其の492:封印解除^^「黒部の太陽」

 4月1日ー“新年度”に入りました。でも筆者の生活は何も変わらず(誰か暇をくれ:苦笑)。

 
 石原裕次郎三船敏郎共演の映画「黒部の太陽」(’68)はソフト化がされない“封印映画”として知られていた。その理由は裕次郎の「映画はスクリーンで見るもの」という遺志だと言われているが(→同様の理由で「栄光への5000キロ」も封印されてた)先日、その封印が解除、初ソフト化(近年、一部で上映はされてはいたけれど)!!いや〜、長生きはするもんだね(笑)。筆者も即ソフトを購入したことは言うまでもない^^


 戦後、関西では電力不足による停電が頻発。そこで関西電力は水量豊富で水力発電に適した富山県黒部川上流に「黒四ダム」建設を決定する。だが、当の現場は大変な奥地にあるため現状では資材の搬入が不可能。そこで関電の北川(=三船敏郎)らは長野県大町からダム予定地の富山県立山町までトンネルを開通させることにする。トンネル工事を担当する複数の会社のひとつ、熊谷組の下請会社社長・岩岡源三(=辰巳柳太郎)の息子・剛(=石原裕次郎)は、トンネル掘りの為なら人を人として扱わない父に反発、家を出て設計技師になっていた。昭和31年8月、<世紀の大工事>と言われる黒四工事が開始された。そんなある日、剛は父の様子を見に黒部に向うと、彼は足の怪我で現場に出られる状態ではなくなっていた。北川の工事にかける意気込みを知った剛は源三に代って現場の指揮を執ることとなる。だが、途中には軟弱な大破砕帯(フォッサマグナ)が存在、土砂崩れと大量の水がトンネル内の人々を襲う・・・!!


 原作は毎日新聞編集委員・木本正次が同紙に連載した小説「日本人の記録・黒部の太陽」。三船プロダクションの根津博が石原プロモーション側に映画化を持ちかけたことで企画がスタートした(今作は三船プロダクション石原プロモーションの共同制作)。だが、これは様々なところでも書かれているように・・・映画製作自体がこのトンネル同様、“大変な難工事”となった(ジャジャ〜ン♪)

 各々自分の個人プロダクションは持っていたものの“日活”のスターである石原裕次郎と“東宝”のスター・三船敏郎。1963年、両者で最初の話し合いが持たれ、翌64年・秋にプロジェクトが発表されたものの、製作予算に監督の選定、配給の問題に当時存在していた<五社協定(→前にも書いたので自分で調べてくんろ)>が立ちふさがり、話がなかなか先に進まない状態へ。

 月日は流れ、監督人事の目途が立ったのは3年後の1967年・春。製作会見で日活所属の熊井啓の起用が発表されると(→熊井は2年間、映画を撮らせてもらえず、日活を辞めてでも監督する気でいた)、事前に何も聞かされていなかった日活から猛抗議が!!さらに配給先も「裕次郎の日活OR三船の東宝どっちか」という問題もあり、日活は「熊井は貸さない(→一時は熊井に解雇命令も)」&「日活も他の4社も配給しない」と裕次郎、三船の両者を追い詰める(関電に制作協力しないよう“圧力”も)。最終的には<日活配給>でようやく落ち着くんだけど・・・当時の日活の社長は「殺しの烙印」で鈴木清順をクビにしたことでも知られる堀久作(ワンマン)。いろいろある御仁ですなぁ(苦笑)。

 続いて予算の話。関電の全面協力は取り付けたものの、その当時、石原プロにはスタッフ・キャスティングの予算が500万円しか無かった。そこで裕次郎は自ら劇団民藝の主宰者・宇野重吉を訪ねて協力を依頼。宇野は全面協力を約束、自身を含めた民藝の所属俳優、スタッフ、必要な装置などを提供した。実の息子である寺尾聰(当たり前だが若いっ!)との共演シーンもあるので、ファンの方はそこら辺りも見所よん❤

 史実に基づく内容の為、撮影は莫大な資金が必要で超大掛かり(ハナから特撮は使わない方針だった)。実際に映像を観て欲しいが・・・エキストラは大量に出るし、合間にインサートされる山間の風景シーンも・・・あれ、撮るの大変だったろうなぁ!筆者はとてもじゃないが行きたくない(笑)。劇中、出てくる機械も実際にトンネル工事で使われたホンモノということで・・・マジで映画を作っていることがビシビシ感じられる。

 中でも有名な「第1部(→今作は2部構成で間に休憩も入る)」のクライマックス:<破砕帯による大量出水シーン>は愛知県豊川市にある熊谷組機械工場の敷地内に高さ5メートル、幅7メートル、全長220メートルのサイズで建設された巨大オープンセットで撮影(←実際に工事に関わった人たちによる製作)。この場面のためにカメラ12台が用意されたのだが・・・予定外の水(→出水を再現する為に用意された水タンク内の水420トン)と20本以上のサンドル(→松の木の丸太:長さ2メートル×直径30センチ)が束になって流れ出るアクシデントが発生!!撮影機材は勿論、スタッフ、キャストをも呑み込んだ(三船は無事だったものの、裕次郎他数人が負傷)。ぶっちゃけ、このシーン、“本当の事故”!裕次郎たちが流されるカットでは途中で<静止画処理>されてる・・・フィルムに問題があったのか、ああいう処理しないとシャレにならないのか分からんけど、凄い迫力ですよ、ホントに。このシーン、観るためだけでもこの映画は観る価値がある(断言)!

 1年以上の撮影期間を経て、映画は(やっとこさ)クランクアップ、公開されると大ヒットを記録した(よかったよかった^^)。五社協定問題がマスコミに報じられたことや電力会社&その下請け・関連企業に大量のチケットを買って貰った側面もあるが(「動員映画、前売券映画」の“先駆け作品”でもある)いまの視点で観ても、現代人がともすれば忘れかけているー仕事にかける情熱や家族愛、物事を一致団結して成し遂げることの素晴らしさーが描かれている。と同時に余りの過酷さにとっとと逃げだす人々の姿も描かれ、綺麗事だけにとどまらない&単純な人間讃歌のみに終わっていないところが素晴らしい(→脚本は熊井啓と“後期黒澤組”の井手雅人)。製作規模、熱意、姿勢も含め、いまの日本映画関係者にも是非観て貰って我が身を振り返って頂きたい!


 あまり知られていないけど・・・「黒部の太陽」以前に裕次郎&三船はお互いのプロダクションで提携して映画製作を決意、岡本喜八監督による「馬賊」の製作を発表したんだけど、例の「五社協定」のせいで企画が流れちゃった過去があるんだよね。そういう意味でいえば、今作は2人の“リベンジ”でもあるんだよな。おまけにタイトルが「黒部の“太陽”」・・・<太陽族>出身の石原裕次郎に最も適した企画であったと筆者は思うのだが・・・誰もこれ指摘してないなぁ(苦笑)。

 なにはともあれ、3時間を越える長尺ながら一気に観られます。日本人なら死ぬ前に一度は観て欲しい一作。せっかく長年の封印が解除されたんだから、観なきゃ損だって^^



 <追悼>女優・坂口良子さんが急逝された。・・・早い、早過ぎる(涙)!!石坂浩二版「金田一耕助」シリーズの時代からファンだった筆者はもの凄いショックを受けた(一度、お会いしてお話した事もあるし)。先日、DVDで「犬神家の一族」&「獄門島」での坂口さんの出演シーンをチョイスして鑑賞した次第・・・。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。