其の565:伝説の「牛乳屋フランキー」を観る

 ・・・早くも5月になりました。未だ風邪、完全に回復せず・・・(涙)。

 
 前回書いた「生きていた男」といい、“知る人ぞ知る作品”がソフト化されてきているのはディープな映画ファンには嬉しいところ!今回取り上げる「牛乳屋フランキー」(’56)も<伝説のスラップスティック・コメディ>と評価されている一作。近年ようやくDVD化された^^。この作品も「生きていた男」同様、筆者が存在を知ったのは大学生の頃・・・(懐)。個人的にようやく観れた映画の一本です。



 長州・追分。堺六平太(=フランキー堺)は堺家の遠縁に当る「杉牛乳店」が商売仇の「ブルドッグ牛乳」によって苦境に陥ったことを応援する為、祖父の小五郎(=フランキー2役)の命を受けて東京へやってきた。ところが母子家庭のその店には五十万円もの借金があり、上京した翌日には同僚の新吾(=小沢昭一!)がブルドッグに寝返ったりして、波乱のスタートとなる。そんな中、人の良い六平太は牛乳配達以外にも映画の助監督をしている松原(=宍戸錠)のラブレターを由緒ある良家の娘に届けてやったり、アパートに一人住いの女性の手伝いをやらされたり・・・。「サービス第一」をモットーに日々働く六平太は、お得意先を増やしてはいくのだが・・・!?


 タイトル通り、映画は牛乳屋(←懐かしいね!昔は新聞同様、牛乳も朝配達されてたものなのよ。いつなくなったのかまでは知らんが)に勤めることになったフランキー堺が店のために頑張る様子を描いたドタバタ喜劇。文化放送でやってた連続ラジオドラマを元に、出演していたフランキーらがまんま起用されての映画化だそうで、主役のフランキーも階段から転げ落ちたり、体を張ったギャグを繰り出してくれます^^。

 監督はこのブログでは何度か紹介している早すぎた天才・中平康(共同脚本も)。今作が公開された1956年(昭和31年)に中平は「狙われた男(処女作ながら公開は「狂った果実」の後になった)」、大ヒットした石原裕次郎太陽族映画「狂った果実」に、ヴィスコンティじゃない「夏の嵐」、そして今作と・・・実にデビュー年に4本も撮ってる!!しかも自分が監督した太陽族映画を今作では早々にギャグにしている(登場するのは石原慎太郎ならぬ“石山金太郎”。葉山のヨットハーバーで女性をナンパする妄想シーンは「太陽の季節」を茶花したもの)。慎太郎氏本人に観られたら怒られそうな気もしないではないが(笑)、シリアスな「狂った果実」撮って、大当たりとったのに、すぐさまそれもパロったベタベタコテコテの喜劇を撮る中平のふり幅・・・やっぱり凄い人だ。

 全般に渡って大小様々なギャグが繰り広げられる今作だが、中でも秀逸なのが西郷隆盛のパロディーとして登場する“南郷隆盛”!上野公園の銅像まんまの姿で随時現れる(しかも犬つき^^)。日本映画界の内輪ギャグも豊富で、中平自身が所属している「日活」を「頓活(トンカツ)」とか、現場の監督が座るディレクターズ・チェアに「巨匠」と書いてあったり・・・遊んでるよなぁ!ワイプを<牛乳瓶型>にしたり、編集でも遊んでる(個人的にもそういうの好き❤)。全編ギャグがあって<2つの店のライバル争い>というストーリーの主軸からいえば故・森田芳光の「そろばんずく」(’86)のルーツにあたるかもしれない(森田がイメージしていたのかどうかは今や知る由もないが)。

 フランキー堺で、“喜劇”といえばやっぱり今作の翌年に主演した「幕末太陽傳」を思い出す。<人が好くて憎めないキャラクター>はもともとフランキーさん自身のお人柄だと思うが、今作の登場人物は、その快活さ・憎めなさという点で「幕末〜」の居残り佐平次に相通じるものがあるような気がする(もっとも佐平次は六平太よりは様々な顔を持ったキャラクターではあるが)。今作も「幕末〜」もフランキーが主演だからこそ成立した作品である事は疑う余地はないだろう(←ちなみにタイトルロールにある“フランキー”は、今作では“犬の名前”として登場する。いいんかいな^^)。あと、めっちゃ初々しい宍戸錠や、1シーンだけ登場する西村晃も要チェックということで。


 さすがに現在・・・2015年の平成視点で観れば大爆笑とまではいかないけど、いかにも“昭和のギャグ”という感じで微笑ましく観た筆者でした^^。

 それにしても昔から日本は喜劇の地位が低いけど、この傾向はいつになったら改まるのかしら?22世紀まで待たないといけないのかしらん???