其の630:キング・オブ・カルトの始まり「徳川女系図」

 先日、試写会で「キングコング:髑髏島の巨神」を観ました。ベトナム戦争末期、衛星写真で発見された未知の島「髑髏島」にいったアメリカ人御一行がキングコングほか様々な怪獣と遭遇し、大変なメに遭う内容。日本以外にもこんなに複数の怪獣がいる島があった(笑)。筆者が小中学生だったら「シン・ゴジラ」より面白いって言うネーこれまでの「キングコング」に「地獄の黙示録」を加えた超娯楽怪獣大作!なにも考えずに観られる大エンターテインメントとしてお薦めです。エンドクレジット終わりに“次作の前ふり”があるので最後の最後まで席を立たぬようご注意下さい!


 ・・・さて、年が明けて真面目な映画ばかり書いてしまったので、その辺りを反省して<キング・オブ・カルト>石井輝男監督作品の紹介を(笑)。独立系プロダクションによるピンク映画が観客を集めていた事で大手映画会社・東映がそのプライドをかなぐり捨てて製作したのが「徳川女系図」(’68)!その後の<異常性愛路線>の根源がここにある。後の「徳川いれずみ師 責め地獄」(’69)とか観ているとさぞかし凄いのでは・・・と思いきや、実は“いい映画”なのですよ(それなりに^^)!!


 五代将軍・徳川綱吉(=吉田輝雄)は「大奥」にいる多くの女性たちを日々物色する毎日。その「大奥」は正室・御台所信子(=三浦布美子)ら<御台所派>と、愛妾・お伝の方(=三原葉子)らの<江戸派>が対立している。ある年の大晦日、女性たちのみが行う恒例の「新参舞」を秘かに覗いていた綱吉は、内股にホクロのある女中・おみつ(=御影京子)に興味を持ち、その夜の相手を命じたものの、彼女は二派の対立によって拷問を受け追放されてしまう。この出来事を皮切りに綱吉は人間不信に陥っていく。その結果、綱吉はところかまわず女を求め、家臣の妻まで犯す様になるのだが・・・!?


 それまで高倉健主演「網走番外地」シリーズほかを手掛けていた石井輝男監督。その彼が手掛けた初の時代劇にして、かつてない女性の裸を大量に出して世間をあっと言わせた(そして評論家や奥様連中に怒られた)記念すべき<異常性愛路線>第一作。いまの若人には想像つかないだろうけど、アダルトビデオがないこの時代、大ヒットを記録した。「『網走番外地』の人気監督が・・・何故これを?」という誰もが思う素朴な疑問に石井氏本人は「(「網走〜」が続いて)もう飽き飽きしてて、何か別の事をやらしてくれると言うので」とコメントしている(「東映ピンキー・バイオレンス浪漫アルバム」徳間書店刊より引用)。

 原作として岩崎栄がクレジットされているものの、実際にはタイトルを使っただけで、内容は菊池寛の「忠直卿行状記」がベース!江戸時代初期に実在した大名・松平忠直(←徳川家光徳川光圀等の従兄)のお話を“犬公方”こと綱吉に置き換えて脚色したもの(石井監督は共同脚本も兼任)。ただ撮影にはかなり苦労されたそうだ。

 まずこの時代・・・脱いでくれる女優さんがそんなにいない(苦笑)!そこで先述の独立系プロダクションによるピンク映画出演女優を大量動員(致し方なし)。クレジット見ていると、今作では三原葉子(←石井監督とは東映以前から仕事してた)は脱いでないけど、端役で谷ナオミ(!!)や内田高子、後の石井作品の常連・賀川雪絵らが出演。賀川さんは女相撲とかもやらされてる(笑)。但し、観ていると次第に女風呂や女性の合宿所とかを見学している様な気に(苦笑)。現在視点では、過剰なエロスやグロ描写はないので、そちら目当ての方は要注意。

 <ポルノ>ではあるけれど<時代劇>なので→→→着物ほか「衣装代」はかかるし、「大奥」の長〜い廊下を再現するのに撮影所内2つのステージを繋いでセットを組んだそうだから・・・めっちゃお金かかってる。加えて、石井さんらしい早いカッティングの編集、最後は驚愕のラスト(ぶっちゃけ、歴史の改変・・・う〜ん、これ以上はネタばれ防止につき書けない)&いい話になってる(筆者的には^^)!「日本映画史」を考える上でも見所が多い作品だと思う。石井ファンは必見の一作。



 以前から何度も書いていますが今作「徳川女系図」が公開された“1968年”は、かのスタンリー・キューブリックによる「2001年宇宙の旅」が公開された年でもある。その前年にはアメリカン・ニューシネマが始まる・・・。60年代末は、本当に映画史にとって重要な時代だったとつくづく思う。