其の607:第二の人生は幸せか?「セコンド」

 7月・・・梅雨の合間の猛暑・・・。もう異常気象にも慣れつつある自分が怖い(苦笑)。

 さて月もかわって何を書こうか、大いに考えました・・・ジョージ・ロイ・ヒル監督作「スローターハウス5」が頭をもたげましたが・・・「セコンド/アーサー・ハミルトンからトニー・ウィルソンへの転身」(’66・米)にします!理由は「スローターハウス5」より内容が分かりやすいから(笑)。監督はジョン・フランケンハイマー。普通、彼の作品を紹介するなら「終身犯」(’61)とか「フレンチ・コネクション2」(’75)あたりがセオリーなんだけど、その辺は「ド定番映画ガイド本」をお読み頂いて、ちょいマイナーな作品をチョイス(その方がこのブログらしいでしょ^^)。それにしても・・・邦題のサブタイトル、長っ(原題は「SECONDS」だけよ)!


 50代のアーサー・ハミルトン(=ジョン・ランドルフ)は銀行マンとして、それなりの地位にあったものの、一人娘は結婚して家を離れ、妻への愛情は既に冷めていた。そんな彼にある日を境におかしな電話がかかってくるようになり、電車に乗る際には見知らぬ男から住所だけが書かれた紙を渡される。再び電話が来たとき、声の主は亡くなった筈の学生時代の親友だと名乗り、その住所へどうしても行って欲しいと懇願される。書かれた場所に向かったアーサーは、謎の会社のメンバーに半ば脅迫めいた形で“いままでの人生をリセットして第2の人生を送る”契約書にサインする事となる。整形手術によって若返った彼は、画家トニー・ウィルソン(=「ジャイアンツ」他で知られる二枚目ロック・ハドソン)としてカリフォルニアで新たに生活する事になったのだが・・・!?


 デヴィッド・イーリイの原作小説「蒸発」をジョン・フランケンハイマー監督以下、音楽に巨匠ジェリー・ゴールドスミス、タイトルデザインを「サイコ」ほかヒッチコック作品で知られる大御所ソウル・バスが担当・・・と超一流スタッフが結集した気持ちSF入ってる不条理スリラー。冒頭からソウル・バスによる人の顔のどアップが歪曲しまくるモノクロ映像で観客にぐいぐい迫ってくる。

 なんでも当初は主人公のトニー・ウィルソンこと“リボーン(生まれ変わりし者)”を1人がメイクで2役演じ分ける方法を考えていたそうだが、かのロック・ハドソンが反対(余談だが、ハドソンが実はゲイでエイズを告白した時は世界に衝撃が走ったものだ)。ジョン・ランドルフと交流を深め、身体的特徴や動作の癖を徹底研究したそうな。後年、ジョン・ウー作品「フェイス/オフ」でお互いの撮影シーンを見て動作の癖を研究しあったジョン・トラヴォルタニコラス・ケイジを連想させるエピソードだ。今作も「フェイス〜」も<整形手術で変身>という共通項がありますな(今作では手術で顔のほか指紋も変えて、トレーニングで弛んだ身体を鍛えて別人へとなりますが「フェイス〜」では医師が最新コンピュータを駆使して全身手術。これも時代の差か)。

 人間も長くやってると・・・消し去りたい過去や煩わしい人間関係が誰にでもあるでしょう。「もし、あの時ああしてたら?」とか「もう一度、人生をやり直したい」・・・なんて誰もが一度は思う事を“試しにやってみた”のが本作。BUT、外見と生活環境は変わっても、“中身はそのまんま”な訳で・・・今作の主人公が“リボーン”した後、どうなるのかは・・・是非あなた自身の目でお確かめ下さい^^。21世紀の現在視点なら<アイデンティティーの喪失>なんてテーマも感じ取る事ができましょう。

 
 トニーが知り合った女性とワイナリーを訪れる下りはドキュメンタリータッチだったり(→次第に酔っぱらった男女が真っ裸になって、次々と葡萄踏みに興じる!ちょい尺的には長いが)、アーサーが女を襲う場面の美術がダリっぽいシュールレアリスムだったり・・・と内容的にも映像的にも見所の多い今作。公開時、興行的にはコケたらしいが、今じゃ<カルト映画>ということで良いではないですか^^

 そういえば、その昔、マイケル・ベイが「実の父親はフランケンハイマー」なんて発言して物議を醸したハリウッド・ゴシップもあったな〜(懐)


 
 <追記>マイケル・チミノ監督、そしてアッバス・キアロスタミ監督が亡くなりました。ご冥福を心からお祈り致します・・・。