其の308:ダラボン版「鳥」?「ミスト」

 フランク・ダラボンといえば初監督作「ショーシャンクの空に」で高い評価を得たが、「ショーシャンク〜」、「グリーンマイル」に続いてスティーブン・キングの原作「霧/ザ・ミスト」を映画化したのが今回紹介する「ミスト」。ネタばれしないように書くのは大変なんだけど・・・ラストはマジで衝撃的!「ショーシャンク〜」のファンが同じような心温まるヒューマンドラマだと思って観ると腰抜かすぞ^^

 
 アメリカ・メイン州の田舎町。激しい嵐に襲われた翌日、湖の向こう岸に不穏な霧が発生した。映画のポスターデザイナー、デイヴィッド(「パニッシャー」のトーマス・ジェーン)は息子のビリー、隣人の弁護士ノートンと買い出しに出かける。3人がスーパーマーケットで買い物をしていると、ひとりの中年男が叫びながら駈け込んで来た。「霧の中に何かがいる!」。店の周囲はいつしか深い霧に覆われていた。果たして何が起こったのか!?


 「サスペンス映画」と見せかけて、実は「パニックもの」で「SFスリラー」でもある本作。で、●●(ネタバレ防止のため伏字)が登場!次々と人々が血祭りにあげられてゆく^^。ダラボンは脚本家時代に「エルム街の悪夢3 惨劇の館」、「ザ・フライ2」とか手掛けていた、本来アッチの系の人なのだよ(新作はトリュフォーの「華氏451」のリメイクだって)♪


 実は「ショーシャンクの空に(原題「刑務所のリタ・ヘイワース」)」と同時に「霧/ザ・ミスト」の映画化権も獲っていたとか、現場ではリハーサルをせずに俳優のリアクションを2カメで追いかけたとか、キングが友人ジョージ・A・ロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」を意識して原作を書いた(=スーパーマーケットに人々が立てこもるのは「ゾンビ」と類似)・・・とか、小ネタは色々あるんだけど、長くなるんで今回は割愛^^。


 筆者が今作を観て連想したのはヒッチコックの超メジャー作「鳥」である。「鳥」はご存知の通り突如、鳥の大群が人間を襲うという<動物パニック映画>の元祖!ダフネ・デュ・モーリアの原作には鳥が人を襲う理由の記述が簡単ながらあるのだが、ヒッチはそれをばっさりカット。さらに主人公がその後どうなるか分からない不気味なエンディングとした。今作の<霧>こそ、まさに<鳥>にあたる存在。つまり<理由不明の得体のしれないもの>。
 いまの日本はアメリカのサブプライム問題発生以降、株価低迷・景気の悪化・雇用の問題が発生し、先行きの見えない不安な状況に置かれているが、劇中の<何が起きたのか分からず不安におののく人々>と現状の日本国民の姿をつい重ねあわせたのは恐らく筆者だけではないだろう。
 観賞後に日本公開前のダラボンのインタビュー記事に目を通したところ「映画は9.11以後のアメリカのメタファー。(脚本を)書いていて、どうしても今のアメリカで起こっていることと重なってしまった。」とコメントしてる。いま彼に尋ねたら、きっとアメリカの現在の経済不安(=余談だが自動車のビッグ3もヤバくなったため、デトロイト市なんか失業率10%だと)についても発言すると思う(・・・多分)。


 普通、こういうパニック映画だと最初の30分ぐらいは「人物紹介」にあてられて退屈だったりもするのだが、今作はパッパと<霧>が出てくるのがいい^^。また必ず劇中に主人公と敵対するやっかいな奴がお約束で出てくるけど、今作でそれに当たる存在が「キリスト教原理主義者」のおばはん(=演ずるのは「ミラーズ・クロッシング」のマーシャ・ゲイ・ハーデン)。「ついに審判の日が来た!」とヨハネの黙示録を語りまくって人々を煽動しまくる(めちゃウザい)。人間なぞパニック状態になると助かりたい一心で「自分が、自分が」のエゴがモロに出てくるからね〜。ホントこういう時に一番恐ろしいのが人間であることもキッチリ描かれてます。勿論「主人公を信用せず独断で動く面々」も登場。こいつらも<お約束>通り、あっけなく死ぬ(笑)。


 そして公開当時、アメリカで議論の的になったという<ラストシーン>!実は、これキングの原作にはない。ダラボン独自の改変だ。彼曰く「シナリオをキングに送ったら、原作もこれと同じにすればよかったよ」と誉められたそうな。キングはキューブリックの「シャイニング」の脚色をボロクソに非難したが・・・ダラちゃん、怒られなくて良かったね(笑)。
 ダラボン曰く「最近の映画は劇場を出た途端にさっと忘れてしまう映画ばかりだから、観客に問いを残そうとしたんだ」さらに「(ラストについての解釈は)観客に委ねたい」とのこと。ちなみにヒッチコックも鳥が人を襲う理由について最後まで具体的に発言する事はなかった(「自然は復讐する」と意味深な一言のみコメント)。彼にもまたダラボンのような意図があったのかもしれない(=当初は主人公の脱出の様子も撮影予定にありながら取りやめているし)。
 ここまで書くと、すげー観たくなったでしょ??ラストは賛否両論あるだろうが、筆者的にはこれも「あり」!是非、何人かで観たあとワイワイ議論してほしいものです。「ミスト」は観客が<参加>する映画なのだから^^。