其の301:「ダークマン」に映画監督の大変さを観る

 301回目に紹介する映画は・・・サム・ライミ監督の「ダークマン」(’90)!!この流れだと、普通はもうちょいメジャー作を紹介するのが普通なのかもしれないけれど、我ながら<通好み>のナイスなチョイスだと思う^^。
 サム・ライミといえばホラーファンには「死霊のはらわた」シリーズの人、一般ピープル的には大ヒットした「スパイダーマン」シリーズの監督といえば(人相までは別にしても)わかるでしょう^^。筆者としてはそれらにプラス「マカロニウエスタンのファン」、「ジョン・ウーをハリウッドに呼んだひとり」という要素も加わるのではあるが(笑)。「ダークマン」は何故か知名度が低いんだけどライミ初の一般作(?)であり、後の「スパイダーマン」シリーズの監督になる資質がよく出ていると思う。主演は「シンドラーのリスト」でブレイク、ジェダイ騎士でもあるリーアム・ニーソン!当然、ライミの盟友ブルース・キャンベルカメオ出演してるよ(=どこに出るかは観てのお楽しみ)!


 遺伝子工学を研究する科学者ペイトン(=リーアム・ニーソン)は、ひょんなことから恋人の弁護士ジュリー(=「ファーゴ」のフランシス・マクドーマンド)が手掛ける収賄事件の証拠書類が元でギャングに襲撃され、全身大やけどの重傷を負う(但しギャングやジュリーには「死んだ」ものと思われた)。ふた目とみられない身体になった彼はさらに研究を続け、人工皮膚の完成に成功!マスクをつけることで誰にでも変装できるようになった「怪人二十面相」状態の彼はギャング一味に復讐を誓う・・・!


 ホラー映画を研究して作り上げた自主映画「死霊のはらわた」でヒットを飛ばしたサム・ライミが初めてホラーを離れて作り上げたのが今作(監督のほか、ストーリー、共同脚本も担当)。アメコミファンの彼は自身がファンの漫画(「バットマン」、「スパイダーマン」、「シャドー」ほか)を実写化してハリウッドに食い込みたいと思っていたのだが、まだ20代の彼に大金を投資する大手スタジオはなかった(=権利がムチャ高いから)。そんな中、同世代のティム・バートンが監督した「バットマン(=もち、バジェットは莫大)」がウルトラ大ヒット!焦ったライミは「原作なしで、コミック的なヒーローを産み出そう」と考える。


 「顔を変えることが出来るヒーロー」というライミのアイデア(=当初は「科学者」ではなく、「俳優」という設定だった)から彼とチャック・ファラーがまず初稿を書き、第2稿からは兄のアイヴァン・ライミ(=医学部分の考証の大半を担当)やジョシュア&ダニエル・ゴールディンも加わり脚本を練っていった。この結果「全身大やけどを負った為、医者が痛みを感知する神経を麻痺させた」、「神経を麻痺させた副作用として、アドレナリンが分泌されるとそれが増幅され、常人を越える身体能力が発揮できる」、「太陽光下では人工皮膚は99分しか維持できない」といったプラス面、マイナス面を併せ持つ異色のヒーロー像が設定され、これがストーリーを大きく盛り上げる。
 ギャングの一味になりすまして相手を翻弄しながら倒したり、時には本来の顔のマスクをつけて恋人とデートしても変装が99分しか持たないので主人公同様、観客も時間を気にしてハラハラしながら彼の活躍を見守ることになる(=顔面崩壊が始まると主人公はダッシュで逃げる)。村西とおるなら「ナイスな設定ですね〜」とかいいそうだ(笑)。
 ちなみに「オペラ座の怪人」、「ノートルダムのせむし男」ほかを彷彿させる古典的ホラーの要素に、姿は漫画の「シャドー」にそっくり(→のちに「ハイランダー」のラッセル・マルケイアレック・ボールドウィンで実写化したけどオモロなかった)なヒーローにすることで、ライミはこの企画をユニバーサル(=その昔、ホラー映画を得意としていた)に売り込んでOKを取り付けた。・・・頭のいい企画の立て方だわ(笑)。


 予算的にはB級だけど、派手な銃撃戦(一部、マカロニウエスタンしてる)のほかヘリを使った空中戦まであり!かつ<事件の黒幕>との最終バトルは、戦う場所やアクション含めて誰がどう観ても後の「スパイダーマン(特に1作目のクライマックス)」のルーツ!!ジャンル的にも「ダークなヒーロー(=いくら復讐といっても相手を殺したら「殺人犯」)が闘う見せ場満載の映画」・・・って、これってまんま「バットマン」と同じ内容だよなぁ(笑:さらにいえば今作の音楽は「バットマン」のダニー・エルフマンが担当)。「ダークマン」はライミの本当の趣味(=彼自身、低予算でウケる映画を作るためにホラーに手を出しただけのことで熱心なホラーファンではなかったそうだ)と映画監督として必要な資質(=映画は人物の内面が語れないと薄っぺらいものになってしまう)が初めて表現された重要な作品だと言えるだろう。勿論、彼もこのとき「スパイダーマン」を演出することになるだろうとは夢にも思ってないし^^


 「ダークマン」は世界的にはそこそこヒットしたものの(=ライミが演出してない続編が2本も作られたがダメダメとの噂で筆者は観る気なし)以降サム・ライミは「死霊のはらわた」シリーズ第3作「キャプテン・スーパーマーケット」、マカロニウエスタンへオマージュを捧げた「クイック&デッド(いま思えばラッセル・クロウレオナルド・ディカプリオも出てる)」を手掛け・・・突如「シンプル・プラン」、「ラブ・オブ・ザ・ゲーム」そして「ギフト」と段々まともな映画を撮るようになりファンを困惑させる。これは念願の「スパイダーマン」監督の座を勝ち取るため、スタジオのお偉いさんを説得できるようスターへの演出力を鍛えるための修練だったそうで・・・その努力が実ってよかったよかった^^


 学生時代のスピルバーグがしれっとスタジオに通いつめて演出家としての契約を結んだ話は有名だが(「激突!」以前には「刑事コロンボ」の1挿話を演出)、サム・ライミも映画監督になるべく努力し、さらに自分の作りたい作品を手掛けるべく精進を重ねた。日本の映画監督もある程度、ヒット作が作れないと「持ち出し」も多いし、年収もサラリーマン並だという。「映画監督」とは・・・いやはや大変な職業だ。