其の449:チャップリンじゃない「殺人狂時代」

 いよいよ3月も末ですが・・・またまた邦画の“怪作”を^^。
 そもそも<映画>なんていうものは、巨額の予算がかかるため、大勢の人間が多かれ少なかれ絡んでくるものだが・・・時には、それが人(中でも監督)を不幸にする場合がある。かの鬼才スタンリー・キューブリックでさえも製作・主演を兼ねたカーク・ダグラスが全く意見を聞いてくれなかった歴史大作「スパルタカス」を生涯自分の作品と認めなかった・・・なんてこともあったりする。TVディレクターなんて・・・そんなのしょっちゅうだけど(苦笑)。
 「独立愚連隊」シリーズや「肉弾」他で知られる岡本喜八監督にもそんな作品がある。それが1966年の東宝映画「殺人狂時代」!!チャップリンに同じタイトルの作品があるけど全然関係ありまへんので御注意(ややこしいなぁ)。


 精神病院を経営し、「大日本人口調節審議会」を主宰する溝呂木(=「死神博士」こと天本英世)の所へ、かつてナチスで同志だったドイツ人・ブルッケンマイヤーが訪れる。彼は自分が所属する秘密結社が「大日本人口調節審議会」へ仕事の依頼を検討していると言い、その“テスト”として電話帳から無作為に選んだ3人の殺害を要求する。「審議会」はその名称通り、“人口調節”のため無駄と判断した人間を殺すことが目的で、溝呂木は入院患者たちを殺し屋に仕立て上げていたのだ!<殺害対象>として選ばれた冴えない大学講師・桔梗(=仲代達矢)は自宅アパートで「審議会」の殺し屋に命を狙われるものの、偶然返り討ちにしてしまう。警察に事件を届けた桔梗が部屋に戻ると殺し屋の死体はなかった。こうして、先の一件で知り合った記者の鶴巻啓子(=団令子)、桔梗のボロ車を盗もうとした小悪党の大友(=砂塚秀夫)と共に桔梗は理由不明ながら自分の命を守るため「審議会」の刺客達と対決することになるのだが・・・実はその裏には<ある陰謀>が絡んでいた!!


 ↑・・・と、あらすじを上記に書いたけど面白そうでしょ。ジャンル的には<ミステリー&アクション・コメディ>ということになるのだろうが、主人公は超ど近眼でマザコンにして水虫に苦しむムサいとぼけた男(→仲代達矢が怪演!この役について感想を聞きたいネ)だし、彼が戦う(といっても、たまたま倒しちゃうのだけど)殺し屋たちが<精神病院のキ●ガイ>という設定も凄すぎ&危な過ぎ(映画の冒頭から叫んでるガイキチのどアップ:苦笑)!!

 ミステリー小説の大家・都筑道夫先生の原作(「なめくじに聞いてみろ」改題「飢えた遺産」)を山崎忠昭が脚色(山崎は後にアニメ「ルパン三世」の脚本も書いているので今作にもルパンに通ずるテイストが多々入っている)。実はこの作品・・・本来は宍戸錠を主演に企画された(ポルノやる前の)日活作品!!それがどういうワケか・・・日活から東宝に映画化権&脚本が移ってしまい、その結果、岡本喜八が監督することになったのだ(最終的に脚本のクレジットは「小川英、山崎忠昭岡本喜八」)。

 完成した作品は・・・異常にオシャレな内装と患者たちのリアクションのギャップがものすごいファーストシーンに始まって、様々な暗殺アイテムを駆使するガイキチ集団にヒトラー礼賛(資料映像で本物の総統も登場)、妙に峰不二子っぽい団令子に二転三転するストーリー展開&いかにも岡本監督っぽいアクション&大爆発シーンに・・・多少、現在の視点で観るともっさりしていて「ここでカット割ればいいのに」と思うところも多々あるが、冒頭に書いたように内容含めて二度と作れないだろう非常に魅力的な“怪作(放送禁止用語連発だから、テレビ放送絶対無理!!)”である。筆者的には主人公の“巻き込まれ型”という点で「北北西に進路を取れ」他のヒッチコック作品のほか、ファーストシリーズの「ルパン三世」、そして藤子不二雄A先生が一時期書かれていた一連のブラックユーモア漫画も連想したけど^^。

 本篇完成後、事件(?)は起きた。封切1週間前に突然、今作は“公開中止”となったのだ!岡本によると撮影所の所長からは「水準以下だから」という訳の分からない理由が伝えられたのみで、他のお偉いさん方にも聞いて回ったものの、誰も明確に答えてくれなかったという。ショックを受けた岡本は酒とゴルフに走ったそうだが(で、ゴルフの腕は上がった、と:笑)。

 ところが翌1967年、何故かいきなり劇場公開(→同時上映は、これまた何故か勅使河原宏監督の「インディレース 爆走」というドキュメンタリー作品)!!すると“東宝創立以来の不入り”を理由に、上映1週間で“打ち切り”となった(あれま)。当時は各映画会社が新作をバンバン公開していたし、公開前にろくすっぽ宣伝をしなかったという事だから当然といえば当然の結果だが・・・一説によれば、この<東宝っぽくない作品(元々が日活作品だから当たり前)>をどう売ればいいか分からず営業サイドからの反対で“オクラ”にしたらしいが・・・何故、上映したのかは謎。「一応、作ったわけだから、ちょこっとは公開するか」と考えたか、他の作品の製作スケジュールが遅れて、その分の“穴埋め”ではないか・・・と筆者は邪推している(間違ってたら御免ネ^^)。

 
 幸い今作は批評家筋の評価も高く、岡本監督が(鈴木清順のように)干されることもなく監督人生を全うできたので“人生を転落させた”作品にならなかったのが不幸中の幸い。今ではDVDも出ているので(タイトルバックは昔ながらのアニメーションで楽しいぞ)<テレビ放送不可能作>を大いに楽しんで頂きたい。


 
 <どうでもいい追記>かねてより研究中にして構想ウンか月の<某邦画シリーズ>は・・・もうちょい、もうちょい。
とか言って、夏頃になりそうな気も!?でも、その前に例の巨大直下型地震の方が先に来る気がしないでもない(苦笑)。