其の330:インド人にビックリ「スラムドッグ$ミリオネア」

 先日のアカデミーで作品賞を含む8部門に輝いた「スラムドッグ$ミリオネア」を観賞。日頃映画などついぞ観そうにないデカい声のオバちゃん(失礼!)とかまでいて混んでた(苦笑)。アカデミーといっても所詮は「ハリウッドの映画関係者が身内の作品を表彰する会」なので(本当)、時々「これが作品賞??」と首をかしげざるをえないものも選ばれたりしているが、今作は良かったよん(未だ上映中の作品につき、ネタばれしないよう書いていくつもり)。ちなみに今作はオールインド人出演のイギリス映画です。アメリカ映画じゃないよ。


 時は2006年、インド・ムンバイにて。スラム出身の18歳の青年ジャマールは国民的人気を誇るTV番組「クイズ$ミリオネア(=本家イギリス版のほか、放送フォーマットを購入した日本だけでなく、インドでもインド人司会者によって放送している)」に出演。予想に反し、次々と難問を正解!残すはあとわずか1問というところで心無い司会者の陰謀により警察に無理矢理逮捕されインチキを自白するよう拷問にかけられる。「何故、学校に行ったことさえないスラムドッグ(=スラム出身の負け犬)のお前に答えが分かるんだ?」警部の問いに対して、自分の過酷な半生を語るジャマール。実は彼の目的は番組で大金を得ることではなかった。ジャマールの真の目的とは!?(それは観てのお楽しみ♪)

 監督はダニー・ボイル(=英国人。昔、インドはイギリスの植民地・・・。わかりやすいなぁ)。ジャンキー青年のぐだぐだな青春を描いた「トレインスポッティング」(’96)でブレイク、ハリウッドに進出するもディカプリオ(刑事ではない)の「ザ・ビーチ」(’99)であえなく撃沈!以来、低迷していたが今作では「トレスポ」でも光っていた<ダッシュで走るシーン>をはじめ、彼本来の持ち味である瑞々しい映像が戻ってきた!「インドでの撮影のおかげで、僕は精神的に大きな変革を体験した」とコメントしているが、インドの人々、そして街が放つ混沌としたパワーが彼に原点回帰をもたらせたようだ。

 低予算ながらインドでロケし、登場するスラムの子供たちは全て現地の人々を起用したボイル(注:青年になったジャマールくんを演じたデーヴ・パテルをはじめ司会者役、警部等の人々はれっきとしたプロの俳優)。素人俳優、それも子供たちを使うとあってボイルは「彼らが楽しみながら撮影できる環境作り」を試みた。メイキング映像を見たところ、冒頭、大人に追われた子供たちが屋根から路地にジャンプするシーンなどは(当然のことながら)下に大きな厚手のマットを敷き、子供たちが無邪気に遊びながらジャンプできるようにされていた(=勿論、前後のいらんところは編集で切ってる。これも彼本来の早いカッティング編集が功を奏した)。ボイルも子供たちと笑顔で接していたので・・・癒されたんだろうね、きっと。

 映画は「現在のジャマール、ミリオネア出演場面」と「警察での取調べ」、そして「幼少時から現在に至るまでの回想」の3つが交差しながら展開。余り詳しく書けませんが・・・端から見ていると主人公たちの半生は悲惨の極地!母は眼前で殺され(そういえば父親いなかったな)親切な大人に助けられたかと思えば「物乞い」を強要させられる始末(それもやり方がえげつない!劇場でお確かめ下さい)。それでも主人公たち(=兄と同年代の少女ラティカちゃんほか)は少々盗みなど悪いこともするものの、持ち前のバイタリティーで日々乗り切っていく(何気に青年になるとちゃんとアルバイトもしている)!我々の発想だと「行政はなにしてるんだ?福祉は?」とか思っちゃうんだけど・・・日本人の子供だったら、間違いなく餓死するね(苦笑)。
 ともすれば「悲惨な子供たちの話」で終わる内容に、実在する「クイズ$ミリオネア」を加えたアイデアが素晴らしい(=脚本はおやじ達がストリップする映画「フル・モンティ」のサイモン・ビューフォイ)!これがなかったらサタジット・レイ状態だったかも!?ちなみにこの司会者、すげー嫌な奴なんだけど、みのもんたみたいに妙に沈黙を引っ張らない所だけはいい(笑)。話が戻るけど「外国人初の演歌歌手」チャダさんも「(この映画で)リアルなインドが見られる」と言っているし・・・もし、これマジでまんまなら本当にインドの人たちは凄いわ!!

 なにより、そんな過酷な環境ながらも素直に成長したジャマールくんはえらい(=これ以上、詳しく書けないのがつらいがナイスガイ)^^!一方、兄貴は段々ワルに堕ちていく良くあるパターン(笑)。主人公が純粋な分、出てくる大人たちがろくでもない奴ばかり!司会者、警察は偏見に満ちているし(司会者の通報ぐらいで逮捕、監禁、拷問までされたら日本じゃえらいことになるぞ)孤児を集めて物乞いさせる組織の連中など外道もいいとこ。「許されることなら、こいつら全員射殺したい!」と観ながら思ったのは・・・筆者だけか(苦笑)?それらは勿論、主人公をより観客が応援するように計算した<作劇>であることは重々承知しております。

 「そんなにうまいこと、答えとなることを見聞きしているわけがない!」とか「カースト制度をまるで無視!」とか野暮なツッコミはやめて、ニュートラルな状態で主人公の生き様&クイズの結果を見守るのが今作の正しい鑑賞法(勿論、笑えるシーンもあるよ)。<エンドクレジット>は「本国インド映画」を意識したダンスシーン(=必ずインド映画には登場人物の感情表現として大規模なダンスシーンが挿入される。それもちょこっとだけでなくてフルコーラスで何曲も!)。ジャッキー・チェンの映画だとここは「NGシーン」がお約束なんだけど、これも要チェック!最後まで、どうぞ席を立たないように。といっても本当のインド映画のダンスよりは落ちるが(苦笑)。


 そういえば、いずれインド映画についても書かないとなぁ・・・(遠い目)。