其の208:これぞ石井「人が人を愛することのどうしようもなさ」

 かのクエンティン・タランティーノもファンだと公言する石井隆監督の新作「人が人を愛することのどうしようもなさ」を観てきました。なんせ前売り券買ったときに「予定より上映期間が短くなる可能性もあるので、お早めにご覧下さい」と言われましたから(苦笑)。前作の団鬼六原作・杉本彩主演「花と蛇」シリーズにはノレなかった筆者ですが、今作は氏の<集大成>ともいうべき力作でした(18禁よん)!


 土屋名美(喜多嶋舞)は人気女優。現在、新人女優との浮気騒動の渦中にいる俳優の夫(永島敏行)と新作映画「レフトアローン」で共演している。その忙しい合間を縫って、雑誌編集者(竹中直人)のロングインタビューを受ける名美。その映画は夫に浮気された女優がその絶望感を埋めるために、夜は街に出て娼婦になるという皮肉な内容である。映画について詳細に説明していく名美だったが・・・。


 ファンの方ならご存知だが石井隆は元「劇画家」。ヒロインに名美と名づけた女性が登場するエロ漫画を描き続けて、その筋では一世を風靡した人(ノーキャラで知られる松本零士大先生やあだち充もかなわないだろう)。で後に映画の脚本(「にっかつロマンポルノ」)を手がけるようになり、88年の「天使のはらわた 赤い眩暈」で念願の監督デビュー。以来、映画でも「名美(男は「村木」)」を描き続けてきたのだが・・・しばし中断。今作は94年の夏川結衣主演作「夜がまた来る」以来の名美復活作となる。


 今作で名美を演じるのは喜多嶋舞。週刊誌では「喜多嶋舞が緊縛シーン!」とかセンセーショナルな見出しと共に写真を掲載していますが、もう既に石井監督の「GONIN2」(’96)でおっぱい出して縛られ済み。雑誌記者は不勉強ですな(笑)。
 今作では「劇中劇」の中でおっぱい、ヘアも勿論のこと下手したら具まで見えそうな熱演を披露!楽勝で「氷の微笑」のショロン・ストーンを越えました(笑)。脚本執筆に当たって喜多嶋舞を想定したという石井監督も「ここまで(彼女が)やるとは思わなかった」と驚いた程。竹中直人山口祥行の常連俳優のほか、北野武の「ソナチネ」や森田芳光の「模倣犯」の津田寛治が名美のジャーマネ役(=業界用語)で石井組に初参加!いい味出しております^^
 杉本彩は石井監督のファンで、その熱烈アピールが実って「花と蛇」が実現し、そのヒットによって彼女自身も再浮上したわけだが(主にバラエティー番組だけど)、大沢樹生と離婚した喜多嶋舞の人気が今作によって上がるのかどうか気になるところだ(笑)。


 今作はこれまで石井が手がけてきた映画の要素が全てある。永遠のヒロイン「名美」を筆頭に「血」、「雨」、「エロ&暴力」のモチーフに加え(これが凄惨なもんだからエロ目的で見た観客はブルーになる:苦笑)、「花と蛇」で行ったSMプレーに「GONIN」シリーズ&「黒の天使」シリーズで培った「ガンアクション」も(ちょこっとだけど)。
 ストーリーには「劇中劇」の二重構造を用いたことで「ブレードランナー」で知られるフィリップ・K・ディックの小説のように途中から「どこまでが真実で、どこからが虚構なのか」よく分からなくなってくる(=でもオチは感のいい観客にはすぐ分かります)。「昼間は女優、夜は娼婦」という設定は「東電OL殺人事件」から持ってきたのではないか?こうした凝った「展開」は氏の劇画家時代の作品にも見られたもの。で「撮影アングル」含めて(石井漫画には名美の大股開きの構図がよく見られた)筆者は石井隆が「原点帰り」して作品に取り組んだ気がした。石井監督は撮影前、岡本喜八と同様、詳細な絵コンテを書くことでも知られているし。


 石井作品の魅力はよく言われる「堕ちてゆくほど輝きを増す女性像」のほか、「重厚ながらも不思議な透明感のある空気」だと思う。今作にもそれは健在^^この映像感触を作れる作家は他にいない。それは撮影の佐々木原保志(今回は2カメで撮った)、照明の牛場賢二、そして音楽の安川午朗と石井作品の常連スタッフがしっかりサポートしている結果でもあろう(またまた撮影日数が少なくてキツかったと思うけど)。縦書き&斜体がかかった独特のタイトル及びキャスト、スタッフロールもいつもの通り^^今度、真似しようかな(笑)。


 石井隆の現在のところの最高傑作は「ヌードの夜」だと筆者は思っているが、それに比べても大幅に劣ることのない力作がこの作品です。次に石井隆がどんな作品を手がけるのかーますます目が離せない(脚本提供作「天使のはらわら 赤い教室」をリメイクする、との噂もあるけど)。