其の529:60年代末前衛カルト作「薔薇の葬列」

 はやくも4月も中旬になりました。お花見は・・・特にしなかったなぁ(苦笑)。
 
 前回アメリカのB級アクションカルト映画「ローリング・サンダー」を紹介したので、今回は日本映画「薔薇の葬列」(’69)を。映画評論家、実験的映像作家・松本俊夫監督の劇場用長編第1作。そしてピーター(あるいは池畑慎之介)のデビュー作としても知られている(一部で)。ゲイの方々を取り上げた映画は一時期流行ったけど、その先駆的作品でもある。加えて、こちらも勿論“カルト”だっ^^!!



 新宿のゲイバー「ジュネ」の経営者・権田(=土屋嘉男)は店のママ・レダと深い関係にありながら、店員のエディ(=もちピーター)とも密会。権田はエディに「レダを辞めさせて、店のママにしてやる」と囁く。そんなエディだが少年時代に起こした忌まわしい事件の記憶が頭から離れず、そのトラウマを振り払うかのように、麻薬の売人をしている黒人男性と一夜を共にしたり、フーテンたちのマリファナ&乱交パーティーに参加する日々を送る。権田とエディの関係を知ったレダはエディを痛めつけようとするも失敗。それがきっかけとなって事態は誰もが予期せぬ方向へと転がっていく・・・!!



 筆者も10代後半から20代前半には、ある意味“勉強”で前衛映画や実験映画の類も観たりしたのだけれど・・・正直、面白い作品は数少なかった。意味わかんないのがほとんどで(苦笑)。ただ今作は様々な映像技法や編集技法を駆使しつつ、<商業映画>の体裁を取っている分面白い。60年代末に光が当たり始めたゲイの方々(しかも本物)プラス古典的な<オイディプス物語(←ネタばれするんで、これ以上は書けないけどサ)>を組み合わせる発想が素晴らしい。この企画が通ったのもATGならでは。

 やっぱり何よりも注目すべきはピーター、もとい池畑慎之介の妖艶さだろう。中性的な妖しい魅力がスクリーンからプンプン匂ってくる。劇中たびたびあるHシーンも官能的だ。言うまでのないけど、勿論絡んでる姿をハッキリ描いたり、見せたりはしていないのでBL好きの腐女子の方、過剰な期待はしないでね(笑)!
 あんまり知られてないけど、ピーターさんは上方舞吉村流四世家元で人間国宝にもなった吉村雄輝の長男!!いいとこのお坊ちゃんなのよ(しかも3歳で初舞台を踏んどる)。監督の松本俊夫によれば、主演のゲイボーイ役を探して100人近い候補者とオーディションを行ったものの、ピンと来る人が見つからずクランクインを延期しようかと考えていた矢先、作家の水上勉から「六本木のゴーゴークラブにいいコがいる」と教えてもらい、早速店を訪ねたところ、それがピーターだったという(当時16歳)。ちなみに芸名の由来は、この時働いていた店で「男の子か女の子か分からない美少年」ということから呼ばれていたピーター・パンから(→パンを略して“ピーター”と^^)。

 あと筆者的には土屋嘉男の出演ね!この人、ご存じの通り「七人の侍」や「地球防衛軍」に出てた人だぜ!まぁ、現代ならともかくこの当時、よくこの役受けたな〜(感心)。この映画、ゲイボーイもフーテンも本物(言い方変えれば素人)使った映画でちゃんとした俳優はほとんど出ていないんだけど、ポイントポイントで当時の文化人や著名人がちょいちょい顔出してる。映画監督の藤田敏八(クレジットでは「繁矢」名義)や篠田正浩、若き日の蜷川幸雄の姿も!中でも淀川長治大先生(本人役)の登場シーンは、ビックリするよ!いつ出るのかは本篇を観てのお楽しみということで❤

 映画はボードレールの「悪の華」(←押見修造の漫画の方ではない)からの詩の引用が終わると、いきなりエディと権田のHシーンから始まるので一瞬「めちゃ難解で意味プーな映画じゃないのか?」と思いがちだが、エディをメインにストーリーを進行させつつ、ダルな生活してるフーテン(死語)やゲバ学生たちが世の中を賑わせた60年代末の世相を描いているのでさほど心配しないでよし。但し、通常の劇映画しか診ていない人だと「幾度も行われる時間軸の繰り返し」に「大量に入る意味深なインサート」他で少々戸惑うかも?!筆者はこういうサブリミナルっぽい編集好きだけど(笑)。
 余談だが、劇中3回ほど<早回し映像>になるところがあるのだけれど、一説では1970年、英・ロンドンで上映された今作を観たスタンリー・キューブリック(!)が、次回作 「時計じかけのオレンジ」の<早回し3Pセックスシーン>の参考にしたとも言われているが・・・ホンマかいな!?それが事実だとしたら、劇中時々入るカメラ目線のインタビュー(演者がいきなり“素”でインタビュー受けてるシーンが入る)は、もしかするとウディ・アレンの「アニー・ホール」(’77)で演者が唐突にカメラに話しかける演出も「薔薇の葬列」から影響を・・・って、そんなことねーか(笑)!


 1960年代末という<混沌とした時代>に加えて<ATG(日本アート・シアター・ギルド:1961〜92)の存在>がもたらせた稀有な1作。廃盤だったDVDも先日再発されたので是非観て欲しい^^。


 <どうでもいい追記>「薔薇の葬列」の“薔薇”は男性の同性愛者を指す隠語(対して女性同士の方は“百合”)。ちなみに筆者はノンケなので、そこは誤解なきようお願いします^^