其の568:もう昨日までの僕には戻れない・・・2本

 新緑の季節5月から雨の6月に・・・(哀)。まぁ、今日は夏のように暑かったですけどね。

 ラス・メイヤーの「ヴィクセン」シリーズの続きは・・・ちょいとお休みして(←これは筆者の悪い癖だ^^)、筆者より下の世代、即ち<少年&青年たち>に贈る映画を2本紹介しようかと。リドリー・スコットの「ブラックホーク・ダウン」のコピーじゃないけど<ハードな経験をした僕は、もう昨日までの自分にはとてもじゃないが戻れない>的な意味深な作品を選ぼうと思います。人間、いつ平凡な日々が突如変貌するかわかりませんぜ。先日も地震とかあったしね!

 1本目は「世界名作文学全集」とかのリストに大抵掲載されているノーベル文学賞作家、ウィリアム・ゴールディング原作の「蠅の王」。スティーブン・キング中上健次の作品には「蠅の王」というモチーフがたびたび登場することでも知られていますが、個人的には楳図かずおの「漂流教室」にも影響を与えていると邪推してる(笑)。2度ほど映画化されているが筆者が取り上げるのは1963年(英)版の方。つい先日、ようやくDVD化されました(遅いって)。


 近未来の世界大戦ー。イギリスから疎開先へと向かう途中、飛行機が墜落。大人たちは全て亡くなり、乗っていた24人の少年たちは南海の無人島に取り残される。リーダーに選ばれたラルフ(注:邦訳小説ではラーフ)と、太っているため“ピギー”と呼ばれる少年(注:ピギーとは“子ブタ”の意。字幕は“子ブタ”で通される)の2人を中心にルールを作り、烽火を常にあげ続けることで救援を待つことが決まった。小屋を作ったり、食糧となる果物を獲る生活が続いたある日、ジャックたちは野生の豚を狩るため、烽火をあげることを怠る。そのため、ようやく島の上空に飛行機が通りがかったものの気付かれずに飛び去ってしまった!これが原因でラルフとジャックの一派が対立する。ジャック率いる狩猟隊の少年達は次第に内面の獣性に目覚め、泥絵の具を顔に塗りたくり蛮族の様な出で立ちと化す。そんなある夜、森の中から現れた仲間の一人であるサイモンを<島に住む謎の獣>と思い込み、一同でなぶり殺しにしてしまう。更に行動をエスカレートさせた彼等は・・・!?


 この21世紀現在、<子供=無垢なる存在>だと考えている大人がどれだけいるかは分かりませんが、自分たちの少年・少女時代を振り返って思い起こせば・・・決してピュアの一語じゃくくれなかったことが分かるのではないかしら。藤子不二雄A先生原作の「少年時代」にも描かれていたけど、少年少女たちは「学校」を中心とした<独自のスモールワールド>で“協調と闘争”を大なり小なり繰り広げているものなのだ(いまでは「スクールカースト」というそうだが)。一般社会下においては親だったり教師だったりの“大人”というお目付け役がいるものの、そのお目付け役がもしいなくなったら・・・。それが今作の恐ろしいところだ。タイトルの意味がわからない人のために補足すると、今作の“蠅の王”とは、聖書に出てくる悪魔ベルゼブブのこと。少年達が集団狂気に陥る姿を、悪魔ベルゼブブに憑かれるさまになぞらえてる訳です。また、ベルゼブブは「七つの大罪」のうち<暴食(大食)>を司るとされてます。

 このブログはあくまで<映画のブログ>なので、原作者であるゴールディング文学史的評価とかその他は割愛しますが、今作を監督したのはピーター・ブルック(イギリス人)。このお方、「マルキ・ド・サドの演出のもとにシャラントン精神病院患者たちによって演じられたジャン=ポール・マラーの迫害と暗殺」・・・というもっとも長い邦題の作品も作っていることで知られている(映画オタク的トリビア^^)。長い小説(とはいえ文庫本1冊)をかなりタイトに演出(87分!)。サクサク展開するのは小気味いいし、子供たち(←メジャーな人が誰もいないので役者名は書かなかった)が徐々に薄汚れていきながらも原始社会に戻ったかのように変貌していく演出も巧い。「地獄の黙示録」のカーツ大佐(マーロン・ブランド)の王国の場面を思い出した。・・・これ観て真似たか、コッポラ(笑)!?

 原作読んでる身からすると、序盤の方で森が火事になって少年のひとりが死ぬところはないし、<謎の獣>への供え物として奉げた豚の生首を見てサイモンが<内なる暗黒面>と対峙する本作最大の肝は・・・もう少し尺とってじっくり演出して欲しかったが。「大傑作!」ではないけれど、もし自分がこんな環境に投げ出され、人間同士が殺しあうような状況におかれたら・・・と考えながら観て欲しい一作。モノクロでDVDには吹き替えないけど・・・たまにはいいでしょ(笑)。


 
 そして2本目が「ソルジャー・ボーイ」(’72・米)。いまでいう<ベトナム後遺症もの>です。但し、「帰郷」(’78)や「ディア・ハンター」(’78)、「ランボー」(’82)より遥かに早い!!今作も「蠅の王」と同じく、ようやく最近DVD化。メジャーな人は出てないけど・・・こっちはカラーです^^


 ベトナムでの従軍を終えて帰国した“ダニー”、“シューター”、“ファットバック”、“キッド”の4人は、除隊で得た資金を元にキッドが土地を持つというカリフォルニアへ牧場経営を夢見て出発する。途中、車が故障して困っていた女性を拾い、皆でよろしくやったものの、トラブったはずみで彼女を道路上に投げ出してしまった事から彼らの旅に影が差し始める。移動の都合で“ダニー”の実家に立ち寄ってみたものの、父親と今後の生活について衝突。数年ぶりに再会した友人もすでに就職し家庭を持っていた。立ち寄った酒場では朝鮮戦争経験者の高齢者たちになじられる始末。<現実の社会>と<戦場から帰ってきた自分たち>との溝の深さに戸惑い始める4人。いつしか所持金も少なくなってきた彼らは徐々に追い詰められていく・・・。


 70年代映画・・・しかもぶっちゃけB級作品。アメリカ映画ながら先述したようにメジャー俳優なし。展開もタルい・・・でも、逆にそれがかえってリアリティー度が上がっているのも事実(キッド役の若者は、ちょっとジャン・ポール・ベルモンドに似てるけど・笑)。後に社会問題となるベトナム帰還兵の問題&世間とのギャップ、人々の冷たさを未だ戦争が続いていた1972年時点で描いているのが凄い(ちなみにベトナム戦争の期間は正式な「宣戦布告」がなかったため諸説あるものの、一般的には1960年12月〜1975年4月30日とされる)。で、見続けていくと、いきなり「!!」という驚愕の展開に(マジ)!一部で今作が「ランボー」に似てると言われているが、「ランボー」の原作書いた小説家・・・これ観てパクったか?(笑)。

 主人公たちは“ダニー”以外家族やその背景が描かれていないから詳細は不明だけど・・・本当にありふれた青年たち。特別エリートでもなく、不良でもないその辺にいそうな普通な面々(少々、素行に問題はあるものの)。おそらく高校出た後、愛国心プラス“当座の就職先”を求めて入隊したのだと思う。で、長い軍事訓練のあと、ベトナムにいかされて・・・の結果、戦場で明日をも知れぬ状況の中戦って、ようやく平和な祖国に戻ったら、周りの扱いは“だらだら続く戦争のへなちょこ兵隊上がり”・・・。君がこんな状況に置かれたら、どーするどーする??

 そんな戦争に傷つけられた青年達の姿を監督のリチャード・コンプトンは淡々と描き上げる。で、先に書いた驚愕の展開との演出のギャップが巧かった^^。まぁ、今作もアメリカン・ニューシネマの範疇に入るんだろうなぁ、ヒーロー不在だし。ちなみにこの映画の原題が「WELCOME HOME,SOLDIER BOYS」!なんと皮肉な哀しいタイトル!!



 という訳で同じ状況に置かれたら<もう昨日までの自分には戻れない映画>、<若い時に観たら心に刺さる映画>を2本書いてみました。笑って、泣くのだけが映画ではありません。たまにはハードな映画観て、どよ〜んとすることも人生には大切です。アラフィフの筆者が自分のことを振りかえっていうのだから間違いありません(笑)。