其の567:<短期集中掲載>「ヴィクセン」の名がつく作品群

 ・・・先日誕生日がきて、またひとつ年を取りました(完全にアラフィフ:ああ嫌だ嫌だ)。このブログもスタートして数えで早10年目!!第1回目はラス・メイヤー監督作品「ワイルド・パーティー」(’70・米)でした。そこで原点(?!)に立ち返り、彼の「ヴィクセン」と名のつく4作品を何回かに分けて書いていこうかと(注:各作品に継続性はなし)。未だ大半の方はセクスプロイテーションの王、“巨乳映画の帝王”(←筆者勝手に命名ラス・メイヤーを知らないと思うので、コアな映画マニアだけ読んで頂ければと思いマス。その昔、彼の作品を<渋谷系おしゃれ映画>として宣伝して公開したものの、壮絶に失敗してたしね(笑:企画、運営した人は・・・その後、大丈夫だったのかしら?)。
 まずタイトルまんまの「ヴィクセン」(’68)からスタート!この作品、日本でも当時ちゃんと公開していて邦題は「女豹ビクセン」でした。・・・筆者はこの時のパンフレット持ってる(苦笑)。


 カナダの人里離れた土地でセスナ機のパイロットとして生計を立てているトムとその妻・ヴィクセン(=エリカ・ギャヴィン)。彼女は夫を愛しているものの、彼が仕事で留守の間には様々な男たちと情事を重ねている。そんな彼女だが弟の友人である黒人青年・ナイルズには常に冷たい態度をとり、ことある毎に対立していた。そんなある日、トムのセスナ機の乗客が飛行機をジャックし、キューバへの亡命を目論む・・・!!


 以前にも書いたことですけど改めて→→→<写真>の発明にしても、<映画>の発明にしてもいずれも程なく“女性の裸が撮影”されている。「メディアの発展=エロ」という、ある意味素晴らしくも情けない図式は人類(さらに分類すれば男性。動物的に書けばオス)が存続する限り続く永遠の法則だろう(<ビデオデッキ>が家庭に普及し始めた頃も、メーカーからエロビデオがおまけでついてきてたし・笑)。ラス・メイヤーの一連の作品もその流れで生まれたブルー・フィルム(アメリカでは「スタッグ・フィルム」と呼ぶ)の発展系に属するし(洋ピン)、大手映画スタジオの製作ではない“インディーズ”であった由、確実に稼ぐことが必須だった。そうじゃないと次回作の製作費はおろか、生活できない(笑)。元々はカメラマンだったラス・メイヤーが単なる女性の裸を記録したものから徐々にドラマ性を備えた作品を作るようになっていく(演出力の向上?)。

 とはいっても彼の作品全てに女性の裸がある訳ではありません!一部でメイヤーの“最高傑作”といわれる「ファスター・プシィキャット キル!キル!」(’65)や同年の「モーター・サイコ」には、初期作から観られる巨乳の女性は出演しているものの、裸の類は一切なし。その分、バイオレンスシーンが映画を大いに盛り上げる。転じて翌年作られた「モンド・トップレス」は大勢の巨乳女性が裸で踊りまくるだけでストーリーが一切ない(苦笑)。そんな紆余曲折を経て(?)製作されたのが「ヴィクセン」(この作品も一部でメイヤーの“最高傑作”と言われている。筆者的には「ワイルド・パーティー」だけど)。今作では勿論女優陣、脱いでます。メイヤーは今作で原作(共同)・製作・撮影・監督を兼任した(インディーズゆえいつものことだが)。

 今作は公開当時(ちなみにこの1968年という年は「2001年宇宙の旅」が公開された年でもある)テーマをそのものずばり“セックス”にしたことが画期的だった。しかもヒロインが超好き者(いま風に書くと“肉食女子”)!なんせ旦那の仕事の客のほか(ほとんどがセット組まないで済むオープン撮影につき青姦)、弟まで誘惑し、女性とまでレズる(でも尺は72分とコンパクト)。

 巨乳を強調するための“下からのあおり映像”はあるもののカット数が多いわけでもなく、バイオレンスシーンもなし。メイヤーが以前とは異なる作品を作ろうと考えたことは明らかな仕上がり。単なるポルノドラマとして成立するのに、あえて人種差別の問題やキューバとの関係等、当時の世相をおりまぜたのがメイヤーの凄いところでもある。その結果、映画は大ヒット!!勿論、当時はAVもないし、アメリカのTVは規制が厳しいから「エロが観たけりゃ映画館で」という理由も背景にはあるけれど。この話題に目をつけたのが、当時金欠にあえいでいた20世紀FOX。そのFOXからメイヤーに声がかかって(低予算で大ヒットが欲しかったから)「ワイルド・パーティー」を作ることになるのだから・・・人生はどう転ぶかわからない(笑)。映画史的に考えても「ラストタンゴ・イン・パリ」や「愛のコリーダ」、「カリギュラ」とか「エマニエル夫人」ほか<性>をテーマにした作品はヒットする傾向にある。まぁ・・・人間だもの(笑)。

 
 「ワイルド・パーティー」は大勢の巨乳女優を召集したほか、早い編集カッティング、過剰なバイオレンス&あちこちに散りばめたギャグ(ラストのオチは・・・もはや神)でFOXの思惑通り大ヒット!!ちなみにクライマックスの惨劇はロマン・ポランスキー監督の妻で女優のシャロン・テートチャールズ・マンソン率いるカルト教団に殺害された事件を取り入れた、といわれたが後年メイヤー本人はトボけている(笑)。これが事実ならば「ヴィクセン」同様、メイヤーが世相を作品に取り込む手腕に長けていた人物だったといえるだろう(映画とは所詮、見世物小屋がルーツだしね)。

 でも20世紀FOXは良識派からの非難を浴びる。「伝統ある大手スタジオがポルノ監督に映画を作らせるとは何事だ!」というのがその理由である。そんなこともあってFOXは次にメイヤーに作らせた「恍惚の7分間・ポルノ白書」(’71)が不入りだったという事を理由に契約を解除する。大きな組織はどこでもそういう保守的なところがあるよね。で、その人に責任転嫁して排除、自分の身は安泰と(ああ嫌だ嫌だ)。

 
 インディーズ監督に戻ったラス・メイヤーは1972年「ブラック・スネイク」を発表するもこれが大コケ!これ筆者はいまのところ未見なのですが・・・なんでもヒロインは痩せているそうで(当初の主演女優がクランクイン3日前にヤク中で降板したことによる緊急抜擢)。ファンがメイヤー作品に求めていた巨乳ギャルじゃなかったのが原因・・・ともいわれている。大半の観客はストーリーや演出技法よりもエロが目的だったろうし(笑)。

 
 その結果、メイヤーは原点に戻って再スタートを切ることに。1975年「スーパー・ヴィクセン」を監督する。“7年前の「ヴィクセン」の成功よ、再び!”という夢と願望がタイトルに込められているような気がしないでもない。ちなみに今作が日本で公開された時のタイトルは「淫獣アニマル」!!すげー邦題つける人がいたな〜(驚)、さすが70年代(笑)!!


          <次回、「スーパー・ヴィクセン」の回へと続く>