回作品)!音楽は後に「ガンダーラ」、「銀河鉄道999」でヒットを飛ばすゴダイゴだ♪


 千葉県・郊外ー。両親(=内田良平市原悦子)の援助で小さなスナックを経営する順(=水谷)と、その店で働く彼の幼馴染で恋人のケイ子(=原田)。順の親はケイ子との仲をこころよく思っていない為、いさかいが絶えない。そんなある日、こっそりとクルマをとりに実家へ帰る順。だが、あっさり見つかって、父親とさしで話すことに。すると彼から順の知らないケイ子の“過去”を聞かされる。激高した順はそばにあった包丁で父親を刺殺!更には買い物から帰ってきた母親をも刺し殺してしまう・・・!!


 原作は1974年に千葉県市原市で実際に起こった事件(いまも犯人は塀の中)をヒントに書かれた中上健次の短編小説「蛇淫」。ATG(懐)より監督依頼のあった長谷川和彦が企画を探す中、大島渚作品の脚本で知られる田村孟から「蛇淫」を教えられて気に入った事から制作がスタート。長谷川が約半年、事件のリサーチを行い、その調査結果も踏まえて言いだしっぺの田村が脚本を担当する事になったのだが・・・俳優たちのスケジュールの関係で台本が未完成のままクランクインしたそうな。

 筆者も大昔観たきりで・・・つい最近、見直したんだけど、まず水谷豊も原田美枝子も若い(当たり前だ:笑)!筆者世代はドラマ「傷だらけの天使」とか「熱中時代」知ってるから「懐かしいなぁ〜」レベルだけど、「相棒」の右京さんしか知らない若い世代は・・・役柄含めてびっくりするんちゃうんか^^(当時24歳。後に自身で主演・監督を兼任するタップダンス映画を考え始めたのはこの頃かも)。原田美枝子なんか、今作で脱ぎまくってるけど(水谷さんが原田さんの乳首を吸うシーンもある)この当時、なんと高校2年の17歳(JK)!!17歳でこの役演るとは・・・ホント、これまで何度も書いてきたけど<70年代>は凄いわ!なんでも原田さんは映画祭でゲストに呼ばれた数年前まで、ハード過ぎた今作を観直さなかったという(苦笑)。余談だが、実際の事件では、彼女の立ち位置は幼馴染などではなく、内縁の夫のいるソープ嬢(旧「ト●コ嬢」)。
 他に脇役ながら桃井かおり地井武男、白川和子も出てる。特に桃井さんや地井さんの出演部分は上映時間の関係でカットされた為に僅か1シーンしかない(「予告篇」にカットされたシーンの断片を観る事が出来る)。阿藤快もエキストラレベルで出てるけど・・・これは事前に知らないと分からないレベル(苦笑)。

 当時、長谷川監督も齢30歳という事で→→→非常に瑞々しいタッチ!!手持ち撮影を多用して、若者の心の不安定さをよく表現していると思う(主人公が海でかつての親子3人を思い出して涙するところは感動)。但し、スタッフの平均年齢24歳(現場経験値が低い)&千葉県と伊豆でのオールロケ(撮影は50日強)とあって・・・撮影時は予算面含めて色々あったそうよ^^。送られてきた田村孟の追加脚本にノレずにオミットしちゃって抗議の手紙送られてきたりと・・・若き新人監督にとっては大変な現場だったようだ。公開後、高く評価された事で報われたと思うけど^^。

 監督第2作「太陽を盗んだ男」(’79)で皇居にてゲリラ撮影をした事で有名な長谷川監督だが、今作でも!ネタバレになるんで、どのシーンかは伏せるが確信犯でゲリラ撮影を行って・・・現場責任者としてプロデューサーが一晩警察にご厄介になったそうで(笑)。監督ご自身、ゲリラ撮影好きが原因で新作を撮らせてくれないのではないか、と感じているようだ(笑)。これも前に書いたと思うけど、数年前に新作の企画(「連合赤軍」のお話)のインタビューを読んだのだが・・・また流れちゃったのだろうか?!

 
 「青春の殺人者」、「太陽を盗んだ男」と未だ2作しか撮っていない長谷川和彦監督(←ファンからしたら2本観たら<コンプリート>という利点もあるけど)。彼の2作に共通する映像のタッチは21世紀現在の日本の青春映画には・・・ない。漫画原作とCG駆使の作品オンリーでは・・・求めても無駄、かもしれんが。心あるプロデューサーの方、長谷川監督にどうか資金の提供をお願いします!!!