其の561:貴方に倫理観を突きつける「プリズナーズ」

 先日、5月公開予定の映画「リピーテッド」を試写会で観ました。頭部を負傷したことによる後遺症で毎朝目覚める度に前日までの記憶が失われる記憶障害を持った美貌の人妻(→演じるはニコール・キッドマン)を巡るミステリー。ちょっと「メメント」を彷彿される設定ながら、これがなかなか面白かった。ニコールのほか「英国王のスピーチ」のコリン・ファース、「キック・アス」の強面、マーク・ストロングが脇を固めるミステリーファンにはお薦めの一作(但し、ヘビーなミステリー読者だとオチは途中で多分分かる)。

 ちなみにこの映画、製作総指揮がリドリー・スコットなんだけど・・・噂されてた「ブレードランナー」の続編(なんでもハリソン・フォード再出演)では監督しないらしい。で、代わって担当するのが「灼熱の魂」(’10)、「プリズナーズ」(’13)のカナダ人監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ(降りなければ)。
 その「プリズナーズ」(’13)はめちゃ面白いミステリー(あまり話題にならなかったけど)!“囚人”というタイトルながら刑務所が舞台の女囚ものではありません^^。昨日、東京では桜の開花宣言がでましたが、今作内では晩秋・・・。その辺りの季節感のギャップは気にせずお読み頂ければ(苦笑)。勿論、ネタバレは書きませんのでご安心を。


 アメリカのとある田舎町ー。ケラー(=“ウルヴァリン”ことヒュー・ジャックマン)は妻と息子、そして幼い娘の4人家族。近所に住む友人一家と共に<感謝祭>を楽しんでいた。ところがそのさ中、家に戻った筈のケラーの娘・アナと友人の娘の2人が共に行方不明となる。ケラーの通報によって事件を担当することになった刑事ロキ(=「ゾディアック」のジェイク・ギレンホール)は、現場付近で目撃された不審なキャンピングカーに乗っていたアレックス(=「ナイト&デイ」のポール・ダノ)を拘束する。ところが彼は10歳程度の知能しかなく、証言や決定的な物証が出てこないことから釈放の期限を迎えてしまう。警察の捜査に業を煮やしたケラーは、釈放されたアレックスに娘の居場所を聞き出そうと詰め寄る。その際、彼が発した一言でケラーはより一層疑念を募らせ、さらに尾行してみたところ、アナが作った替え歌を口ずさんでいたことから、アレックスの犯行である事を確信。彼を拉致したケリーは愛娘の居場所を吐かせるべく拷問するのだが・・・!


 ね、面白そうでしょ?てっきり筆者は「例え犯人だとしても拷問はいけない」とか「もし彼が犯人でなかったらどうするのか?」と言った倫理観・道徳観を観客に最後まで突き付けつつ引っ張ってオチがくるのかと思ったら(勿論、そういう側面もあったけど)・・・中盤、<別の容疑者>の存在も浮上してきたりして一筋縄ではいかないのですよ!<失踪事件>が起きてからはグイグイ引き込まれて目が離せなくなった。この脚本(書いたのはアーロン・グジコウスキ)はなんでもハリウッドの脚本ブラックリスト賞(映画化されていない優秀なホン)に輝いたそうで、それも納得である。

 まず設定がなによりリアル。日本でもいま現在行方不明になっているお子さんは沢山いるし、一説によるとアメリカでは年間80万人(!)の子供たちが行方不明になっているという・・・。全世界あわせたら、果たしてどれぐらいの子供たちが・・・考えただけでも恐ろしい!この映画、子供を持つ親だったら決して他人事ではない内容。観ている間、筆者もいろいろ考えさせられた。

 今作は脚本もさることながら俳優陣も素晴らしい。娘を救いたい一心で暴走する父親をヒュー・ジャックマンが熱演。信心深いクリスチャンでありながら、家族を守るために神の教えに抗い奮闘する姿は・・・もし自分の身に置き換えたら・・・ホント一概にこうとは言えないよな〜・・・(悩)。劇中、同じく娘をさらわれたもう1組の家族の父親を演じるテレンス・ハワードが“観客の心情”を担っている。粗筋には書いていませんし、ネタバレするから詳しく書かないけれど、ジャックマン演じる主人公の親にその昔、暗い過去があったりもして・・・。映画を観たら是非各自でお考え下さい。色々な意見があっていいと思うので。
 そういう意味で言うとジェイク・ギレンホール演じる刑事も、ポール・ダノ演じる人物もそれぞれが個性的なキャラクター。彼らのような<演技巧者たち>が集まった結果、素晴らしいドラマになっていると思う。

 ・・・あれこれ書くと全てがネタバレのような気がしてくるので、最後にもうひとつだけ。舞台となっているのが晩秋の田舎町(→本篇に字幕スーパーとかは特にでてこないけど、舞台はカナダに近いペンシルヴァニア州らしい)。この寒々しく、森ばかりであまり人気のない殺伐とした風景が・・・また怖い!外からは一見平和にみえるけど、内側に入ったら何が行われているのか分からない・・・という人間が本能的に感じる“見えない恐怖”が全編を覆っている。そんな風景をめっちゃゆ〜っくり移動していくカメラワークも・・・また印象的。実相寺昭雄のような全てが“計算され尽くした強い画”ではないんだけど(実はそういう画ばかりだと、ドラマとして“つながり”が悪くなるデメリットもあるのも事実)1カット1カット、意味合いを考えて適格に撮影された映像を積み重ねてまとめられた、あっという間の153分(この辺りのうまさが認められてヴィルヌーヴ監督が「ブレラン2」に抜擢されたのかも)。子供を持つ世代の方は松本清張原作「鬼畜」同様、是非ご覧ください。結構、後引きます。ラスト、あのカットで終わるのもベストだと思う^^。

 
 
 さて、5月末には筆者が年末の「スター・ウォーズ」より遥かに心配している青春ミステリー作「イニシエーション・ラブ」が公開予定。原作の驚愕の<ラスト2行>をどう映像化するか(作者も堤幸彦監督と相談したらしいが)筆者が想像した処理になっているのか否か確認すべく鑑賞したいと思う。まぁ、あの方法しかないとは思うんだけどね・・・。結果はいずれ書きます!!