其の453:人間社会の小宇宙「ある戦慄」

 すっかり間が空いてしまいました。ゴールデンウィーク前(←まともな業界人には全く関係なし)「バトルシップ」を鑑賞。“宇宙人侵略もの”が<ユニバーサル100周年記念作品>でいいんだか悪いんだか微妙だが(笑)・・・同ジャンルの先輩「インデペンデンス・デイ」の海軍版といった趣き(「ID4」で活躍するのはウィル・スミス所属する空軍)。つっこみ所は満載だが、久々に服着た(正しくは戦闘用スーツ)宇宙人が観られたことはよかった(笑)。この映画は何も考えず笑いながら観ることをお薦めします^^


 ・・・大型連休が終わったいま、なにを書こうか大いに迷ったが・・・先日、初DVD化されたハリウッド映画「ある戦慄」(’67)をご紹介!「地獄の黙示録」で知られるマーティン・シーンの映画デビュー作にして、異色の社会派密室心理サスペンス!こんな肌触りの映画は・・・「当たる、当たらない」で企画が決められちゃう21世紀、現在の映画では・・・もうないな〜。


 日曜・真夜中のニューヨーク。後に地下へとつながる高架線の各駅では様々な事情を抱えた人々が電車に乗りこんできた(注:NYの地下鉄は24時間営業)。4歳の娘を連れたサラリーマン家族、若いカップル、息子に金の無心に行ったものの断られた老夫婦。休暇中の2人の兵隊、しがない高校教師と勝気な妻、アル中で家庭を失った中年男性と彼を追ってきた内気なゲイの青年。そして白人嫌いの黒人男性とその妻・・・。そこへ乗り込んできたのがチンピラのジョー(=トニー・ムサンテ)とアーティ(=マーティン・シーン)。彼らは、通りがかりの男から金を奪った挙句、暴行してきたばかりだった。寝込んでいるホームレス男性にいたずらするのをアル中男性に注意されたことをきっかけに、2人は乗客のひとりひとりに難くせをつけ始める・・・。

 
 正直、観たあとド〜ンと重たい気分になる今作。「ファニー・ゲーム」並に不快な気分にさせられた。改めて<地球上で一番恐ろしい動物は人間>だと認識せざるをえない。さすがに筆者はここまで酷い奴らと同じ電車に乗り合わせたことはないが(超騒いでたヤンキーとかバカ学生たちはあるけど)・・・マジでありそうな話だよな〜。ひと昔前の「ニューヨークの地下鉄」といえば、大量の落書き&犯罪の巣窟として有名だったが(今じゃ安全らしいよ♪)なんせ60年代の映画ゆえ、そのイメージまんま!!原題「THE INCIDENT」は“ささいな出来事”の意。皮肉たっぷりのナイスなタイトルだ。

 監督はラリー・ピアース。「さよならコロンバス」やチャールトン・ヘストン主演の「パニック・イン・スタジアム」が代表作。今作は大手スタジオの制作ながら、模倣犯発生の危険性を感じたニューヨーク地下鉄の協力は得られず(そりゃそうだろう)、駅ホーム等の撮影はバッグの中にカメラを隠してのゲリラ撮影、演技部分及び車両内はセット撮影された。モノクロかつブローアップされたザラザラの映像が、しっかりカット割りされているにもかかわらずリアリティを増幅させている。

 様々な階層&世代を一列車車両につめこんで展開されるのは(ちょっと舞台っぽいけど)、チンピラコンビによる“言葉責め&暴力”に端を発するエゴイズム!最初は皆、日本人同様「我、関せず」を決め込んでいたのだが・・・順番に無理矢理舞台に上げられ、個人個人それぞれの“本来の人間性”が露わにされてゆく。各人がどうなってゆくかは是非観て欲しいのであえて書かないが・・・<人間社会の縮図を描く>という狙いは見事に達成されているといえよう^^。

 冒頭で「マーティン・シーンの映画デビュー作」と書いたが、唯一残ってるプリントをアメリカ国内の映画祭で上映したとき、マーティン自ら解説してたそうだ(笑:相当お気に入りだな)。デビュー間もない時の彼はテレンス・マリックの「地獄の逃避行」でもワルやってたから(←これは実際の事件が元ネタとしてあるのだが)息子にして暴れん坊のチャーリー・シーンを説教できる立場にない(笑)。一方、相方のトニー・ムサンテはのちにセルジオ・コルブッチマカロニウエスタン「豹/ジャガー」にも出演した御仁(・・・知らんか)。彼のキレキレ演技には・・・ゾッ!その他の乗客役にジェフ・ブリッジスの実兄ボー・ブリッジスが腕を負傷している兵隊を演じていて好演。老夫婦の夫人を「イヴの総てマリリン・モンローが端役で出演してる)」等で6度アカデミーにノミネートされたセルマ・リッターが演じている。「十二人の怒れる男」といい、こういう“密室もの”には芸達者な俳優を揃えることが必須ですな^^


 オチはね・・・まぁ、こうなるだろう、という想定内ではあるけれど、今作も以前、紹介した町山智浩氏の著書「トラウマ映画館」に掲載されている一作・・・こりゃ、子供のときこれ観たらトラウマにもなるわ(笑)。氏の著書の影響でDVD化されたのかどうかは不明だが(どうやら世界初DVD化らしい)途中から目が離せなくなること請け合い。必見!
 ・・・皆さん、自分のことばかり主張せずに人には優しくしましょうね^^