其の546:欧州製サスペンス2本寸評

 筆者はここで以前から公言しているように<ミステリー・サスペンス好き>である。小説も然り、映画も然り。今回は新しめの欧州製サスペンス映画2本について書いてみようと思う。勿論、筆者のモットーとして“ネタバレ”はありません♪


 まず1本目は「トランス」(’13・英)。「トレインスポッティング」、「スラムドッグ$ミリオネア」のダニー・ボイル監督作である(筆者は全作ではないが、彼の作品ちょいちょい観てる)。ロンドン五輪の仕事をしながら手掛けたのが今作だ。

 
 イギリス・ロンドン。競売人サイモン(=ジェームズ・マカヴォイ)は、ゴヤの名画「魔女たちの飛翔」のオークション中、フランク(=ヴァンサン・カッセル)をリーダーとするギャングの襲撃に遭う。騒動の中、彼は会場からマニュアル通りに絵をケースにしまい、安全なところへ移そうとするものの、寸前のところでフランクに殴られ重傷を負う。フランクたちがアジトで入手したケースを開けてみるとー中は空っぽだった!
 実はサイモンはギャンブルで多額の借金があり、フランクにゴヤの絵を渡す計画を提案、借金を肩代わりしてもらっていたのだ。ところが何故か土壇場でフランクを裏切り、密かに絵を隠していた。だが、フランクに殴られた事が原因でサイモン自身、隠し場所を完全に忘れてしまう。そこでフランクは、サイモンが適当に選んだ催眠療法士エリザベス(=ロザリオ・ドーソン)の力でサイモンの記憶を取り戻させようと考える。診療で催眠状態(→これがタイトルの「トランス」の意)に入ったサイモンだったが、なかなか肝心の絵の在り処を思い出せない。診療が続く中、エリザベスはサイモンが何者かによって指示を受けていることに気付く。すると彼女は逆にフランクに接近、自分も仲間のひとりに加えるよう要求する。こうしてエリザベスによって、サイモンは記憶を少しづつ取り戻していくが・・・!


 今作は元々イギリスの同名テレビ映画(’01)が部分的に<基>となっているそうだが(筆者あいにく未見)、そもそもは脚本家(ジョー・アヒアナ)が1994年頃、ダニー・ボイルに演出を依頼すべく書いたホンを送っていたそうで(→で、すぐに映画化が実現しないので、TV用に流用)約20年の歳月を経て、ようやくボイルが手掛けることになったそうな。

 ミステリー・サスペンス映画は“その趣の雰囲気”を持った役者が必要不可欠だと思うんだけど・・・今作のメインの俳優陣もいい!主人公のジェームズ・マカヴォイ(イギリス人)は個人的には「ウォンテッド」以来観たけど、いかにも裏表ありそうな感じでGOOD!ハリウッド映画にも出まくっているフランス人俳優:ヴァンサン・カッセルは・・・いかにも“ワル”って感じで作品に凄みを与えている。ヒロインのロザリオ・ドーソン(→アメリカ人。「アレキサンダー」やタランティーノの「デスプルーフ」ほか多数出演)は<オールヌード>も披露しているから・・・そういうのを映画に求める御仁にもお薦めよ(ちなみに今作を機にボイルとドーソンは交際してるんだと)^^

 タイトルの意味を紹介するために少々長く粗筋を書いたけど、この後ストーリーは二転三転するしボイル特有の映像美学も観られるので確実に楽しめると思う(もっともつっこみ所も多々あるけど)。加えてゴヤの「魔女たちの飛翔」や「裸のマハ」の他、レンブラントの作品とかも出てくるので絵画ファンの方もどうぞお楽しみに^^。


 
 そして2本目は「危険なプロット」(’12・仏)。ボイル同様にちょいちょい筆者が観ているフランソワ・オゾン監督による心理サスペンス(でも結構笑えた^^)。先の「トランス」と異なり、バイオレンス系アクション部分は皆無なので、そういうのが苦手な人にもいいかも。


 新年度を迎えた、とあるフランスの高校ー。かつて小説を出版したことがあるものの、いまは国語教師をしているジェルマン(=ファブリス・ルキーニ)は、生徒たちに<週末の出来事>を作文にする課題を出す。ジェルマンは自宅で、画廊を経営する妻ジャンヌ(=クリスティン・スコット・トーマス)に“いかに今の学生たちに文章能力がないか”を伝えるため、提出された作文を読み聞かせる。すると2人は生徒のひとり、クロード(=エルンスト・ウンハウアー)の作文に注目する。そこにはクラスメイトのラファに数学を教えるため、彼の家を訪れた際に見聞きしたことが書かれていた。友人家族を“中流家庭”と決めつけ、その様子を覗き見る内容ではあったが、ジェルマンはクロードに続きを書くよう言い渡す。次々と続きを提出させるうち、ジェルマンはクロードに小説の書き方を教える課外授業を行うようになるが、作文は次第に虚実入り交じっていって・・・!


 今作はスペインの作家フアン・マヨルガの舞台劇を基にフランソワ・オゾンが脚本も執筆。オゾン(注:「オゾン層」ではない)はこれまでにも「8人の女たち」(これは面白かった)や「スイミング・プール」といった作品を監督しているので、ミステリー・サスペンス映画の作り方がよく判っている^^。先の「トランス」では“絵画”を扱っていますが、こちらは“文学”を扱っているので(作中、有名文学名が幾つも出てくる)そういった趣味嗜好の方にもよろしいかと^^。

 “魔性の女に魅せられる男”っていうのは昔からよ〜くあるパターンだけど、今作は“イケメン少年の書く文章に魅せられてゆく男女”という点が新機軸。ファブリス・ルキーニクリスティン・スコット・トーマス(←この方、ハリウッド以外でも欧州映画によ〜出とる)演じるインテリ夫婦でさえも“覗き読む欲求”を押さえられないというテイストは・・・オゾン版「裏窓」といえそう。また“イケメン学生”クロードが友人の母(=エマニュエル・セニエ)に優しい感じで取り入ったりするシチュエーションはパゾリーニの「テオレマ」を想起させる(実際、劇中にも作文読んだ主人公がクロードに「パゾリーニか!」とコメントする場面がある)。さて、映画がどう展開し、登場人物たちにどんな結末が待ち受けているのか・・・それは本編をお楽しみに❤

 
 全くの余談ですが・・・エマニュエル・セニエ(昔、エマニュエル・セイヤーと誤って伝えられた)は、かのロマン・ポランスキー監督の奥さん!彼女が出演した「赤い航路」とか好きなんだけど(何気に筆者はポランスキーの作品、大半観てる)、その旦那の新作「毛皮のヴィーナス」(マゾッホの原作を基にアレンジした内容)にも出演。日本公開が楽しみ^^。



 <どうでもいい追記①>“ミステリー”の流れで書きますが・・・映像化不可能作の1本として知られる乾くるみの「イニシエーション・ラブ」がまさかの映画化決定!!堤幸彦監督が原作者と相談したうえで新たなオチをつけるようだが・・・原作読んでる身としてはマジで心配!ホントに・・・大丈夫か!?
 <どうでもいい追記②>近年、邦画・洋画問わず“カルト映画紹介本”が相次ぎ出版されて嬉しい限り(中には「これ選ぶ!?」ってなものも入ってはいますが)。巨大な映画史の中で語られることが少なかった作品もこれで長らく記録されることが出来たわけで^^。このブログは<カルト映画紹介ブログ>では決してないんだけど(苦笑)、少しでも忘れ去られた面白い作品をネット上に記録しようという想いもあったので、今ブログの役割の一部を終えたような気もしないではない。でも、せっかくやり始めたから・・・更新回数1000回を目指して頑張るか!!
 ・・・でも、あと何年かかる!?そこまで生きてるかしら(苦笑)!?