其の280:ジャンル映画の合体「コフィー」ほか

 このブログで以前にも書きましたが「映画」が<興行>というビジネスである限り、「いい映画を創ろう」とする人と「儲かる映画を作ろう」と考える人間に分かれる事は致し方ないことだろう。所詮は「志」の高さの問題(苦笑)。勿論、当たる映画を作るには本当ならそれ相応の勉強やリサーチが必要になるのだが、中には楽なのでヒット作をすぐパクる「もどき映画」を作る人も数多い(苦笑:それを「プロイテーション映画」という。プロイテーションとは「搾取」の意)。「ジャッキー・ブラウン」のブラックヒロイン、パム・グリアが若い頃主演したアクション映画「コフィー」(’73)は内容の異なる2つのプロイテーションが合体した稀有な作品である。ちなみに「コフィー」は日本でもDVDやサントラ売ってます^^


 物語は・・・アフロヘアの看護婦コフィー(=パム・グリア)が麻薬組織に復讐を誓うバイオレンス&エロスアクションもの(乳みせあり)。まぁ、よくあるお話(笑)。ただ、当時映画とはいえ黒人女性が白人男性をしばきあげた事は歴史的にも貴重だろう。


 公民権運動の盛り上がりと共に黒人スタッフ及び俳優で制作された「スウィート・スウィートバック」(’71)のヒットを機に始まった<ブラックスプロイテーション>。ようは「黒人の黒人による黒人のための映画」。「黒いジャガー」や「スーパーフライ」辺りは映画オタク的にはメジャーですね^^。アメリカ社会(言うなれば白人社会)に虐げられていたアフリカン・アメリカンたちが映画の上でガンガン活躍し、それを黒人たちは観て溜飲を下げていた。程なく、これに目をつけた白人たちが制作に関与するようになっていくのだが・・・。
 そうした特定の人々向け映画<ブラックスプロイテーション>が出来る一方、以前から存在した「エロでスケベな男性客を釣る映画」いわゆる<セクスプロイテーション>というジャンル(その代表が巨乳女優を起用して映画を撮り続けたラス・メイヤー。日本だと野田社長か?)が合体したのが、「残酷女刑務所」(’71)。監督はタランティーノが敬愛するジャック・ヒル(白人)!!


 ジャック・ヒルは、かのロジャー・コーマン(彼の映画は「もどき」ばっか)門下。キャリアのスタート時点ではフランシス・フォード・コッポラ初の商業映画「グラマー西部を荒らす」(’62)や同じくコッポラの「ディメンシャ13」(’63)に携わる。以後、ホラー映画の演出等を手掛け(どんどん偉くなったコッポラとは雲泥の差だ)1971年、「残酷女刑務所」を監督する。これがヒットして、「女囚映画」のルーツとなった^^女の刑務所なら違和感なく女の裸(エロ)が出せるし、アクション(=喧嘩)もグロ(=看守による拷問)も網羅できる。で、ここに出演しているのがパム・グリアだ。


 パム・グリアは1949年、カリフォルニア生まれ。美貌と抜群のスタイルで10代の頃はミスコン荒らしとして知られ(=賞金稼ぎ)、18歳で映画スターを夢見てロスへ(一時期、大阪にいたとかいないとか)。そこでラス・メイヤーに巨乳を見初められ(笑)、70年「ワイルド・パーティー」の端役でデビューする。この映画はラス・メイヤーの最高傑作で、筆者は何度も観ているのだが・・・未だに彼女を発見できない(苦笑:ものすごく小さく写っているか、あるいは出演場面をカットされたのかもしれない)。「ワイルド〜」以降は、B級映画「半獣要塞ドクターゴードン」を経て(爆笑)ジャック・ヒルの「残酷女刑務所」に出演。同監督がブラックスプロイテーションに進出した「コフィー」で初主演を飾る。ここまで読まれた賢明な読者の方はもうお分かりだと思うが・・・そう、パム・グリアこそ「ブラックスプロイテーション」と「セクスプロイテーション」という2大ジャンルの合体を体験した貴重な女優なのだ!!!勿論、本人の意思とはまるで関係なく、とりだてて偉くはないので誰も言及しないけどさ(笑)。
 ちなみにこの70年代前半、パムは「残虐全裸女収容所」、「女体拷問鬼看守パム」、「エンジェル・グラディエーター」ほか似たような女囚映画に立て続けに出演。それらが日本でもDVD化されているところが愉快^^梶芽衣子だけが女囚ではないのだ。


 「コフィーは低予算だった為、細かくカットを割らずに長々と撮影。それで編集費を節約した」とはパム本人のコメント。この映画のヒットによって翌年、またまたジャック・ヒル監督作「Foxy Brown フォクシー・ブラウン」に主演する(=タランティーノの「ジャッキー・ブラウン」はこの映画のタイトルが由来)。あいにく今作はまだ日本ではDVDになっていないのだが、先日、「さすらいのマカロニ野郎Sくん」が所有する輸入版DVDで初めて観ることが出来ました^^。「コフィー」と内容は大差ないけど(苦笑)、前作のヒットのおかげかアクションパートは増量(セスナ機まで出る)、カット割りも細かくなってた。もちろん娯楽のツボ、「拷問」に「乳見せ」も当然あり(笑)。


 残念なのはパムがその後「女記者フライデー」(’75)など似たような役柄が続いたため、観客に飽きられたのか人気が急落。B級映画の脇役しか出演依頼が来なくなった事(最初からずっとB級だけど:苦笑)。再び彼女に注目が集まったティム・バートンのSF大作「マーズ・アタック!」(’96)、そして先述の「ジャッキー・ブラウン」(’97)まで長い年月を要することになる。最近は・・・どうしてるんだろ?

 監督ジャック・ヒルの方は「フォクシー〜」の後、白人の不良ヤンキーずべ公もの「スウィッチブレード・シスターズ」(’76)を発表、これは日本でいえば70年代東映の「女番長シリーズ(池玲子杉本美樹!)」に相当する作品だが・・・大コケ(筆者も観たけど、あまり面白くはなかった)!以降、組合の問題で名前も出ない「雇われ監督」でキャリアを終えた。


 「ブラックスプロイテーション」に「セクスプロイテーション」・・・。この2つの映画のジャンルは、まさに動乱と狂乱の70年代が生んだ「時代の申し子」だったと思う。技術的にも表現的にも稚拙ではあったが、それら泥臭い映画の数々は、いま考えても恐ろしくもあり(16、7歳の女子がバンバン脱いでる!)懐かしくもあり。