其の455:狂乱のロック・オペラ!「トミー」

 珍しく前回予告した通り、今回は“メジャー作”を^^。ザ・フーによる同名アルバムを鬼才ケン・ラッセルが映画化した「Tommy/トミー」(’75)は・・・どや?!ザ・フーのメンバーは勿論、ジャック・ニコルソンエルトン・ジョンエリック・クラプトンはおろかティナ・ターナーまで出てるんだから・・・メジャーだよ・・・ねぇ(・・・多分^^)??筆者的には今更ながら昨年11月に亡くなった“変態”ケンちゃんの追悼も兼ねる!


 ノラ(=アン・マーグレット)はウォーカー(=ロバート・パウエル)と愛しあい結婚するものの、第2次大戦に出征した彼は戦場で還らぬ人となる。戦争が終わった日にノラはトミー(→青年期を演じるのはロジャー・ダルトリー)を出産。数年経ってノラがフランク(=オリヴァー・リード)と再婚したある晩、戦死したと思われていたウォーカーが家に戻ってきた。ところが訳が分からず怒り狂う彼をフランクはランプスタンドで殴り殺してしまう!目撃していたトミーに2人は事件について「お前は何も見なかった」、「何も聞かなかった」、そして口外せぬように強要する。事件の衝撃&両親2人の過度の命令を受けてトミーは見ることも、聞くことも、話すことも出来なくなってしまった・・・。青年に成長したトミーを治療すべくノラやフランクはあちこち奔走するものの全く症状が回復することはなかった。そんなある日、ひょんなことからピンボール(←ゲーセンによく置いてあるあの台よ)と出会ったトミーは天才的な潜在能力が開花し、ピンボール・チャンピオン(=エルトン・ジョン!!)を下し、世界的知名度を得る。自由な世界へ解き放たれた彼は、“奇跡の救世主”として祭り上げられていくのだが・・・。


 “オペラ”だけに、俗にいう<台詞>が一切なく、楽曲のみで構成されている今作(そこが“ミュージカル”とは違うとこ)。主人公トミーについて歌い上げるロックの数々に乗せて、あのケン・ラッセルが映像をあてる訳だからーまぁ、凄いことになってますよ(笑)!!このブログにも以前、ラッセルの作品は何本か書いてるけど・・・さすが“変態ケンちゃん”(笑)!このブログは<ロック史>や<ロック・バンド研究>を語るものじゃないので、ザ・フーを知らない御仁は自分で調べて頂いて「Tommy/トミー」のみに専念して書いていきます(そこまで暇じゃないのよ、あたしゃ)。

 「ロックオペラ“トミー”(Tommy)」 は1969年5月に発表したザ・フー4枚目のアルバム(2枚組)で、後年、オーケストラとの共演や映画化(→今作のこと)、再結成ライブでの演奏、ミュージカル化(2006年には日本でも上演!)等々形を変えて何度も発表され、ザ・フーのキャリアの中でも最も重要な作品といわれる。この物語は若者、またはピート・タウンゼント(=いわずと知れたザ・フーのメンバー。映画化にあたっては原案・音楽に出演も)自身の孤独や苦悩を反映させたものといわれている。ただオリジナルの歌詞は散文的且つ抽象的で難解。アルバムリリース後のピート自身による解説でもストーリーは一貫せず、今作(脚本はラッセルが担当)によってかなり具体的になった・・・という評価がある一方、真面目なフーのファンからは叩かれた(笑)。ちなみに主人公のトミーを演じたのはザ・フーのヴォーカル、ロジャー・ダルトリー。この方、ラッセルの「リストマニア」にも出演、特大のポコチンにまたがって熱演してた人(爆笑:「リストマニア」は以前のこのブログに書いてあるんで詳細はそれを読んでね♪)

 「リストマニア」同様、今作もまぁ・・・あんな感じのラッセル的奔放なイマジネーション映像の嵐!!マリリン・モンローを神と崇める怪しい宗教団体とか(あの有名なスカートまくれるシーンの巨大オブジェあり)、テレビの画面をシャンパンの瓶投げて叩き割ると中からシャンパンの泡やビーンズ(豆)にチョコレートがあふれ出てくるとか・・・そんな中に混じって、次々とセレブたちが登場してくるのが愉快、愉快^^

 ティナ・ターナーの役は<セクシーな麻薬の女王>!有名な処刑器具「鋼鉄の処女」みたいな怪しげな道具を使って、トミーの“治療”にあたる(笑)。エルトン・ジョンは先述したように<ピンボールのチャンピオン>。変な眼鏡と異常にデカい靴履いて主人公と対戦、あっさりと負ける(最初はオファー断ったそうな^^)。トミーを診療する<世界最高の専門医>にジャック・ニコルソン。ノラ役のアン・マーグレットに色目を使うのは・・・以前、彼女と共演した「愛の狩人」のパロディーか?一番凄いのはザ・フーのメンバー、キース・ムーンの役が<男色家のアーニーおじさん>!・・・確かにマジなファンは怒るよな(苦笑)。

 音楽は全てこの映画のためにレコーディングし直された(←年号ほか一部設定変更も生じてるし)。俳優陣も自分が演じたパートの歌は自らアフレコ、吹き替えなし!!歌手たちは当然、問題ないが・・・その分、<俳優>オリヴァー・リードの歌は・・・下手(苦笑)。現場でも余りに酷かったんで、ピート・タウンゼントは相当心配したそうだ(笑)。幸いノラ役のアン・マーグレットは歌手でもあり、ミュージカル映画への出演経験も豊富なので安心してお聴き頂けます^^。

 このブログは<ネタばれ厳禁>をモットーにしているので、オチは書きませんが・・・トミーが世界的セレブになったあと、両親の思惑もあって“現代のキリスト化”していくのだけど(トミーもキリストと同じくロン毛だし)・・・しっかり大衆批判、新興宗教批判等の要素もあり、一筋縄ではいかぬ展開。数奇な運命を辿る男の物語をザ・フーの音楽を楽しみつつ、ラッセルの原色を基調にした色彩&イメージの応酬で観客を(良くも悪くも)圧倒するロック・オペラ(金かかってるぞ〜!モブシーンも凄いし)・・・ノレるノレないは個人の感性の問題だが、まぁ一度は見て損はないよ。


 こんな映画、日本じゃ・・・思い当たらないな〜(あっても誰それのヒット歌謡曲をモチーフにしたやわな青春映画ばっかし)。テレビ局とタイアップした映画ばかりじゃなくって、こういう野心的な映画を誰か作ってくれい!!改めてケン・ラッセルに合掌。


 <どうでもいい追記>忙しくて森田芳光の遺作、劇場で見損なった・・・とほほ。