其の384:日本のキワモノ快作

 そもそも「映画」とは興行主による<見世物>としてスタート、発展したわけで(→「映像芸術」なぞというのはかなりの後付けなのよ)、俗にいう<キワモノ映画>も数多い(そして現在でも、それは世界中で製作され続けている)。当然、我が日本でもそんな映画は山ほどあるのだが・・・かの大手スタジオ・東宝が1965(昭和40)年に上映した作品・・・その名も「フランケンシュタイン対地底怪獣(→「地底怪獣」と書いて「バラゴン」とルビがつく)」!あの「怪物くん」の従者としても御馴染みの超メジャーモンスター・フランケンが怪獣と戦う〜!?タイトルだけ見ると、とてもまともな映画とは思えないが(笑)、これが実に味わい深い映画なのだった(本当)。


 第2次世界大戦末期、陥落寸前のドイツ・ベルリンから日本の広島に<あるもの>がUボートによって運ばれてくる。そのあるものとは<フランケンシュタイン博士によって創造された不死の心臓>!今時大戦の切り札として、この心臓を元に不死身の兵士を作ろうという極秘の作戦だった。ところが程なくして投下された原爆によって、心臓は所在不明となった・・・。
 15年後のある日。広島にある「国際放射線医学研究所」のボーエン博士(=ニック・アダムス)、戸川季子(=水野久美!)、川地(=高島忠夫)らはひょんなことから、謎の浮浪児を保護することとなる。ところが、その白人少年は常人とは思えぬスピードで、みるみる巨人へと成長!博士と戸川の間に「少年は失われたフランケンシュタインの心臓が成長した姿ではないのか?」との疑念が湧いてくる。時を同じくして日本各地に怪事件が続発!施設から逃亡した巨人犯行説が持ち上がるものの、実は地底怪獣バラゴンによる仕業だった。軍による巨人への攻撃を阻止するべく、彼の行方を探して回っていた博士たちの目前で遂に巨人とバラゴンが激突するー!!!


 ・・・もの凄いストーリー&設定である(笑:当時の少年たちにとってはお話よりもフランケンシュタインがもの凄く不気味でトラウマになったようだが)。いくら日米提携映画(→企画自体はアメリカのベネディクト・プロ側による)とはいえ、フランケンシュタイン(=厳密にいうと「フランケンシュタイン」は、あくまで博士の名前であって、彼が創造した人造人間自体に名前はない)と<怪獣>がバトルする・・・それも当初は「ガス人間」や「ゴジラ」が検討された・・・これこそ娯楽の王道、見世物映画の極み(爆笑)!!で、もってナチは相変わらず<何でもする集団>として描かれているのもナイスだ(お約束)。

 製作・田中友幸、監督・本多猪四郎特技監督円谷英二、音楽・伊福部昭大先生・・・と、いつものスタッフ構成ながらも、これまでの「ゴジラ」ほかの特撮作品と異なり、身長20メートルのヒト型の巨人(=ちょろっとだけ本家フランケン的おでこメイクをしながらも、ピンクの歯茎をムキ出して熱演したのは劇団四季出身の古畑弘二。今作が俳優引退作)が怪獣と戦うという新機軸を打ち出した。これが後年、かの「ウルトラマン」に発展してゆくのだから・・・人間、何が功を奏するのか分からない(→このブログで取り上げた理由はここにある)^^。

 主演はジェームス・ディーンの名作「理由なき反抗」の脇役でデビューしたニック・アダムス。今作の後、続く「怪獣大戦争」にも主演している(ちなみに彼の吹き替えは「銭形警部」こと納谷悟朗)。彼の助手役には「マタンゴ」で当時の青少年に精通をもたらした水野久美。先述の「怪獣大戦争」にも出演した結果・・・ニックからプレゼント攻勢&プロポーズまでされて大変だったらしい(笑)。その他、今作ではシリアスな演技もみせる高島忠夫に加え、土屋嘉男、田崎潤志村喬(「生きる」)に小杉義男(「七人の侍」)、佐原健二・・・といつものメンバー(笑)。

 円谷英二御大も今作では怪獣の全長がゴジラの半分になった分、これまでより縮尺の小さいリアルなセットで演出。中でも身長5メートルに成長したフランケンシュタイン水野久美の住む団地に現れる場面はセットの出来、合成技術とも完璧で素晴らしいの一語に尽きる。
 四足怪獣バラゴン(←後年、金子修介版「平成ゴジラ」で、最初に箱根でゴジラにボコられた)は、スーツの軽量化が進んだため、俊敏な動き&ジャンピング攻撃も出来る程のハイクオリティ(=スーツを吊り上げての操演)!後にこのバラゴンは「ウルトラQ」のパゴス、「ウルトラマン」のネロンガガボラに流用されている。円谷プロにとって今作は色々役に立ってるね^^。

 詳細は避けますが・・・この映画のラストは、非常に物悲しい終わり方!原作に比較的忠実に作られたケネス・ブラナー版「フランケンシュタイン」では最後、人造人間(=ロバート・デ・ニーロ!)は「もう人間はこりごりだーっ!」と叫んで、ひとり流氷に乗って北極海の彼方に消えたが・・・勝手に造っておいて、いざ不利益を被るようになると平気で殺そうと画策する人間の身勝手さ、そして異形の者の哀しみが画面に滲み出る(→かつてのティム・バートン作品のテーマでもある)。企画はキワモノながら人間とは、つくづく勝手な生き物である事をこの映画は改めて教えてくれる。


 ち・な・み・に補足するとー上記のラストは「劇場公開版」の内容。実はアメリカ側のオーダーによって、フランケンが大ダコとも戦う<別バージョン>も存在する。ところがアメリカ公開版には使用されず(→大ダコに本物のタコを使用して撮影しなかったことが不満だったらしい)、日本ではテレビ放送の時に<大ダコ版>が放送された。マニアは両バージョン見比べるのも一興。

 
 次回は今作の<姉妹作>にして、ファン人気の高い一作をご紹介予定(あくまでも「予定」!あしからず)^^