其の222:キターッ!!「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」

 「映画」が誕生して100有余年。これまで世界中で数多くの作品が作られてきたが、それと同時に<封印>されてしまったものも数知れず。勿論、「邦画」もその例に洩れないが(有名どころでは「ノストラダムスの大予言」とかね)時々リバイバルこそされるものの、未ソフト化だった日本を代表する怪作が遂にDVDで発売された(驚&喜)!!その名は「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」(’69)!ここで何度もとりあげた故・石井輝男監督の代表作(ウン年前、筆者もリバイバルで観賞)。この作品を知らずして安易に「映画ファン」を名乗ることなかれ!!


 大正時代。医大生・人見広介(吉田輝雄)が目を覚ますと、そこは精神病院だった!理由も分からぬまま監禁生活を余儀なくされる人見。そんな中、彼は幻覚の中で聞き覚えのある「子守唄のメロディー」を耳にする。何故か彼の命を狙う男を人見は逆に殺し脱走に成功、メロディーを口ずさむ声の主・初代(由美てる子)を探し当てる。ところが彼女も唄については詳しく分からないと言う。そんな初代が翌日、人見の目の前で殺され、彼は殺人犯として追われる立場に。そこで初代が口にした「北陸の唄かもしれない」の言葉を頼りに、人見は一路北陸へと向う。そこで人見は想像を絶する事態に巻き込まれていくのだが・・・!


 石井輝男監督は一般的に高倉健主演の「網走番外地」で知られているが、同時に「異常性愛シリーズ」と呼ばれる作品群の監督として「キング・オブ・カルト」の称号も持つ(笑)。その彼が「網走〜」のシリーズ化にあきあきしていたところに、東映自身が企画したポルノ路線に興味を示したことで全てが始まった。これに彼がのっていなければ・・・石井が映画通の間で今尚語られる事はなかったかもしれない。本当に人生というものは分からんものだ(笑)。


 今作は会社が石井に「何かないか?」と声をかけた時に本人が出した企画。昔から江戸川乱歩のファンだった彼は「しめしめ、儲けたな」と思ったそうだ(爆笑)。そこで石井は特にお気に入りだった「パノラマ島奇譚」、「孤島の鬼」をベースに「人間椅子」、「屋根裏の散歩者」などあらゆる乱歩テイストを一気にぶち込んだ(=故に「江戸川乱歩全集」)。そのため生前「頭から最後までクライマックスしかない映画を作りたい」と語っていた石井ならではのハイパー・ストーリーが展開する事となる(笑)!


 筆者がリバイバルで観た時、劇場はもう爆笑の渦!数々のトリッキーな演出もさることながら、俳優陣が凄すぎ。主演の吉田輝雄は大真面目&大袈裟な演技を披露。あの「目力」はーウケた(途中、彼の髭がボウボウに伸びている場面があるのだが、その前後のシーンに髭はない。後日、追加撮影したのかもしれないが全くつながってない大ポカ)!大木実演じる明智小五郎はいきなり最後の最後に現れて美味しいところをさらい、石井組の常連、小池朝雄コロンボの声の人)は「女装」まで披露!由利徹大泉滉は期待にたがわず笑わせてくれる。中でも知る人ぞ知る暗黒舞踏土方巽大先生はいい味出してます^^
 今作が<封印>された理由は、大勢の改造されたフリークスが登場するためなのだが(=差別を助長する、との事)全員どう観ても特殊メイクばればれ(これで差別を助長とかは考えすぎだと思うけど)。その中にはあの近藤正臣(柔道ドラマで足でピアノ弾いた人:爆笑)もいるのだが・・・完全にメイクで顔隠れて判別できません(苦笑)。


 この作品を語る上で絶対に外せないのが、ラストの「人間○○(劇場では爆笑&拍手喝采)」!知っている人は知っているがあえて伏せます。マナーとしての「ネタバレ防止」もあるけど、多分書いてもすぐイメージが湧く人は・・・地球規模で考えてもほとんどいないと思う(笑:でもマジ)。このラストで映画を締めくくる輝男は勿論、ただ者ではない(脚本は石井と掛札昌裕)。


 ちなみに冒頭書いたDVDは残念ながらアメリカで発売された「輸入版(でもリージョンフリーだから日本でも観られるわけよ^^音声は日本語だし)」です。日本で発売されるようになったとはいえ、肝心の本国での<解禁>はまだまだ先のようですな。晩年、イタリアの映画祭で今作が上映された時にも大いにウケ、石井は「これからはイタリアよね」と語っていたらしい。かのタランティーノ石井輝男の事を絶賛している(彼はいろんな人、誉めてるけどさ)。もしかしたら黒澤明同様、日本国内での石井の評価は海外と比べてまだまだ低いと言わざるをえない。残念!


 「映画」を知れば知るほど・・・今作のような「封印作品」や知られざる傑作、名作、怪作が次々と出てくる。舞台裏だけとっても、本当に奥が深い。だからあきっぽい筆者でさえ幼少時代から延々見続けているわけ。「パイレーツ・オブ・カリビアン」とかキムタクの「HERO」とか大勢が劇場に足を運ぶ「人気作(=出来はまた別の話)」だけが映画ではないことを忘れないでほしい。