其の601:実写版「テラフォーマーズ」を観たけれど

 疲れがちょっと溜まってきていたので、ちょいとぶっとんだ映画でも観て気分転換しようと考え、迷わず「テラフォーマーズ」を観に行きました。ご存じのように「テラフォ」は貴家悠・作、橘賢一・画による大ヒットSF漫画の実写化です(筆者は漫画は6巻ぐらいまで読んでたけどアニメは未見)。アクション&グロ描写も満載の原作を演出したのは、あの三池崇史監督(近年、漫画原作の実写化も多し)!!原作未見の方の為にネタバレしない範囲で少々粗筋を書きますと・・・。


 21世紀、爆発的に増えた人口問題を解決するため人類は火星への移住を検討。そこで、火星を人間が住める環境に<テラフォーミング(地球化)>すべく、火星に苔とゴキブリを放った・・・。
 それから500年後ー。日本政府は天才科学者・本多(=小栗旬)の指揮の下、15人のメンバーが集められた。生い立ちも境遇もバラバラな一同。小町小吉(=伊藤英明)と秋田奈々緒(=武井咲)は殺人犯として逮捕された事を受けての半ば強制参加だった。彼らの任務は、火星に生息するゴキブリたちの駆除。宇宙船「バグズ2号」に乗って火星へと訪れた一同は、謎の生命体の存在に驚愕する。かつて人類に火星に送り込まれたゴキブリたちは500年の時を経て二足歩行のヒト型(通称:テラフォーマー)に進化し、彼らに襲いかかってきたのだ!!これに対抗すべく、乗組員たちは各々昆虫の能力を所有する<バグズ手術>を秘密裏に受けさせられていた。自分たちの体を勝手に改造されていた事実に憤怒しながらも、襲ってくるテラフォーマーへと立ち向かうー!!


 映画は、原作の単行本第1巻にあたる「バグズ2号編」をベースに「劇団☆新感線」の座付き作家・中島かずきが脚色(←原作では国際色豊かな面々が“オール日本人”に変更されているのは、ちゃんと劇中説明がありますので)。それに加え、上記に記した(&三池作品経験済)伊藤英明武井咲小栗旬のほか、山下智久(ジャニーズ!)、山田孝之加藤雅也小池栄子篠田麻里子(元AKB48)、菊地凜子、ケイン・コスギ・・・等々超豪華俳優集結!ナレーションは池田秀一(「ガンダム」のシャア・アズナブル!)、ネットの評価は低いけど、美術やCGも日本映画にしてはそれなりに頑張ってる(と筆者は思った)!スタッフ、キャストと面白くなる要素がガンガン揃ってる・・・のにタイトな作りなので観ていてダレないけど、それほど面白くはなかった(涙)。それは何故か!?筆者なりに考えてみました。

 
    <以下、映画をこれから愉しみにしている方は読まずに頂ければ>

 ・・・主な理由としては登場人物(核となる伊藤、武井、山下の3人)のバックボーンの説明の少なさ&アクションシーンの高揚感のなさ・・・という2点にあると思う。

 まず1点目の伊藤、武井、山下のバックボーンについて。筆者は原作漫画読んでたから、まだいいんだけど・・・伊藤と武井の“詳しい関係性”が映画では全く分からない!!あれでは映画で初めて「テラフォ」観た人は「2人は以前からの知り合い、あるいは交際まではいってない異性の親友なんだろうな〜!?」というレベルでの推測しか出てこない描き方なので、“クライマックスのシーン(ここでは書かないけど)”が効いてこない。これは伊藤と山下の関係についても同じで、特に山下の方は回想シーンは一切なく、ただ台詞で過去のごく一部を語るのみ。この為、先程の武井同様、クライマックス後の2人のシーンが効いてこない。登場人物に(大なり小なり)感情移入しながら観る映画の作劇としては頂けません。

 続いて2点目。やっぱり今作最大のウリは<バグズ化したメンバーVSテラフォとのバトル>な訳で・・・観ていて「うわ〜、すげー!!」というアクションがないとダメでしょう(ちなみに「何故、敢えて銃器を使わずに肉弾戦で!?」と誰しもが思うツッコミは原作自体の問題なのでスルーします^^)。特殊メイクしたコスプレ俳優陣とモーションキャプチャーしたCGキャラ戦わせるのはハナから観客も分かっているのだから、少々荒唐無稽なド派手アクションがないと映画としては盛り上がらない。それなのに割りと普通の地味な殴り合いしてるから・・・カタルシスも特になし。もっとやりようがいくらでもあったと思う。

 テラフォーミングした火星の実景撮る為に、日本映画として初めてアイスランドまで行ってロケしたのに、それも十分に活用できてないし(普通、こういう映画の場合、宇宙船着く前後にそういう風景映像入れるじゃない)、船内のセットとかお金かけた割に残念な部分が多い今作(「ブレードランナー」、「マトリックス」のパロディーほか三池さん的ギャグもちょいちょいあるのに)。脚本、演出の問題もあるのかもしれないが・・・もしかすると上映時間(109分)に全ての原因があるのかも知れぬ。

 予算かかってる分(今作に幾らかかったかは知らんが)、1日の上映回数を増やすため(→尺が長くなると上映回数が減るので、その分集客人数が減る)上の方々から「必ず2時間以内でまとめろ!」という絶対命令があったのではないか?その結果、登場人物の背景を説明する時間とアクションシーンも短くなる・・・と。こればかりは関係者に聞かない限り推測の域を出ないが「あと30分長くてもいいから、必要な要素を足して欲しかった!」というのが筆者の最終的な想い。原作者たちは映画を気に入ってるようですが・・・個人的には「極道大戦争」よりはマシだったけど、三池版「スターシップ・トゥルーパーズ」を期待した筆者にとっては大いに残念な結果でありました(三池さんも「スターシップ〜」を好きな作品に挙げてるのに)。


 三池さんの待機作品として「土竜の唄」の続編(1作目は筆者は大して面白くなかった)と「無限の住人」(主演キムタク!)がありますが・・・両方とも漫画の原作!!邦画が<漫画原作過多>、<最初から2部作制>という傾向は・・・この先、どうなのかしらん!?



<どうでもいい追記>映画好き&ミステリーマニアとして、書店でそのテの本を売っているとついつい買ってしまう悪癖が筆者にはあるのですが・・・先日も「これだけは見ておきたいミステリー&サスペンス映画 現代編」(キネマ旬報社刊)をタイトルだけ見て即買い。早速読んだのですが、終盤掲載されている「オールタイム・ベスト映画遺産 ジャンル別映画音楽ランキング サスペンス・ホラー・ファンタジー映画の映画音楽」の項で「4位 太陽がいっぱい *音楽はバーナード・ハーマン」との記載が。「太陽がいっぱい」の音楽はニーノ・ロータだろっ!!老舗映画雑誌でこんな凡ミスがあるとは・・・(トホホ)。情報化社会の常ではありますが、本もネットも人間が作っている以上、悲しいかな必ずミスがあります。全てをまるっと信じることなく、ある程度は疑う&追加リサーチしなくてはいけませんな。