其の228:70年代タイムカプセル「八月の濡れた砂」

 最近、読んだ漫画で面白かったのが大塚英志原作・藤原カムイ作画の「アンラッキー・ヤングメン」。学園闘争を背景に主人公たち(実在の人物含む)それぞれの生き方を描いた青春群像ものだ。藤原曰く「背景は当時の資料を駆使して再現した」の言葉通り、超リアル!某ノスタルジー映画は昭和30年代が舞台だが、筆者は昭和40年代の生まれなのでコチラの方が懐かしいわ^^
 そんな東大・安田講堂の攻防を頂点とする大学闘争が沈静化し、改革を目指していた学生・若者らが挫折感から立ち直れず「シラケ」たり、自己を極度に相対化あるいは戯画化する遊戯的ムードが蔓延していた昭和46年(1971)に公開されたのが「八月の濡れた砂」。いまでも一部に熱狂的なファンがいる青春映画の有名作である。2007年は今作の監督・藤田敏八の没後10年(後年は「俳優」としても活躍した)。勝手に追悼しよう(笑)!


 舞台は1971年の湘南。夏の朝、高校生の清(広瀬昌助)は不良たちに輪姦された同世代の少女・早苗(テレサ野田)と出会う。その為、清は事件を誤解した早苗の姉・真紀(藤田みどり)に脅かされるハメに。清の友人のひとり健一郎(村野武範!)は高校を退学している。彼は父の死後、バーで働く母と関係を持っていた亀井(渡辺文雄)を毛嫌いしていた。早苗が清を訪ねてきた時、彼女に手を出した不良グループを発見!健一郎も加わり大乱闘を繰り広げた事で3人は親しくなる。だが、早苗を好きになった清は彼女が輪姦された事が気になって仕方がない。そんなある日、健一郎は何者かによって雇われた3人組のヤクザにボコボコにされる。それ以降、清・健一郎・早苗・真紀、4人の危うい関係が加速していくー!


 監督・藤田敏八(1932〜97)は東大卒業後、「日活」に入社。67年、「非行少年・陽の出の叫び」で監督デビューを果たす(日本映画監督協会新人賞受賞)。以降、時代風俗とアンニュイ(倦怠)な感情をすくい取る作風で若者たちから圧倒的な支持を受けた(「監督・藤田敏八」とクレジットが出ただけで劇場内で拍手が起きたそうな)。幼い顔してエロいバディの秋吉久美子主演作「妹」ほかを監督したのも藤田である(あと梶芽衣子の「修羅雪姫」もね)。「八月の濡れた砂」は石原裕次郎・渡哲也以下、大スターたちがいなくなり「経営難」にあった日活最晩年の作品のひとつ(翌年、日活はポルノ路線に転向。藤田もロマンポルノ「八月はエロスの匂い」を発表する)。藤田は監督のほか「脚本」も手掛けています(「ルパン三世」や「荒野のダッチワイフ」の大和屋竺も参加)。


 作品を構成している要素を見ていくと「夏の湘南」、「若者の倦怠感」、「大人への反抗」、「喧嘩とセックス」、「最後は洋上のヨット」・・・と、これ全て裕次郎初主演作「狂った果実」(’56)と同じ!その意味では日活が原点に立ち返って最後を締めくくったとみてもよかろう。太陽族映画「狂った果実」や大島渚の「青春残酷物語」(これは松竹)同様、今作の若者たちも受験生でありながら大して勉強もせず、ろくなことしない。村野扮する健一郎なんかしょっ中、ヤリたがる(爆笑)。まぁ、見方によってはアリストテレスの時代から「いまの若いもんは・・・」と言われていた様なので(=文献が残っている)「若者」なんてそんなものなのかもしれない(人類も進歩しないね〜:苦笑)。


 会社の経営難もあって主に新人俳優を起用し、約1ヶ月で撮影された本作。村野武範や剛たつひと(あらすじには書かなかったけど「内気なガリ勉」役で出演してます)ほか、今では後の「70年代青春スター」が一同に介した趣もあり。皆、それぞれ個性的な演技を披露しています。テレサ野田(ヌードあり)なんかビジュアルだけでも気だるさ満点!これぞ70年代だ(笑)。だが後年、剛はTVレポーターに。村野と渡辺文雄が揃って某番組のグルメ・レポーターになるとは当時の観客は勿論、本人さえ予想していなかっただろう(爆笑)。ちなみに地井武男原田芳雄山谷初男らもちょい役ながら出演。現在では彼らの方が主役たちよりメジャーなのも今作の特徴のひとつかもしれない(笑)。


 最後は・・・ネタバレになるので詳しく書かないけど「虚無感」溢れるラストシーン。この後、彼らがどうなっていくのか考えずにはいられない(何も考えず、行き当たりばったりで行動した「代償」は大きいとみた)。もっとも、この「感触」が当時の若者の心情にあっていたのだろう。服装、町並み、乗り物(車やバイク)、言葉遣いや髪型、そして「生き方」含めー良くも悪くも日本にかつてこんな「時代」があった事を今更ながら思い出させてくれる映画だ。


 
 冒頭に書いた「アンラッキー・ヤングメン」ではないがその昔、日本の学生や若者たちは熱かった。おそらく日本では若者たちがあれほど国の将来に対して熱く考え、行動するなどという事は永遠にないと思われる。何故ならば・・・これは知る人ぞ知る話だが戦後、GHQは「日本人が再び軍国化など考えないように、娯楽を与えて腑抜けにしちゃおう」とある政策を打ち出した(=通称「3S政策」)。3つの「S」とは「スポーツ」、「セックス」そして「スクリーン(=映画)」の事。こんな「映画ブログ」を書いている筆者含めて、全ての日本人はアメリカさんの狙い通り、今ではすっかり「洗脳」されてしまったようですから(苦笑)。これを読んでるアナタもそう思いません??