其の635:タイトルも中身も凄い「みな殺しの霊歌」

 ・・・新緑の季節5月。またひとつ年を食いました。老眼にはなるわ、パッと単語が出てこない時もあるわ・・・いい事ひとつもないなぁ(トホホ)。

 
 本題。今回取り上げるのは「みな殺しの霊歌(れいか)」(’68)です。監督は加藤泰!以前書いた「真田風雲録」(’63)といい、このブログでは監督の<代表作>をあまり取り上げない傾向がある(苦笑)。でもって今作は何と「松竹映画」!!「東映」ではありません(笑)。普通、<松竹>といえば小津安二郎の諸作や「男はつらいよ」シリーズ等の“ホームドラマ”のイメージがありますが、一時期の松竹でも大島渚篠田正浩の他にもトガった作品を作ってたんですね〜。ホント、1960年代・70年代は凄い時代だった^^


 東京ー。高級クラブのママ・孝子がマンションの一室で暴行された上、刺殺される事件が発生する。犯人は孤独な男・川島(=「独立愚連隊」の佐藤允)。彼は孝子を殺す前“ある事件に関係した4人の女友達”の名前と住所を聞き出していた。川島は行きつけの食堂で働く春子(=倍賞千恵子)と心を通わせつつも、ひとり、またひとりと女達を殺していく。川島と殺された女たちに直接の接点がないことから警察の捜査は難航するがー!?

 
 強面(失礼!)の佐藤允が有閑マダム達を次々惨殺していくサスペンス映画。ちょっとネタばれっぽいから伏字にするけど、欲情した熟女たちが16歳の少年を●●●●するという発想が凄いよな!いまでは多分企画が通らない(笑)。で、それに加え何故家族でもない佐藤が復讐に立ち上がるのか、また「寅さんの妹・さくら」こと倍賞千恵子にも重い過去があり・・・その辺りのキャラクターたちの内情を絡ませつつ進行するストーリーをお楽しみ頂きたい。賢明な読者諸氏の推察通り、このタイトルと内容で「全員が歌って踊ってハッピーエンド」になる事はありません(笑)。

 松竹サイドから加藤泰に「五瓣の椿」(野村芳太郎監督)のヒットを受けて、その現代版としてオファーされたのが今作の始まり。設定が設定だけに最初は加藤も及び腰だったそうだ(復讐の意味合いもいまいち良くわかんないし)。今作を語る上で最も注目すべきは加藤泰と共に「構成:山田洋次」のクレジットがある事(驚)!!ミステリー映画の脚本は書いていたものの、本来喜劇やホームドラマを監督していた山田監督が何故・・・!?2人が仕事をする事は前にもあったが、加藤によると、こういうジャンル畑じゃない山田を加える事で、いい意味での化学反応が起こる事を期待したみたい(「脚本」は後に監督もやる三村晴彦)。どシリアスで救いのないお話なんだけど、刑事のひとりが痔を患ってるとか、登場人物達のそこかしこに生活臭が漂うのは山田監督の功績のような気も・・・しなくはない。

 加藤泰作品の特徴と言えばローアングルと長回し。今作はあえてモノクロで撮影して作品自体の不気味さを強調しつつ、ローアングルで攻めまくる(笑:さすがにアスファルトの道路まで掘りかえしてカメラ置いたとは思えんが)。暴行・殺人シーンのアップ・アップの画面と早めの編集からキャラクター達が感情を吐露するシーンの長回し・・・と緩急つけた演出が冴える。俳優陣は先述の佐藤允(松竹映画初出演)、倍賞千恵子の好演の他、有閑マダムのひとりに菅井きん、警察官に<石井輝男作品のお笑い担当>大泉滉(笑)とナイスなキャスティング♪


 前にも何度か書いた事だけど・・・今作では1968年当時の新宿駅西口周辺や横浜駅前、鎌倉駅周辺の様子も散見できる。映画は時代のタイムカプセル的効用もあるのだ^^