其の642:ポップな任侠アクション「東京流れ者」

 ・・・雨ばかりで大して夏らしさもなく、もう秋の気配の9月(哀)。・・・日本に水爆はこないだろうな!?

 
 「ゾンビ」のロメロ監督にフランスの大女優ジャンヌ・モロー・・・えとせとら・・・世界映画史にその名を残す方々が次々と亡くなられた2017年ですが・・・タランティーノや「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督にまで影響を与えた、あの鈴木清順監督も鬼籍に入られてしまった。そこで遅〜い追悼として代表作のひとつ「東京流れ者」(’66)を紹介。原作&脚本は「月光仮面」のほか、晩年、森進一との「おふくろさん」騒動もあった川内康範大先生!!そこに“清順美学”が加わったケミストリーの結果とはー!?


 ヤクザ稼業から足を洗い「不動産業」を営むようになった「倉田組」。そのため、ことある毎に「大塚組」から絡まれる元組員の本堂哲也(=渡哲也)。だが彼は倉田の無抵抗主義を守りぬく。その頃、倉田は経営難により金融業の吉井からビルを担保に借金をしていた。それを知った哲也は単身吉井に会い手形の延期を申し込み了承される。この一件を吉井の女性事務員から聞いた「大塚組」は、吉井に担保のビルの権利書を渡せと脅迫する。その結果、吉井は殺され、権利書を奪われた事を知る哲也。大塚は邪魔な哲也を殺す為、殺し屋・辰造(=川地民夫)を雇う。だが辰造は哲也にあっけなくやりかえされる。自分がいると迷惑が掛かると考えた哲也は単身、倉田の人脈を頼って北国へと旅立つが・・・!?


 昭和40(1965)年にデビューした<新人>渡哲也を売り出す為に企画された「歌謡アクションもの」。渡さんご本人も劇中、ちょいちょい主題歌「東京流れ者」(作詞は川内康範先生の奥様・川内和子)を歌っとります。普通の監督だったら、至極どノーマルな作品になったと思うのですが・・・いまこのブログを読んでいる皆様の予想通り、アバンギャルドな映像美で彩られるポップな任侠映画と変貌した(笑)!

 なんせ冒頭、モノクロなんで「白黒映画か」と思いきや、いきなり総天然色(カラー)にチェンジ!出てくるセットは良くいえば“お洒落(トーンが全部、白とか黄色とか)”、悪くいえば“リアリティーなし”のセットが次から次へと登場。バックの背景がいきなり変わったり・・・昭和40年代の観客は大いに困惑したのではないか。いまでは全然大丈夫だけど^^

 川内先生の脚本をベースに(でも新人を売り出す為の企画ゆえか低予算)、ありとあらゆるイメージをブチこんだ清順監督。渡哲也の恋人役で出演した松原智恵子が演出意図を質問しても明確な返答はしなかったそうで。でも観ていると監督の<狙い>はよ〜く分かる。時々インサートされる“枯れ木”は主人公の象徴。北国(ロケ地は新潟)でのバトルシーンは“江戸時代の任侠もの調”、佐世保(ロケ地は実は横須賀^^)での大乱闘は“ハリウッド的スラップスティック調”と単調にならない為の気遣い。画がつながってないところもちょいちょいあるが、CMやMTVの先駆けと考えれば(カットをつなげる為には余計な芝居が必要)納得もいく。・・・現在では(笑)。

 でも新人俳優・渡哲也としては・・・どうだったんだろうね〜!?なにをやってるのか分からん部分も多々あったのではないかしら?どの作品でも(恐らくは“美学”が開花してからはより一層)スタッフも常連俳優も“全ては監督しかわからない”っていう感じで撮影していたと思うので、新人なら尚更混乱しそうなものだが・・・。役柄上、終始、苦い表情をしている渡さんだが、実はその辺りの困惑の表情かもしれないな(筆者の勝手な邪推です)。二谷英明の名が大きくクレジットされていますが、出番は中盤以降なのでファンの方はある程度、ストーリーが進むのをお待ち下さい^^。

 完成作のラストは展開上「もうこうなるんだろうな〜」と誰もが思うセオリーな形で終わるんだけど、ラストとして清順が撮ったのは「地上に横たわる枯れ木の真っ赤な切り株と、緑色の月(!)の中に佇む主人公の姿」(驚)!勿論、お偉いさんが観てカット(笑)!!問題作「殺しの烙印」(’67)で日活を解雇された事は有名な話だが、「殺し〜」は監督作40本目。そして今作は38本目に当たる。後年、監督曰く「(渡を売り出す作品だったのに)それがこんなのができちゃったから、会社(日活)から怒られた。」とコメントしてる。今作はその予兆であったという事かもしれない。


 後に日活と和解、「ツィゴイネルワイゼン」で大ヒット&個性派俳優としても活躍。21世紀現在ではその名が海外にまで大いに高まった訳だから、己の美学を通した鈴木清順は大いに報われた監督生活だったのではあるまいか。