其の198:ビバ!裕次郎「狂った果実」

 最近、悲しいぐらい観る映画がハズればかり(涙)!フランス製アニメ映画「ルネッサンス」はストーリーがよくあるパターンで映像に反して目新しさはないし、デイヴィッド・リンチ監督(数年前に従来のデビッド・リンチから日本表記が変更された)、ローラ・ダーン主演の「インランド・エンパイア」は評判通りの意味不明な怪作だった(苦笑)。どんでん返しをウリにした「ソウ3」やジョシュ・ハートネット主演の「ラッキーナンバー7」も設定に対してヒネリが足りなかったし。こうなりゃタランティーノのB級映画「グラインドハウス」に期待するか(笑)。

 そんなお嘆きのアナタにお薦めするのが石原裕次郎主演の「狂った果実」!根岸吉太郎監督の同名作ではありません。「フランス映画の墓堀人」と怖れられたフランソワ・トリュフォーも絶賛した「太陽族映画」&青春映画の傑作で御座います(といっても太陽族映画って、そんなに本数ないんだけどさ:笑)。


 神奈川の逗子海岸(=太陽族は湘南が主な活動エリア)。大学生の兄・夏久(石原裕次郎)と高校生の弟・春次(津川雅彦)はある日、恵梨(北原三枝)と出会う。純情少年の春次はこの年上の女性に心奪われ、積極的にアタックするようになる。だが、スポーツマンを自認し、女に手の早い夏久は横浜のナイト・クラブで踊っている恵梨を見かけ強引に自分の女にする(こらこら)。
 恵梨は心では弟・春次を愛しているが、同時に兄・夏久の肉体にも惹かれてゆく。そんな二人の関係を知ってしまった春次は・・・。


 今更、ここで詳しくは書きませんが「太陽族」とは昭和30年代、湘南地方で暇を持て余した金持ち息子たちの事を言います。よって、貧乏人は世代が一緒で湘南に住んでいても「太陽族」にはなれません。いまのヤンキーの若者より頭はいいし金がある分、始末が悪いかも(苦笑)。で、暇だしヤリたい盛りだから(別の表現を使うなら「青春時代の苛立ち」とか「若者のイライラと反抗」)平気で女も犯すとんでもない連中(笑)。まぁそれがこのときは受けたわけ!オチは暗いんだけど。


 今作は石原慎太郎原作の映画「太陽の季節」がヒットし、その人気を受けての「太陽族映画」2作目。石原慎太郎は当時、日比谷にあった日活ホテルで缶詰になり今作のシナリオを書いたという。で、主演には前作でデビューした弟・裕次郎をゴリ押し(いまも昔も性格、変わってないね)。これが裕次郎が終生の大スターになるきっかけとなるのだから、本当に人生はどうなるかわからない(笑)。


 勿論、映画は石原裕次郎の魅力によるところが大きい。背が高くて慶応ボーイ。ヨットやモーターボートも操れる。で、ちょいワル(笑)。くったくのない自然な振る舞いが戦前とは異なる新たな若者像を生み出した。のちの裕次郎の奥さん・北原三枝津川雅彦(若いっ!)のほか「ファンファン」岡田真澄もいい味出してます^^
 

 そして勿論、映画で大事な演出!監督は中平康(「なかひら・こう」。「なかだいら・やすし」ではない)。慎太郎のよる完全な台本がないまま撮影に入ったそうだが、完成作はひたすら爽快!本人の持ち味である切れ味のよいモンタージュとテンポの良さ(モーターボートの疾走シーン!)は今観ても絶妙である(トリュフォーが誉めた所以)。
 今作公開後、PTAらの反発から「太陽族映画」は打ち止めを余儀なくされるのだが、のちに中平は「牛乳屋フランキー」で太陽族の映画をパロってる(笑)。川島雄三の「幕末太陽傳」は倒幕派の志士たちを「太陽族」に見立てたもの。で、裕次郎も出ていると(笑)。


 いまでは兄・慎太郎は都知事となり、死してなお人気の裕次郎はなにかと話題になり続けている。本人による「映画は映画館で観るもの」の意志を汲んで未だソフト化されない大作「黒部の太陽」をー世代的に当時、観てないのでー熊井啓監督、三船敏郎も亡き今、是非観てみたい!!