其の579:絵画と映像が合体「みじかくも美しく燃え」

 ・・・ようやく遅〜い夏休みを頂きまして、更新の間があいてしまいました。休み中、主だってやった事はレンタルで「ガンダムユニコーン」を全話一気観したことぐらいかな(子供か:苦笑)。


 上記の「ガンダム」ほかロボットアニメとかも好む筆者は<わかりやすい日本男子>なので、さほど「恋愛映画」や「文芸作品」を積極的に観る人ではないのですが、親友Sくんに薦められて観たスウェーデン映画「みじかくも美しく燃え」(’67)は・・・タイトルこそ知ってはいたものの未見だったのですが・・・良かったっす!!スウェーデン映画といってもエロは期待しないように(笑)。で、そのお話はといいますと・・・ ↓


 1889年、夏の終わり頃のデンマークの森の中で無邪気に戯れる一組の男女がいた。シクステン・スパーレ:スウェーデン陸軍中尉(=トミー・ベルグレン)とサーカスの綱わたりの花形スター、ヘドヴィグ・イェンセンことエルヴィラ・マディガン(=ピア・デゲルマルク)である。シスクテンは伯爵の称号をもつ貴族でありながら身分も妻子も捨てて軍を脱走、エルヴィラも家族を捨てて愛の逃避行に身を投じたのだった。森の近くにある宿に落ち着き、しばし幸福な時を過ごす2人。ところがひょんなことからシクステンの身分が宿の同宿人に気付かれてしまう。2人の失踪が報道される中の逃避行。次第に所持金は少なくなっていくがシクステンは“脱走兵”の為、仕事を探す事さえ出来ない。次第に追い詰められていく2人は・・・。


 ネタばれっぽくなっちゃうけど、冒頭から字幕で「1889年、スパーレ中尉とエルヴィラがデンマークの森で心中した事件の実話である」と出てくるから、観客はハナから“道行き(→浄瑠璃や歌舞伎で、主として男女が連れ立って旅行などをする場面を指す言葉で、駆け落ちや心中の場合が多い)”を見守っていく事となる。ちなみに原題は「エルヴィラ・マディガン(ヒロインの名前)」。

 まずこの作品で特筆すべきは、観た人誰もが言うように<映像>がめちゃめちゃ美しい!中でも自然光を最大限生かした森の中のシーンは、決め決めの構図もあってまるで印象派の絵画のようだ。その映像の美しさが逆に2人の悲恋を際立たせるという、憎い計算の上で撮影されていてお見事。使用されたクラシック音楽も映像にベストマッチ!

 脚本・編集・監督を務めたのはボー・ヴィーデルベリ。以前、このブログで紹介した「刑事マルティン・ベック」(’76)の監督です。「マルティン・ベック」は前半はカチッ、カチッと撮った画でつなぎながら後半は一転、手持ちカメラも使っての躍動的な画でつながれた作品だったけど、今作を観てボーさんの“作風の変遷”を垣間見ましたよ。決め決めの構図は10年以上前のこの作品からやってたのね!但し、今作では仏・ヌーベルヴァーグを彷彿させるシーンもあれば(トリュフォーがお好きだったそうで)、主観撮影、早いズームインにアウトフォーカス、ストップモーションと撮影時や編集時に出来ることを色々やってる。今作の時はボーさんもまだ30代半ばと若いから(笑)、<商業作品>という大前提を踏まえつつ、実験精神とヌーベルヴァーグへのリスペクトが混然一体となった作品となってます。

 2人がいつ、どのように出会って恋に落ち、駆け落ちに至ったのか&逃避行のルートについての説明は本篇には一切なし。これを不親切と思うかどうかは観た人によるだろう。筆者的にはボーさんが説明し過ぎると、実録っぽくなり過ぎて詩的なムードを損なうのを嫌っての措置・・・だと勝手に解釈したけど。晩年、ボーさんが監督した「あこがれ美しく燃え」(’95)っていう邦題つけた奴は・・・今作のタイトル意識し過ぎやろ(笑)。

 ヒロインを演じた金髪美人、ピア・デゲルマルクは今作が映画デビュー作。ロン毛で可憐で清楚・・・と男が好意を抱く「これぞ女子っ❤」という感じ(笑)。劇中<綱渡り>のシーンを披露する場面もあり、相当クランクイン前に特訓したに違いない。この作品でカンヌ国際映画祭で最優秀主演女優賞を獲得、その後が期待されたが・・・元々女優志望でもなんでもなかったのでこの後2、3本映画出てあっさり引っ込んじゃった。なんでも引退後はスピード離婚したのち、病気にかかったり、ドラッグで逮捕されたり・・・その後の半生はあまり幸福じゃなかったみたい(まだ御健在のようですが)。相手の中尉役トミー・ベルグレンも受けの演技良かったし。2人とも余り現在語られないのは残念。


 若き2人の愛の逃避行・・・心中ありきではなかっただろうけど・・・時代が悪かった、としか言いようがなくて・・・ただただ悲しいね。アラフィフとなった筆者からみると「愛があってもお腹いっぱいにはならない」事が分かっているので、終盤は観ていて切なくなった(詳細は書かないけど)。恋愛をメインに今後も小説や歌、映画は作り続けられていくことだろう。この世に人類が存在する限り、永遠不滅のテーマなのだから。