其の276:人間の暗黒面・・・「肉体の悪魔」

 「ザ・フライ」、「裸のランチ」ほかで知られるデビッド・クローネンバーグの新作「イースタン・プロミス」(’07)を観ました。イギリス・ロンドンに移民したロシアン・ギャングたち(注:本来「マフィア」は伊・シチリア島出身のみを指す言葉)を描くクローネンバーグ版「ゴッドファーザー」!彼の作品だけに作風は<重厚>、殺しの場面はいつものように<エグい&モロ見せ>です(苦笑)。タイトルは英国内の東欧組織による人身売買契約を意味する言葉で、ようは貧しい国の少女たちをロンドンに連れて行く代わりに売春を強要するというもの。筆者もロンドンに行った事があるが、この街にもそんな闇があったのね(怖)!
 主役の移民ロシア人にはクローネンバーグの前作「ヒストリー・オブ・バイオレンス」(’05)にも主演したヴィゴ・モーテンセン。一般の人には「ロード・オブ・ザ・リング」のアラゴルンのイメージなんで、「ヒストリー〜」に続いてまたまたショック受けるかもしれないけれど(全身刺青だらけだし)、昔はこの人悪役多かったですから!共演者としてナオミ・ワッツヴァンサン・カッセルも出てます(ヴァンサンの役はゲイでインポの組織のメンバー:爆笑)。前作ほどの傑作ではないけれど、大変奥の深い映画です^^
 劇中、サウナにいたヴィゴが殺されかけるアクション・シーンで、彼のチ●ポがちらちらとボカシなしで映るけど・・・いいんか、映倫オリバー・ストーンの「エニイ・ギブン・サンデー」も黒人のデカ●ンにボカシがなかったが、ジュニアも解禁されたのだろうか??とにかくクローネンバーグファン、ヴィゴファン、そしてスクリーンで堂々と男性器が観たいというスケベな婦女子の方は是非、劇場に足を運んで下さい^^。ちなみに<18禁>ですから、ご注意あれ(笑)!


 
 そして、重厚つながりでヘビーな作品をもう1本(本当はこっちが本題)。ケン・ラッセルの「肉体の悪魔」(’71)です。ちょっと映画に詳しい人はジェラール・フィリップの出演作、インテリはフランスの作家ラディゲの小説だと勘違いしそうですが、あくまでケンちゃんの映画の方ですのでお間違いなきようお願い致します^^
 17世紀のフランス、地方自治体制を行う小村ルーダン。司祭グランディエ(リドリー・スコットの「グラディエーター」が遺作となった名優オリバー・リード)は、神に仕える立場でありながらも、そのセックスアピールによって様々な婦女子と不適切な関係をもつ男。だが、村の自治性維持を主張する彼は村人の尊敬を集めている。
一方、身体に障害のある(=せ●し)尼僧長ジャンヌ(「欲望」、「オリエント急行殺人事件」のヴァネッサ・レッドグレイヴ)は禁欲生活の中で、まだ面識のないグランディエの姿を夢想して過ごしていた。そんなある日、彼が村の可憐な娘と結婚したと伝え聞いたジャンヌは激高!他の神父に「グランディエに犯された」と嘘をついてしまう。それを知ったリシュリュー(←「三銃士」で御馴染み)はフランス全土統一の野望を果たすべく、それを理由に「目の上のたんこぶ」グランディエを排除しにかかる。こうして、見るもおぞましい「悪魔グランディエ」への悪魔払いの儀式が始まった!
 実際にフランスで起こった事件に基づくオルダス・ハックスレーの「ルーダンの悪魔」と、それを戯曲化したジョン・ホワイティングの「悪魔たち」を原作にケンちゃん自ら脚本も担当(ゆえに原題も「悪魔たち」。邦題はどっから来たんだ?)。後年の「リストマニア」とは全く違うどシリアスな作風で、人間の心境の変化や創作の奥深さも感じられる(笑)。
 「映画で人生を無駄にしたくない。でも、私の映画は別。見る価値がある。」と豪語するケンちゃんだが、今作に関しては・・・この大胆発言も許されるだろう。ジャンヌは尼僧なのに悶々としてオ●ニーするし、<悪魔祓いの儀式>は・・・本当に凄いのだから(驚)!!メル・ギブソン監督作「パッション」での<キリスト鞭打ちシーン>はすさまじかったが、グランディエが受ける拷問もエグい(最後は●●●●)!おまけに尼僧たちは全裸で乱れまくり、レズりまくり!画面全体から異様なパワーが発散される。公開当時「英国映画史上で最も凶悪な作品」と非難されるだけの事はある(そのため国内の地方都市での上映は禁止、アメリカではソフトなバージョンが公開されるハメになったそうな。そして日本ではほとんどポルノ扱いされた。チャンチャン♪)。
 粗筋に書いた通り、今作には「人間の心の暗黒面」、「人間と宗教(ここでは無論、キリスト教)」、「中央と地方政治」などの現代にも通じる要素が含まれているが・・・下手に宗教の事をここで書くと、このブログが炎上するので(苦笑)・・・まぁ、とにかく作品を観てください(二十歳以上限定)^^!この世でなにより恐ろしいのが人間(「嫉妬」そして「集団心理」)だという事がよく分かりますよ。
 性描写の過激さもさることながら「特筆」すべきは「美術」!「テンペスト」や「カラヴァッジオ」の監督作で知られる故デレク・ジャーマン(=ゲイ)が手掛けたもの。60年代半ばから画家、舞台美術家として活躍していたジャーマンを映画界にスカウトしたのがケンちゃんなのだ(翌年のケンちゃん監督作「狂えるメサイア」にも協力)。おそらく時代考証に完璧にはのっとっていないと思うが、17世紀当時のキリスト教世界を美術面でも重厚に補強している(何故かエクソシストの「衣装」は、ほとんどロック・ミュージシャン:笑)。


 さて、次回は難解な映画特集でもしようかしら?「ドニー・ダーコ」や「TAKESHI’S」とか(嘘、嘘)。