其の480:粋なアクションコメディ「危いことなら銭になる」

 2012年も残りあと僅かになりました。そこで唐突に今回紹介するのは昭和37(’62)年の日活作品「危いことなら銭になる」!都筑道夫先生の「紙の罠」を原作にした犯罪アクション・コメディです。主演は若き日の宍戸錠浅丘ルリ子!!古い映画だからって食わず嫌いでいると損しまっせ(ちゃんと総天然色だし)^^。ちなみにタイトルの読み方は→「危(やば)いことなら銭(ぜに)になる」デス。


 紙幣印刷用のスカシ入り和紙10億8000万円相当が謎のグループに強奪された!ニュースを聞いて動き始めたのは銃の達人ながらガラスを擦る音にからきし弱い、通称“ガラスのジョー(=宍戸錠)”、数字信奉者の“計算尺の哲(=長門裕之)”、そして力自慢の“ダンプの健(=草薙幸二郎)”の3人。彼らがそれぞれ考えたのは、紙を盗んだ連中にニセ札作りの名人・坂本(=左卜全)を高く売りこむ事!香港から帰国する坂本を誘拐すべく空港に向かったものの、強奪犯の一員に彼を連れ去られてしまう。ジョーが唯一の手がかりとなる建物に乗りこんだところ、大学生の電話番アルバイト・秋山とも子(=浅丘ルリ子)がいるだけ。ジョー、哲、健、そしてひょんな事からとも子も加わって、坂本名人一大争奪戦が開始されたのだが・・・!?


 日活アクションを支えたひとり・宍戸錠のニックネームが“エースの錠(←本人がトランプが好きだったことに由来するらしい)”であることは有名だが、今作の名前は“ガラスのジョー”(笑:前に出演した「硝子のジョニー 野獣のように見えて」のパロディ)。その他、長門のキザ〜な演技に、柔道も披露するめっちゃ可憐な浅丘ルリ子!!筆者も若き日のルリルリの作品は何本か見てはいるのだがーこのコメディエンヌぶりにはめっちゃ驚いた!すげー可愛い!!加えて「七人の侍」の村人役でも知られる怪優・左卜全演じるニセ札作りの名人は「色気がないところでは仕事が出来ない」とぬかすスケベな老人(笑)。こんなキャラ立ちまくり&ナンセンスギャグ満載の作品を監督したのが中平康だ。

 中平康(なかひら・こう:1926〜1978)は岡本喜八市川崑鈴木清順増村保造らと共に<モダン派>と称された技巧派監督。1956(昭和31)年、助監督身分でありながら演出を担当した中編スリラー「狙われた男」で初監督(公開は次作「狂った果実」の後)。同年「太陽の季節」(古川卓己監督)のヒットを受けて作られた監督2作目「狂った果実」はセンセーショナルな題材をスピーディーなテンポ、斬新なカッティングで演出。新人だった石原裕次郎をスターダムに押し上げた(フランソワ・トリュフォーゴダールら“ヌーヴェルヴァーグ”の一派たちも絶賛、後年、中平は彼らを「弟子たち」と呼ぶようになる)。その後も様々なジャンルで才能を発揮。1961(昭和36)年には中平最大のヒット作となる石原裕次郎主演「あいつと私」、1963(昭和38)年、吉永小百合浜田光夫の純愛映画「泥だらけの純情」を監督。「泥だらけ〜」は後に韓国でリメイクされ、現在の韓流映画のルーツになったとも言われている。・・・いまいち一般の知名度が低いのが筆者も口惜しいので、中平の作品はいずれまた取り上げようと思いマス^^

 そんな脂がのった“モダニスト”中平の全盛期に撮られた今作ですもの、テンポは快調!編集のリズムは勿論のこと、特筆すべきは登場人物全員を速射砲の如き“早口”で会話させ、演技のテンポをも上げている。現場は・・・結構、セリフ噛んでNG多かっただろうなぁ・・・(苦笑)。それを全編で統一したところが凄いわ。勿論、日活作品だけにアクション(男の子の好きなドンパチ♪)もあるので、乞うご期待(笑)!

 脚本を担当したのは池田一朗山崎忠昭。<(最初は敵対しているものの)男3人と女1人>という主要メンバー構成&山崎が後年、ファーストTVシリーズで「ルパン三世」の脚本を担当したということもあって(「ルパン」の漫画連載は今作より後)、今作を<ルパン文脈>で語る文献も多いが・・・なんでもかんでもそれでまとめるのは如何なものかと(苦笑)。ただキャラ的にも、オチのつけ方も(都筑先生の原作読んでないんで、どこまで一緒なのかは知らんが)確かに似ていることは間違いない!果たしてモンキー・パンチ先生が今作を観たOR多少なり今作に影響されたかどうかは・・・本人に聞いてみないと分からないけどネ(誰か聞いてくれ)。


 さすがに昭和37年の映画だけに、街並み(舞台は東京と横浜)や車が・・・古っ!でもその分、現在ではもう絶対に見られない懐かしの黒電話に赤い三輪自動車(←当時、宍戸の愛車だったといふ)の姿も!映画を楽しみながら、失われた日本の風景を眺める(これぞリアル「三丁目の夕日」)・・・これもまた映像文化の効用のひとつだ^^。


 
 <追記>冒頭に今年も残り僅かと書いたが・・・そんなこの時期に森光子さんや中村勘三郎さん、そして小沢昭一さんまで亡くなってしまった!!大物芸能人が次々と・・・嗚呼、残念。心よりご冥福をお祈り致します。